第159話 Lying down dead
地下3階で角の宿主にされていた虜囚達、彼等の角と呪根を全て除去した。
黒狼族のアッカムによれば、黒狼族であるギュンターの父、そして姉は魔術師共に連行され、それ以降は行方不明なのだという。
俺が思うに、今まで遭遇した分体の中には黒狼族の人狼だった者はいなかっただろう。というのも、斉藤とも話し合ったのだが、分体は宿主だった者の能力を引き継いでいるようなのだ。何故なら、分体の見た目はどれも変わらないが、明らかにその能力には個体差があるからだった。
上サラクーダで早々に戦闘となった分体は高度な魔法が使えたのに対し、その後の市街戦で戦った分体は魔法が使えなかった。更に武田少尉らとの戦闘では分体は吸血鬼となった高ランク冒険者の指揮下にあって怪人ではなく戦闘員扱いだったという。
となれば、人狼だった分体は人狼の能力を引き継いでいるはずだ。人狼の腕力、瞬発力、加速能力、統率力に集団戦闘力、それに分体の驚異的な再生力がプラスされれば相当厄介な分体になるはずだからだ。
いや、待てよ。そうなると地下4階には分体化した黒狼族の人狼を宿主とした厄介な分体がいるって事にならないか?
実際、分体化した人狼にどれくらいの戦闘力があるのか知るよしも無いが、地下4階に偵察に向かわせたTチームだけでは無理があるか。
「ラミッド、ギュンター、ガーライル、地下4階に急ぐぞ」
「「「了解」」」
俺は獣人と人狼を率いてTチーム救援に向かった。
〜・〜・〜
☆武田少尉視点
土方中尉に地下4階偵察を下命され、俺は大沢、ワイルダー両軍曹とケリィ&ユリィの戦兎族ペアを率いて地下4階へ向かった。
地下へと続く縦坑の壁体に沿って掘削された階段を降る。縦坑の下を覗くと地下5階の深さの知れない暗黒の広がりが感じられる。はっきり言って不気味だ。
(正直、あそこには行きたくないよなぁ)
と、そんな事を考えていると、ケリィとユリィの囁き合う声が聞こえてきた。
「ちょっと臭すぎだよね?」
「本当、最悪!」
ケリィとユリィの言うのは地下3階から下に漂う悪臭についてだ。嗅覚の良い獣人からしたら俺達ヒト族よりもキツい事だろう。
確かにこの地下空間は臭い。地下1階は分体しかいなかったからそれ程でもなかったものの、地下2階、3階は魔王国軍に捕らえられていた虜囚達がいて、長時間に渡って監禁されていた彼等の体臭や排泄物の臭いが立ち込めていた。これは捕らえられていた気の毒な人達が発したものなので、悪臭ではあっても我慢すべきものだ。臭いと思っても態々口には出さないくらいの常識は出身の世界が異なろうが皆持っている。
だけれども、この地下4階から漂って来る臭いは特に酷い。別に耐えられない程ではないのだけど、死臭とも違う。それならこのメンバーは何度も体験しているから直ぐにわかる。腐乱死体とかの腐敗臭とも違う。ツーンとしないからね。う〜ん、何に例えたらいいのか。
強いて言うと、俺の地元の漁港でこれにちょっとだけ近い臭いを嗅いだ事がある。生乾きの干物なんだけど…
あぁ、地元の漁港の皆さん、ごめんなさい。強いて言うならば、だよ?飽くまでも。俺は地元の干物が世界一だと思っているから!
そんなこんなで遂に地下4階に到着。辺りは静寂が支配し、室内からは何の音も聞こえない。そして悪臭は明らかにこの地下4階の室内から漂って来ていた。
俺達は縦坑の壁体に開けられている引戸から室内に進入する。左回りが俺と戦兎族ペアで右回りが大沢、ワイルダー両軍曹で検索しつつ、何もなかったらそのまま合流する手筈となっている。
入口付近には何も無かった室内。内部に進む程にここが何らかの研究室であった様子が窺えてきた。更に検索を進めると、室内の床上彼方此方にこの悪臭の原因となるモノ達が見えて来た。
「これは…」
「うそっ?」
「えぇ〜!」
それらを見て思わず立ち止まった俺の背中にケリィがぶつかり、そんなケリィにユリィがぶつかる。
そこには床一面に干からびてミイラのようになった異形の骸が累々と重なっていた。俺は辺りに何の気配も無い事を確認してから、俺が唯一出来る光魔法である「光球」を出現させてこの辺り一面を照らす。
すると、その累々たる骸は干からびてガリガリになっているものの、体長は2m近く、頭部はワニ頭。そして、その額からは黒い角が一本。分体の死骸で間違い無かった。
"武田から大沢軍曹、我左回り検索中に多数の分体と思われる死骸を発見。右回りはいかが?送れ"
俺が地下4階を右回りで検索中の大沢軍曹に念話で呼びかけると、間を置かず返信がある。
"こちら大沢、右回りも多数の分体と思われる死骸を確認。更に魔王国軍と思われる女性魔術師一名を確保し捕虜とした。送れ"
やはり右回りにも分体の死骸があったか。しかも魔術師を捕虜にするとか。
"了解。大沢、ワイルダー両名はそのまま現場待機。こちらから左回りで検索しつつ合流する。以上"
"了解"
その後、左回りで検索するも新たな発見は無く、何らかの研究施設の残骸と分体の死骸が続き、やがて俺達は待機を命じた大沢、ワイルダー両軍曹と合流した。
〜・〜・〜
「こいつです」
大沢軍曹がご丁寧に捕虜の若い少女と言っていい魔術師を上半身を腕ごと縛り、且つ両手を後ろ手に縛って拘束し、跪かせていた。
その魔術師(仮)の少女はベリーショートにした若草色の髪で、色白のいかにも頭が良さそうな整った顔をしている。可愛いというよりも美人よりで、歳の頃は16乃而17歳というところだろうか。
フード付きの黄土色のマントを羽織り、白い飾り気の無いブラウスにグレーのパンツ、足元は踝までの茶色い皮のブーツを履いている。
その容姿は眼鏡をかけて白衣を着たら高校の化学部の部長といった感じだ。因みに身体の線は細い。
そして、何より、彼女の額からは白い角が一本、生えていた。
「魔術師をかどうかはともかく、その角は魔王国側だな」
その魔術師(仮)の少女は俯いていたものの、俺の声を聞くとビクッと一瞬身体を震わせ、チラッと俺達を見上げるとすぐに視線を落とした。
こうして地下4階の偵察は終わった。
俺が多数の分体の死骸の発見と捕虜1名の確保。この結果を土方中尉に報告するためユリィを伝令に出そうかと思っていた矢先、当の土方中尉が獣人と人狼達を連れてやってここへやって来た。
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それでは次話もお楽しみ!
ガメレオジン
「話し合いはここまでだ。これからは、」
筑波洋
「これからは?」
ガメレオジン
「殺し合いだ!」
『仮面ライダー(スカイライダー) 』より




