第163話 地下室の9人の魔術師
竜太「やあみんな、土方竜太だ」
エーリカ「ねぇ竜太、こっちの世界にも水竜がいるのね、知らなかったわ」
竜太「こっちの世界ではいるのか、いないのかわからないんだよね」
エーリカ「じゃあ、このネッシーとかイッシーとかクッシーとかヨッシーとかは?」
竜太「最後の奴は明らかに違うけどね。いたらいいなぁ、夢があるなぁって存在かな」
エーリカ「つまんないの。あっちの世界じゃ海や湖には大抵いるんだけどなぁ、という事で『魔法修行者の救国戦記』スタートよ!」
竜太「でもジャノはいるかもしれないよ」
俺達を包囲しようとしていた分体は全て殲滅した。人狼の能力を引き継いでいたたけあって凄まじい戦闘力だったが、ギュンターによればその中にギュンターの父親と姉はいなかったという。
「父は人狼の中でも一際大柄で膂力も人一倍あったんです」
「大柄ってバールよりもか?」
「はい」
バールは族長の息子であるギュンターの守役をしている青年だ。少し小柄なギュンターと大柄で体格に恵まれたバールは、側から見たら牛若丸と弁慶のように見える。実際、バールのギュンターへの忠誠心は並のものではない。
「あの分体の中には父の体格ほどの者はいませんでした」
「じゃあ、姉上がいなかったというのは?」
「姉は体格は私とさほど変わりませんが、加速力は黒狼族の中でも一二を争うくらいでした。そのような分体もあの中にはいませんでしたし」
「そうか、二人とも無事だといいな?」
「はい…」
こうした会話を交わしつつ、地下5階の奥へと進む。
〜・〜・〜
進むにつれ暗闇の向こうに淡く青い光が見えてきた。どうもあそこが俺達の最終目的地らしい。青い光源は何なのか、ここからでは熱も魔力も感じとる事が出来ない。
そして青い光源の部屋に至ると、そこは体育館くらいの広さ、高さの空間であった。室内は青い光で満ち、部屋の中央の床には縦坑の底にあった魔法陣と同じ物(多分)が描かれている。その上に天井まで届く程の巨大な青い炎がゆらゆらとたゆたっていた。
(この炎からは全く熱を感じない)
更に室内に踏み込むと、炎の前に複数の人影がある事に気付く。人影はよく見ると10人。一際大柄な影を除き、背の高さは大小あるものの皆黒いローブを纏ってフードを頭にすっぽりと被り、青い炎に向かって何やら呪文を唱えている。
この9人が魔術師で間違い無いだろう。この巨大な青い炎が何であるのか知らないが、雰囲気的に何らかの儀式の最終段階といった感じだ。
すると、魔術師団の中心にいた人物がこちらに振り向くと、ゆっくりと被っていたフードを取り払った。
「貴様等がここまで来たという事はアルメウス公爵は敗れたか。だが、この魂炎を魔神様の元へ送る魂送りの儀も間も無く終わる。異世界からの神使よ、一足遅かったようだな」
嗄れた老人のような声の主。青い炎に照らされた顔は頭髪の無い老人のもの。そしてその額には左右に一対の角が生えている。どうやら鬼族の魔術師のようだ。俺がここに来る事は予め知っていた口振りだ。
この老魔術師、例によって訊いてもいないのにベラベラと喋ってくれたから、この巨大な青い炎がエルム大森林の住民達の魂、その塊である事が知れた。まぁ、何となくそうなんじゃないかなとは思っていたがな。
俺は念話で皆に魔術師団への攻撃を命じる。
"みんな、魔術師を殺るぞ、一人も残すな"
その返事は念話ではなく、炎の前に立つ魔術師団へ放たれる無数の魔法攻撃としてなされた。
風刃、水刃、氷槍、火球、光の矢、振るった刃から放たれる斬撃
次の瞬間、魔術師団は俺達が放った魔法攻撃を浴び、声も無くバラバラの肉片となって床上に散らばった。
だが、攻撃が止むと一際大柄な影が傷だらけとなりつつも仁王立ちで残っており、その背後に鬼族の老魔術師がいた。
「皆死んだか。だが儂一人でも儀式は続けられる。ガダルよ、時間を稼げ」
ガダルという名を聞き、黒狼族の人狼達の間に動揺が走る。
ガダルと呼ばれた分体はずいっと一歩前に出ると、攻撃にかかろうと身を屈める。すると、一瞬にしてその姿は消え、いや、加速して俺に向かって突っ込んで来た。俺は咄嗟に電磁バリアーをすぐ前に展開、ガルダは次の瞬間にはバリアーに弾かれて後方へ跳ね飛ばされた。
その攻撃は加速に魔法によって強化された膂力と体重が乗ったショルダータックルだった。俺の電磁バリアーの展開が一瞬早かったのでこちらは無傷だが、間に合わなかったらそれは猛スピードのダンプカーに突っ込まれるようなものだ。俺達は成す術もなくボーリングのピンよろしく薙ぎ倒されていただろう。
そんな分体など無視して魔術師を殺ってしまえ、とは出来ない。電磁バリアーに弾かれた分体は再び一人で魂送りの儀式を続ける魔術師の盾となって守っている。最初の攻撃で出来た傷は既に跡形も無い。
そして、あの分体の加速と攻撃力。こちらが何かを仕掛ければあの分体は加速し、一瞬で先程のような攻撃を加える事だろう。それに対して俺はバリアーを展開しなければならない。俺達の中で最大戦力である俺は、あの一体の分体によって牽制され、事実上動きが封じられている。
さて、手詰まりだが、どうしたものかな。
意思疎通が出来ない分、あの分体はアルメウス公爵よりも難敵だ。
と、そこでギュンターからの念話が伝わる。
"リュータ様"
"どうした?"
"あの分体はガダルと呼ばれていました。そして僕の父の名もガダルです。父は加速と体格、魔法で強化した膂力を組み合わせた肩からの体当たりが得意でした。間違いありません。あの分体は僕の父ガダルです"
ギュンターの父、黒狼族の族長。侵略戦争に反対して魔王に堂々と抗議した硬骨漢。それが今や分体にされ、息子や部民の敵としてサラクーダ市攻略の最後の最後で俺達の前に立ち塞がっていた。
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それでは次話もお楽しみ!
スネーク・プリスケン
「Call me Snake. (スネークと呼べ)」
『ニューヨーク1997』より




