第165話 (青い)炎の遺したもの
10万人分の魂だという巨大な青い炎が床上の魔法陣に吸い込まれて消えると、光源の無くなった地下5階の空間は忽ち真っ暗になった。
俺は取り敢えず光魔法で光球を浮かべて周囲を照らす。見れば、他にも幾つかの光球が浮かんでいるので、エーリカやフレデリカも照らしてくれているのだろう。
それから、俺がまずやらなければならないのはギュンターの心のケアだ。何と言ってもギュンターは実の父親と殺し合いを繰り広げたのだ。放っては置けない。
ギュンターは光球が照らす薄暗闇の中で、分体となった父が燃え尽きた灰を一人佇んで見つめている。
「おい、ギュン「ギュンちゃん!」
俺がギュンターに声をかけようとしたところ、別の誰かが俺の声に被った。見ればこちらに駆け寄った人影?人狼影?がある。声は女の子の物だったが、ギュンターを心配して身体をまさぐるようにして怪我の有無を確認しはじめた。
「ギュンちゃん、大丈夫だった?怪我は無い?」
それは、人狼の女の子だ。人狼の姿なので顔や表情はまではわからないものの、声に聞き覚えがある。恐らく地下1階を検索した時に出くわした人狼の女の子だ。
「よせよ、怪我なんかないって」
「だって、」
「…」
俺の視線に気付いたのか、ギュンターはバツの悪そうな表情(多分)をすると、この事態に至った説明を始めた。
「あの、リュータ様、分体にされていた父を倒す事が出来ました。僕には怪我はありません。」
「ギュンちゃん、本当?」
「本当だって。あっ、この娘は僕の乳兄妹で幼馴染のレイチェルです。何か、心配してくれたみたいで、」
「リュータ様、レイチェルです。ギュンちゃんがいつもお世話になってます」
父親と殺し合ったギュンターのケアに来たら、世話焼き幼馴染とイチャイチャするギュンターを見つけてしまった、どうしよう?
どうも俺の出番はここには無いようだ。まぁ、別にいいのだけど。
「ギュンター、怪我が無いようで何よりだ。辛い事があれば言ってくれよ?」
「は「はい、リュータ様。ギュンちゃんの事は私にお任せ下さい」
「何でレイちゃんが僕より先に言うんだよ!」
「えぇ〜、駄目なの?」
うん、本当、これは心配しなくても大丈夫な奴だ。
「じゃあレイチェル、後は頼む」
「はい、リュータ様。任されました」
誰に教わったものか、レイチェルは人狼の姿で挙手の敬礼をする。しょうがないので俺も答礼。去り際に俺はギュンターの側近であるバールと目が合うと、バールは僅かに肩を竦めて見せた。それを敢えて言語化するならば「ヤレヤレ処置なしでさぁ」といったところだろうか。
〜・〜・〜
10万人分の魂の塊はすっかり魔神の元へ送らせてしまったが、これでサラクーダ市の攻略は終わった。
この戦い、何を目的として始めたかと言えば、魔王国軍に囚われた市民達と占領された市を解放するためだった。途中途中でプラントモンスター破壊や角型寄生体生産の阻止などサラクーダ市の実態を知るにつれ新たな目的が増えていったが、解放すべき市民達や避難民達はとっくに魔王国軍によって魔神への贄にされ、結局俺達が救出出来たのは26人だった。
俺達の世界に散々送り込まれた魔物の生産施設を破壊したり、攻略の途中で魔王や魔神、この世界の神話についての情報を得る事が出来たり、魔王国の高位魔術師共を始末したりと副次的な収穫は多々ありはした。しかし、魔王国軍にとってはこのサラクーダ市も出先機関の一つに過ぎず、魔神復活のためのエネルギー(魂)集めという奴等の目的は達成されているのだから、結局のところ、この戦いは俺達の負けだ。
「なぁ、サキ」
「はい」
「この戦い、試合に勝って勝負に負けたって感じだな。殆ど救けられなかった」
俺は階段を地上目指して登りながらそんな事を考え、俺の後ろを歩くサキに思わず愚痴ってしまった。
「リュータ、元気出して下さい。最善を尽くしてやるべき事はやったんですから」
そう言ってサキは俺を慰めてくれた。俺は別にしょげている訳じゃないけどな。
「リュータ、私はいつでも何があってもリュータの味方ですからね」
そう言ってサキは俺の手を両手で取って握りしめる。足を止め振り向いて見ると、俺を見つめるサキと目が合った。はぁ、サキは可愛いなぁ、本当癒される。
「…サキ」
「…リュータ」
「先輩!サキちゃん!何二人で雰囲気出しちゃってるんですか!」
まぁ、当然すぐ後ろの舞にバレて、この後はお約束の展開になり、皆それぞれと様々な約束をする結果となった。それはそれでいいんだけど。
「ハーレムキングは大変だな」
俺の横に来た斉藤が呆れ顔で言い、俺の返事を待たずに話を続けた。
「しかし、10万人分の魂というのは凄かったな」
どうもハーレムネタで俺を揶揄うのが目的ではないようだ。
「あぁ、既の所で魔神に送られちまったがな。だけど魔術師を始末して魂送りを阻止したとしたら、俺達はあの魂をどうすれば良かったのだろうな?」
あの青い炎が残ったとしても、俺達にはどうする事も出来ないし、神ならぬ身なれば死んだ人達を蘇らせる事も、異世界に転生させる事も出来ないのだ。
「そうだな、あの魔法陣から解き放って行くべき所に行かせるしかないんじゃないか?」
それがいいのかどうかはわからない。ただ、あの10万人は当然ながら自分達が理不尽に文字通り命を奪われた事に対して怒りや恨み、無念さを抱いたはずだ。そうした魂、御魂はそのままであったならば怨霊となってしまう。もしそうなったら御霊として祀るとか、それで駄目なら封じ込めるとか、何かしら措置をとらなければならない。
10万の怨霊とか、恐ろしい限りだ。いや、もしかしたらそうした怒りや怨みといったマイナスの感情も魔神復活のエネルギーになるのかもしれない。
そうして縦坑の階段を登っているうちに俺達は地上階へと辿り着き、日差しの眩しさに目を眇めた。
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それでは次話もお楽しみに!
美翔舞「この星空は、星たちが生きている証。まるでわたしたちみたい。顔も性格も、考えていることも全然違うけど、みんな一生懸命生きて輝いてる。わたしたちひとりひとりが星なのよ。」
『ふたりはプリキュア スプラッシュスター』より




