第160話 魔女っ子アンリ・ミテッド
竜太「やあみんな、久しぶり。土方竜太だ」
エーリカ「ねぇリュータ、この前食べたミリンボシだっけ?あれまた食べたいなぁ」
竜太「味醂干しか、美味いよな。さてはエーリカ、嵌まったな?」
エーリカ「嵌まったも、大嵌まりよ。ミリンって偉大な調味料よね」
竜太「よし、今度はくさやにも挑戦しよう、という事で『魔法修行者の救国戦記』スタートだ!」
エーリカ「じゃあリュータにもエルフの発酵食品を食べさせてあげるね?スティンクっていう結構臭いがキツい魚塩漬けなんだけど、」
竜太「…」
「こいつが捕虜?」
俺達が急いで地下4階へ行くと、そこいら中が干からびた分体の死体だらけだ。一体ここで何があったのだろうか?
そして、武田少尉らと合流すると一人のちびっ子魔術師が上半身と両腕をロープで縛られ(胸を強調する緊縛方法には非ず)、更に両手も後ろ手に縛られて床上に座らされていた。
「はい、自分とオスカーが検索中に発見しました。机の下に隠れておりまして、額に角があったので拘束しました」
発見者である大沢軍曹が発見状況を簡潔に説明した。
「尋問はまだしていません」
俺がどの辺りまで情報を聞き出しているのか訊こうとしたら、すかさず武田少尉が答えた。これは正しい判断で、角がある奴を下手に問い詰めてしまうと、角の裏切り防止機能が作動してアナーベルのように体内から燃えて死んでしまう。
「了解した。適切な判断だ」
「はっ、有難う御座います」
では、本来なら「鳴かぬならなら殺してしまえ小娘を」となるべき運命なこの魔術師(仮)っ子。だがしかし、つい先程から俺達には寄生する角を安全に取り除く技術がある訳ですよ。
俺は足を開いて捕虜にした魔術師(仮)っ子の正面にしゃがみ込むと、顔を伏せている魔術師(仮)っ子の下顎を右手の人差し指でクイッと上げて上を向かせた。
魔術師(仮)っ子はいきなり顔を上げられて驚いて興奮したのか、俺の顔を見ると目を見開き両頬を真っ赤にすると顔を背けた。
「俺は土方竜太という。サラクーダ市を攻めている戦闘集団を率いている。君の名前は?」
「アンリ、アンリ・ミテッド」
魔術師(仮)っ子は一度俺をチラ見すると再び顔を背けてそう名乗った。
「君はヒト族でいいのか?」
「はい」
「よし。じゃあ、アンリ、その角は自ら率先して寄生させたのか?」
アンリは背けていた顔を激しい勢いで上げると、猛然と否定した。
「そ、そんな訳無い!私達魔術科の学生は魔王国軍の魔術師にゾンビにするぞって脅されて奴等に無理矢理付けられたの」
「わかった。ではその角を取り除く事が出来たら俺達に協力する気はあるか?俺達は魔王国軍に協力した魔術師は皆殺しにするつもりでいる。俺達に協力すれば命は助けてやれるが、どうかな?」
アンリは目を見開き、床上に跪いたままこちらににじり寄る。
「そ、そんな方法があるの?」
「ある。といってもついさっき確立出来たばかりだけどな。今のところ施術した全員に何ら問題は出ていない。で、どうする?」
「お、お、お願いします。何でも協力します。あいつらの為に働くなんてもう嫌なんです」
「わかった。今からその角を取り除いてやる。目を瞑っていろ」
「はい」
俺はアンリの額に左手を翳して彼女の全身と体内を見ると、やはり角から全身に呪根がはり張り巡らされていた。
「アポーツ!」
呪根を鎖に物質化すると、俺はアポーツで右手に角と鎖を取り寄せた。
「もう目を開けてもいいぞ」
サキがナイフでアンリを縛っていたロープを切ってやると、アンリは自由になった両手で額を触り、「無い、角が無くなってる」と言うや立ち上がって叫んだ。
「くたばれ魔王!滅びろ魔神!何が分体だ、誰かそんなモノになるもんか!私の魂は私の物だ!」
叫び終えたアンリはハァハァと荒い息を吐き、次いで掌を見たかと思えば、自分の身体が自分の物である事を確かめるように肩を胸を脚をペタペタと触り出した。
「アハ、アハハハ、生きてる。私、生きてるよ、うわぁぁっ」
そして、床上にペタンとしゃがみ込み、両手で顔を覆って泣き出した。
泣いている女の子を前にして、こういう時ってどうするのが正解なのだろう?
