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第168話 ビッグシスタープリンセス

俺と斉藤が対峙する双方の間に割って入ると、一瞬どちらからも怪訝そうな表情をされた。が、すぐに先遣隊のアナント隊長は、あっ、という表情となる。


「彼等が?」


「はい、我々がここで遭遇した魔族の集団です」


アナント隊長はそう言うと、後はお任せしますとばかりに後方へ引っこんでしまった。まぁ、そのために来たのだからいいのだが、ちょっとあからさまに過ぎないか?


「俺はこの集団を率いているリュータ・ヒジカタという者だ。あなた方は魔王国軍ではないという事に間違いないのだな?」


俺はハグレ魔族集団の女リーダーにそう切り出した。


「その通り。私は人狼のマチルダという。私達は全員、魔王国もしくは魔王国軍の軛から脱した者だ。有志連合軍と事を構えるつもりはない」


「そうか、なら俺達もあなた方をどうこうするつもりはない。ただ、俺達は北の精霊樹へ向かう途中でキャストン市に立ち寄っている。これからこのキャストン市には有志連合軍と戦兎族からなる集団がやって来るんだ。勝手言って申し訳ないのだが、2日くらいで出て行くから、その間双方の感情的な問題で不測の事態が起きないようにどこかに身を隠していてくれないだろうか?」


「そうか、わかった。私達は降伏も武装解除もしなくてもいいのだな?」


「こちらとの接触を避けてくれるのなら、それで構わないよ」


魔族集団の女リーダーであるマチルダさんは俺からの申し入れを受諾し、双方が対峙する事態は解消された。


「神使様、有難う御座いました」


アナント隊長はそう言って礼を述べる。


「お疲れだったな。この件は双方不接触不干渉という事で話が付いたと、アンドリューに伝えてくれないか?」


俺はアナント隊長を労うと同時にアンドリューへ問題解決と不接触不干渉の徹底を伝えるよう頼んだ。


そうして先遣隊が伝令としてアンドリューの元へ向かうと、斉藤がハグレリーダーのマチルダさんを連れて来た、否、連れられて来た。


「おい、リュウ、こちらがお前に話があるようだ」


斉藤は実に嫌そうな、忌々しそうな表情でハグレリーダーのマチルダさんに向けて顎をしゃくった。俺にはわかる、というか知っている。マチルダさんは斉藤が苦手とするタイプの女性だという事を。


斉藤はこの手の勝気で男勝りの強い女性や女の子が苦手だ。嫌いとか蔑視しているとかではない。苦手なのだ。


これは中学生の頃の話なのだが、斉藤が生徒会長に立候補した際に対立候補となった女子生徒がいた。それ以前、斉藤が副会長を、その女子生徒は会計をしており、2人は仲が良いという訳ではなかったが、悪い訳ではなく、協力し合って生徒会長を支えて生徒会を運営していたのだ。


しかし、生徒会役員の選挙に際して斉藤が生徒会長に立候補するや、その女子生徒も生徒会長に立候補したのだ。


選挙戦は熾烈を極め、対立候補の女子生徒は斉藤の選挙公約や学則の解釈、部活動の予算配分について重箱の隅を突くように粗探しをし、舌鋒鋭く責め立てた。それは誹謗でも中傷でもなかったので誰にも止められず、一生徒だった俺も選挙戦を生温かく見守るしかなかったのだが。


流石の斉藤も中学2年生の頃はまだまだナイーブな子供だ。思わぬ女子生徒の裏切り(?)に狼狽えたものの、その後は体勢を立て直し、選挙も今までの副会長としての成果と俺と組んでのイジメ撲滅の実績から元々評価の高かった斉藤が圧勝した。


しかし、あの選挙戦が斉藤に与えた影響は強く、以来、斉藤は勝気で男勝りの強い女子がすっかり苦手になってしまったのだ。まぁ、奴が元々の好きな女の子のタイプが『あの花』のめんまちゃんだからな。


