第166話 行く川の流れ、のすぐ横で
ソラ「やあみんな、久しぶり。アーニャ様付き猫娘のソラです」
リエ「や、みんな。同じくリエよ」
アイ「ヤッホー、みんなぁ。アイでぇーす」
ソラ「私達はアーニャ様と4人で「CO2ニャルコーシス」っていう猫獣人アイドルユニットを組んでいるんですけど、動画配信とかで結構人気なんですよ」
リエ「この間は故郷の鱒料理の調理動画を配信したしね」
アイ「ねぇ、今度水着とかどう?」
ソラ・リエ「「それ絶対ヒト族雄のみんな釘付けな奴じゃ〜ん」」
ソラ「CO2ニャルコーシスの快進撃は続きますのでよろしくって事で、『魔法修行者の救国戦記』スタートです!」
チュン、チュン、ピピピピッ、ピーピュルピュル
鳥達の元気な鳴き声に空を見上げると、朝の日差しが木漏れ日となって降り注ぐ。俺の傍には、まだ眠いのか、ふわぁ〜と欠伸をするエーリカと、そんなエーリカを見てクスッと笑うフレデリカがいる。
こう表現すると、二人相手に夜を頑張った朝チュンみたいに思われるかもしれないが、残念ながら左にあらず。俺達は今、一路アーニャの故郷であるキャストン侯爵領の領都キャストン市を目指してノービス街道を北上中だ。
〜・〜・〜
神聖パレンナ同盟軍は大汗かいてサラクーダ市を攻め落とし、魔王国軍を一人を残して全滅させた。しかし、解放すべき市民達も避難民達も魔王国軍によって根こそぎ命を奪われ、救出する事が出来たのはごく僅か。
僅かな人数の生き残り市民達にサラクーダ市の再建なんて出来ようもなく、元市自衛軍歩兵中隊長のザックさんを始め、生き残った数十名の市民達は市の再建を断念して避難民達共々俺達と共に行く事を希望した。
確かに、そこに人がいなけりゃ街は空虚な箱さ、って歌もあるしな。
そうであるならば、俺達は当初の目的地てまある北の精霊樹を目指して進む事にしたのだ。
ただ、それがすんなりと決まったかと言えばそうではなく、それなりに揉めたと言っておこう。それは、この後サラクーダ市をどうするのか?という議論があったのだ。
俺達は北の精霊樹へ向かう。生き残りの市民達も同行する。では無人となるサラクーダ市を放置したら再び魔王国軍の策源地とならないだろうか?と有志連合軍サイドから疑念が呈された。
俺は放っておいて構わないと思うのだが、それだけ有志連合軍の面々にとって魔王国軍の侵攻とサラクーダ市の裏切り行為が与えたトラウマが大きかったと言えよう。
無論、有志連合軍の全てがそう思っている訳ではないだろうが、派遣隊司令であるアンドリューを含む幹部達からそのように言われたら無視は出来ない。
ただ、じゃあどうすんのよ?って話なんだけど。攻略したサラクーダ市を俺達で維持し続けるなんてのは本末転倒なので却下。少数の部隊を市の監視に残すなんてのも同様。
そもそも俺達は戦兎族にあった大精霊のお告げにしたがって北の精霊樹に向かわなくてはならないのだ。そうした事で戦兎族のグレンダ女王などはそんなの放っておいて早く北の精霊樹へ行きましょうよというスタンスを崩さない。
なので、ここに来てのまさかの神聖パレンナ同盟瓦解の危機か?という状況となり、有志連合軍の幹部連中は散々引っ掻き回してくれておいて、何とあんたが決めてくれてばかりに俺に丸投げしてきたのだった。
戦兎族は大精霊のお告げにより部族を挙げて俺達を迎えに来た。彼等の本拠地には残してきた同胞と戦兎族と同盟してその麾下にある幾つもの獣人の部族が待機しているという。もう初めから北の精霊樹に向かう流れが出来ているのだ。
俺達にしても元の世界に戻るため、その可能性がある北の精霊樹に行く事は極めて重要だ。
ならば俺達にとっても、戦兎族にとってもサラクーダ市は最早何の意味も無いし、サラクーダ市に固執して俺達の足を止めるというなら残念ながら有志連合軍とはここでお別れという事になろう。
「俺は北の精霊樹に向かう。戦兎族にあったお告げは俺と森の民を北の精霊樹へ導けというものだ。ならばきっと森の民の運命に関する何かがそこにあるのだ。占領したこの都市を再び魔王に渡したくないと思う者は残ればいい。強制はしない。俺達は北の精霊樹へ行くため明朝ここを発つ。以上だ」
昨夜、俺はそう自分の意思を関係各位に伝えた。結果として有志連合軍も共に北の精霊樹を目指しノービス街道を北上している。
〜・〜・〜