泣かしたままにしておくのもナンだし、といって恋人達が目の前にいるのに肩に手を置いたり、抱きしめたりするなんてもっての他だろうし。
結局、俺はこういう時に一番気が利くサキに目配せして泣き続けるアンリの介抱をしてもらった。
〜・〜・〜
その後、エーリカ、真琴、舞がアンリから聞き出した事によると、彼女は17歳のサラクーダ大学魔法科の学生との事。
3年前のある日からサラクーダ大学第2キャンパスの地下研究室に学生の入室が禁止されると、間も無くして魔王国軍が全世界に対して宣戦布告して侵略戦争を始めた。
それから暫くするとサラクーダ市にも魔王国軍が進駐し、サラクーダ大学も魔王国軍に接収されてしまった。
そしてサラクーダ大学の学生達は魔法科の学生以外はみんなゾンビにされてしまい、アンリ達魔法科の学生達は魔王国軍の魔術師からゾンビになるか角を寄生させて魔王のために働くかの選択を迫ったという。
勿論、誰だってゾンビになんかなりたくはない。アンリ達魔法科の学生達は皆、後者を選び魔王国軍に協力せざるを得なかった。
また、アンリによれば角には寄生されると自我が奪われてやがて分体になる物、自我はあるものの魔王国軍の魔術師の命令には逆らえず、魔王国軍を裏切った場合は体内から燃え上がって殺されてしまう物、単に裏切りや叛乱を防止するための物の3種類があるという。
魔法科の学生達やサラクーダ市の幹部達に用いられたのは2つ目の角で、アルメウス公爵に用いられた角は3つ日のものだ。
アンリは魔王国軍の魔術師から分体研究の補助を命じられ、実験や観察の記録を付けたり、実験体の世話などをしていたという。
「私が辛かったのは分体を寄生された実験体は元は私と同じ市民で、そんな人達が角に寄生されて自我を失い、身体も魂も変えられて、そして最期は変質した魂が魔神に奪い尽くされて干からびてゆく、その一部始終を観て記録しなければならなかった事でした。嫌でも角が逆らう事を許しません。私の同僚となった学生達がそれに耐え切れずに魔術師に逆らって焼け死にました。次々とです。私にはそうする勇気がありませんでした」
アンリは自分を責めるようにそう言って顔を伏せた。
「あなたはどうして一人でここにいたの?それとあなた以外の魔法科の学生はどうしているの?」
真琴の問いかけにアンリは顔を伏せたまま答える。
「私は研究補助から地上の議事堂との連絡役になりまして、議事堂から地下に戻る際に議事堂が攻撃されて。すぐに地下にも有志連合軍が来るかなと思ってここに隠れました。呆気なく見つかっちゃいましたけど。議事堂にいた学生達は多分みんなそこで殺されたと思います。他は生きていれば地下5階にいると思います」
俺は壁に寄りかかってアンリの話を聞いていた。彼女の話には嘘は無さそうだった。彼女はどうも運が良かったらしい。研究補助から
連絡役に変わり、他の補助に当てられた学生のような事にはならず、議事堂に怒り狂った戦兎族が雪崩れ込む前に地下へと向かった事で戦兎族に惨たらしく殺されずに済んだ。
「ねえ、アンリさん。分体の角を寄生されると、時間的にどれくらいで分体になって、その後はどれくらいで魔神に魂を奪われちゃうの?」
真琴に続いて舞がアンリに質問する。そこは俺も気になる所だった。
「はい、角が寄生すると大体3日で自我が失われ、4日目に身体が変化して分体になります。その後一週間で魂が変質化されて角から魂が抜かれて魔神教団の神殿に送られるそうです」
「魂が抜かれると分体の身体はこんなのになっちゃうの?」
「はい。全ての生体エネルギーまでもが魂と共に変質されて抜かれるんです。だから干からびたようになるんです」
どうな感じで魂が抜かれるのか想像するしかないが、悍ましい限りだ。そんなものを延々と観ていなければならないというのもキツいものがあるな。
「アンリ、辛かった事をよく話してくれた。約束通り君の身体、生命及び財産は保障しよう」
「ふぇ?」
そう言いながら俺はつい癖でアンリの頭を撫でてしまった。アンリはビックリしたのか再び顔を真っ赤にし、それから意を結したように口を開いた。
「お願いがあります。私を皆さんの陣にお加え下さい。家族も友達も皆魔王国軍に殺されました。みんなの仇を討ちたいんです。どんな事でもしますから、お願いします」
突然の申し入れにみんなの視線が俺に集まる。どうするんだよ?ってな感じで。
「女の子が安易にどんな事でもするとか言わない方がいい」
「は、はい」
「それはともかく、アンリ・ミテッドさん。歓迎するよ、宜しくな」
「はい、有難う御座います」
こうして俺達は分体について良く知る魔術師(仮)っ子を味方に迎える事となったのであった。
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それでは次話もお楽しみ!
「〈樺〉ヨリ発光信号!ワレ靖国ニ退避シツツアリ。貴官ラノ助力ニ感謝ス」
佐藤大輔『レッドサンブラッククロス外伝①』より