だが、俺は知っていた。実はその対立候補となった女子生徒が斉藤の事が好きだった事を。そして斉藤の横に並び立つために選挙戦で敢えて斉藤に挑んだ事を。


まぁ、その女子生徒は選挙戦後には斉藤に並び立てる女子として斉藤に認められ、以前より距離を詰めて彼女へ、という筋書きだったみたいだが、どうも方法と程度を間違えたようだったな。


という事で、今回もおそらく斉藤はマチルダさんに何かの事で問い質され、若しくは粘着されたかで俺に助けを求めたのだ。それくらいなら幾らでも助けてやるさ、友達だからな。


「何だろうか?俺で答えられる事なら何でも訊いてくれて構わない」


「ありがとう。さっきあの男からあなた方がサラクーダ市から来たと聞きました。それで尋ねたいのだけど、サラクーダ市は今どうなっているの?」


いや、斉藤よ、それぐらい教えてやれよ。苦手とか、それ以前の問題だ。


「サラクーダ市は魔王国軍に占拠されて、市民達は殆ど殺されていた。俺達は市に駐留していた魔王国軍と戦って、まぁ色々とあったが、連中をほぼ全滅させた」


「それで、囚われていた者達はどうなったの?」


「生き残りはこちらで保護している」


なかなかもどかしいな。この女性の訊きたいたい事はこんな事じゃないだろう。


「回りくどい尋ね方はやめましょう。もっと訊きたい事があるのでしょう?」


マチルダは一瞬顔を顰めると、一度深呼吸をしてから「良し」と一人呟いた。


「ありがとう。では率直に伺うわ。私は黒狼族という部族の人狼で、サラクーダ市には多くの黒狼族の者が囚われていたの。私もその中の一人だったのだけど、父が態と暴れて逃してくれて。だからあなた方がサラクーダ市を攻めたっていう時、黒狼族の者達はどうなっていたの?」


「気の毒だが、俺が角を除去して保護した数人を除いて殆どが分体にされていたよ。そして、分体は元が何であれ全て殺した」


「そうですか。でも助かった者がいたなら良かった」


マチルダは悲しげに下を向いたが、ハッとしたように顔を上げると再び口を開く。


「それでは、あの、分体の中に一際大柄で強力な個体があったかと思うけど、それは誰が仕留めたの?かなり強かったはずだけど」


それはギュンターが倒した元族長の事だな。確かに強かったな。


「その分体はサラクーダ大学の地下5階にいた。かなり強力だったが、ギュンターが倒した」


「えっ!ギュンター!?ギュンちゃんがいるの?ギュンちゃん、生きてたんだね」


マチルダは俺がギュンターの名を出すや、大きく目を見開いて、小鼻を広げて俺の両肩をむんずと掴んで迫って来た。顔、顔近いんですけど。


かと思えば、俺を掴んでいた肩を突き離し、身悶えるように両腕で自らを抱きしめると、一人で何やら喋りだしたぞ。


「あぁ、ギュンちゃんが生きていたなんて。お父さんありがとう。お姉ちゃん超嬉しいよ!しかも分体にされたお父さんをギュンちゃんが倒したんだね。強くなったんだねギュンちゃん。きっとお父さんも本望だよ」


俺と斉藤はこの想定外の状況に呆気に取られてしまった。が、だからといってこれを見続ける訳にもいかず、


「こら、そろそろ戻って来い」


「あ痛っ!」


俺が呼びかけて頭に軽くチョップするとマチルダは我に帰り、今度はあわあわし始めた。


「す、済みません。ギュンターは私の弟なんです。私達、魔王国軍に離れ離れにされちゃってて。ギュンター、ギュンちゃんはどこにいるの?」


そう言うとマチルダは背伸びをしたり身を屈めたりして辺りをキョロキョロと見回し、ギュンターを探し始めた。そこにはアナント隊長を前に一歩も引かない毅然としたハグレのリーダーの面影はなく、ただ弟を想うブラコン姉がいるばかりだった。


なんか、もしかしてちょっと残念な女性(ひと)なのかもしれないな。


いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに!


フォーリー軍曹

「どのクラスにも俺よりも賢いと思っているふざけたやつがいるのさ。このクラスではお前が俺より賢いと思っているだろ、マヨネーズ?」


『愛と青春の旅立ち』より


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