アーニャによればサラクーダ市とキャストンとの交通は二つの方法があり、一つはノービス川を船で行き来する水路であり、もう一つはノービス川に沿うようにやや内陸部を北に伸びるノービス街道を行く陸路だ。
エルム大森林の民達にとりどちらの利用が多いのかといえばノービス川の水路だ。俺の育った地元の話でナンだけど、小江戸と呼ばれた川越と江戸の往来は川越街道と新河岸川を利用した水運があったが、物流の主役は水路だったそうだ。今じゃ河川改修で水量減って見る影もないけど。
話は逸れたが、陸路の街道は内陸の部族が専ら利用していたそうだ。今回、俺達はこの陸路を使用してまずはキャストン市を目指す事になる。
水路が利用出来れば良かったのだが、おそらく船乗りもサラクーダ市で魔王庫軍に殺されてるだろうし、そもそも船も港ごと俺達自身の手で焼き払ってしまっていたりする。仮に船があったとしても船乗りがいない以上本格的なロングシップなんて素人が運用出来るもんじゃないからな。
〜・〜・〜
「…ねぇリュータ。キャストンに着いたら母のお墓参りに行きないのだけど、いい?」
ノービス街道を北上する事一週間。キャストン市の手前の自治都市ブレンズマック市に到着した。ブレンズマックからキャストンまで水路で半日、陸路だと2日だという。
ブレンズマック市も川沿いの街だ。俺は一人、夕焼けに染まるノービス川の水面を川港の桟橋から見ていると、アーニャが後から来てそう言った。
「勿論、じゃあ俺も一緒に行っていいか?」
「いいけど、どうして?」
「そりゃあ、アーニャのお母さんは俺の母親だしな。ちゃんと挨拶したいんだ」
アーニャは「…リュータ、ありがとう」と言って俺の腕に抱きついた。
「アーニャのお母さんはどんな女性だった?」
俺がそうアーニャに尋ねると、アーニャは少し考えて口を開いた。
「優しくって綺麗な人だった。私は父に似ちゃったけど、兄と妹は母似。特に妹のターニャなんかお人形みたいだった。母は美人薄明って言うのかな?私が12歳の頃に病気で亡くなったの。私達兄妹も悲しかったけど、父は母にベタ惚れだったから本当に辛そうだった。今も「アリシアよりいい女はいない」って言ってる」
最後の下りは俺も聞いた事がある、というか何度も聞かされた。アースラ諸族連合最高評議会の会合、の後の懇親会、という名の飲み会で酔ったアルベルトさんが「リュータ、アーニャを頼むぞ」と絡んで来て、最後はいつも奥さん自慢となり、恐縮する息子のバローニに連れ帰って貰っていた。
アルベルトさんは今も亡くなった奥さんを今も想っていて、奥さんの生前から他の女には目もくれないほどだった。そんな一人の男に愛され続けたアーニャの母親、アリシアさん。アリシアさんから見たら、アーニャの他にも恋人が6人もいる俺などはふざけた女ったらしのように見えてしまうのではないか。
勿論、7人も恋人がいるからといって俺は決していい加減な気持ちではないし、みんな自分の命より大事な大切な女性達だ。
「私の両親がそうだからといってリュータは何も気にする必要はない。誰かが誰かを好きになるなんて人それぞれ。私はリュータと出会えて、リュータを好きになって恋人になれて本当に良かったし、幸せ。リュータはどう?」
俺の思いが表情に出ていたものか、女の勘が働いたものか、アーニャは俺の腕に抱きついたまま上目遣いに言った。
「俺もアーニャに出会えて、アーニャの恋人になれて本当に良かった。アーニャは俺の恋人なんだぞーって叫びたいくらいだよ」
「フフッ、そうなの?だったらお母さんのお墓参り、私の恋人として堂々と胸張ってね?」
俺が任せておけと返事をすると、俺を見上げるアーニャと目が合う。アーニャは瞳を閉じて心持ち顎を上げ、その形の良い唇に俺はそっと自分の唇を重ねた。
すっかり日が落ちた宵闇の中、腕を解いて俺の背中に両手を回したアーニャを抱きしめ、俺達は尚も互いの唇を貪りあった。
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それでは次話もお楽しみに!
《あなたは臆病者ですか? ではあなたには用はありません。 われわれは勇敢な男性を必要としているのです。 あらゆる武器に熟達、 不撓不屈の勇気、 顔形はハンサムなこと。 永久雇傭、 非常に高給、 輝く冒険、 大きな危険!》
ロバート・A・ハインライン『栄光の道』より




