第158話 地下室のデスメロディ③
「アッカム、僕の事がわかるか?」
ギュンターがその男に声をかけると、アッカムと呼ばれた男は檻の中で虚な表情のままギュンターの方へと顔を向ける。そしてぼんやりとギュンターの顔を見続けると、やがて徐々に目を見開き、口をわなわなと震わせた。
「わ、若!若じゃありませんか!」
ぼんやりとしていたアッカムの意識は俄かに覚醒し、檻の鉄柵を握ってギュンターへと迫った。
「何故ここにいるんですか?若も奴等に捕まったんですかい?」
「いや、違うよアッカム。僕達はここに捕らえられているみんなを助けに来たんだ」
ギュンターは鉄柵を掴むアッカムの手にそっと自分の手を重ねると、相手を落ち着かせるようにそう言った。
「若、いけません。この街も、この大学も皆魔王国軍の巣窟なんでさぁ。あっしのこの角を見て下さい。こいつを付けられたらもうお終いでさぁ。徐々に自分が自分でなくなって、そのうちあのバケモノになっちまう。若はあっし等の事など放っておいて、早くここから逃げて下せぇ。親分や姐さんに続いて若にまで何かあったら黒狼族はどうなりますか!」
どうやらアッカムの今の話だと、残念ながらギュンターの父と姉は既に角が寄生させられて、最悪、もう分体に変化しているかもしれない。
ギュンターはアッカムの話を聞いて一瞬表情を歪めたが、直ぐに引き締めた。
「安心しろアッカム。もうサラクーダ市の魔王国軍は殆ど討ち果たした。後はこの地下室だけだ。父と姉の事は後で聞く」
ここで一旦言葉を切ると、ギュンターは確認を求めるように俺に視線を送ってきた。そして俺が軽く頷いてみせると、再びアッカムと向き合う。
「いいか、アッカム。よく聞いて欲しい。その角に寄生されると宿主の身体と精神は徐々に侵蝕されて、遂に分体になってしまう。それはお前が言った通りだ。だが、その角を除去出来るとあればお前はどうする?」
「そんな手段があるのなら、やってください。あっしはあんなバケモンにされるなんざ御免でさぁ」
「成功するかわからなくてもか?」
「望む所でさぁ。失敗したら一思いに殺って下せぇ」
「わかったよ、アッカム」
ギュンターとアッカムの間で話はついた。後は実際に俺が施術するだけとなった。
〜・〜・〜
一応手足を拘束したアッカムを床に仰向けに寝かせると、俺はアッカムの角がある額に手を翳し、念話を応用した精神感応でアッカムの体内と精神をスキャンする様に観る。すると額の角からは脳へ、そして脊柱管を通って体幹、四肢へと全身に根が伸びていた。厄介なのは角自体は物質であるにも関わらず、全身に伸ばされた"根"は物質ではなく、呪であったのだ。
どうやら俺はこの角について誤解していたようだった。角が魔術で作られた寄生生物だと思っていたがどうやら違うようで、角は呪を入れた容器と呪によって変質された宿主の魂を魔神に送るための送信アンテナであるようだ。
これでは角を取っも宿主の体内には呪が残り、あまり意味が無い。
(さて、どうしたものか…)
やっぱり無理でした、でもいいのだろうが、う〜ん…
と、そこで俺はいつぞやに見た、とあるDVDの映像を思い出した。
それは所謂「心霊手術」と呼ばれるものだ。
俺の大学の友達で、オカルト好きの喜久田君という男がいたのだが、よく彼のマンション(喜久田君は金持ち)でオカルト好きの仲間が集まって彼が入手したり録画したりしたオカルト関係の映像鑑賞会を泊まりがけでしたものだった。
その中で見た録画された番組『超ム○の世界R』。
その時見た回で、心霊手術について月刊ム○の編集長が語るところでは、呪術師が呪いを掛ける相手の体内に呪を入れて苦しめる。
呪いをかけられた者は自分の体内に確かに何かがあり、或いは何かが蠢いているのがわかるものの、それは呪なので外科的手術では摘出出来ない。
そこで別の呪術師が体内の呪を呪術で物質化して取り出すのだ、という事だった。
その録画映像では多少の血液と共に傷口から髪の毛の束や釘やミミズが取り出されていた。いゃあ、キモかったね。
これを応用すればいい。宿主の体内にある呪の根も物質化してアポーツで取り寄せれば、映像のように物質化した呪を摘出するための僅かな傷さえ必要無い。
そこで問題となるのが、どのようにすれば呪を物質化出来るのか、という事になる。
呪術も魔法と一緒でイメージの世界なのだと以前に満峰神社の畠山禰宜が言っていた。呪術も俺達の世界で発達した魔法の一種であるとも。ならば、アポーツで取り寄せる前に呪の根を別の似たような物質に置き換えるイメージをすれば良い。
まぁ、やってみない事には始まらない。ぶっつけ本番だが、何だかイケる気がする!
俺は瞑っていた両眼を開くと、息を呑んで俺の様子を見ていたみんなが、やはり何か言いた気に俺を見続ける。
「よし、大体わかった。後は実践あるのみ」
「リュータ様、お願いします」
「ヒト族の兄さん、遠慮するこたぁねぇぜ?ズバッとやっちゃってくんな!」
ギュンターは祈るように、アッカムはチンピ、いや、任侠の徒のような言葉で俺に施術を促した。
「よし、やるぞ」
〜・〜・〜
俺は再びアッカムの額に左手を翳すと呪の根を捉え、それを細い鎖にイメージして角ごと右手にアポーツで取り寄せる。
すると、俺の右手に角と角の底から連なる細い鎖の束が取り寄せられた。
アッカムの額を見ればそこに角は無く、彼の体内にも呪の根は存在してなかった。
「アッカム、どうだ、気分は?ここが何処かわかるか?」
「はい、実に頭がスッキリしてまさぁ。角があった時は常に頭がぼんやりして、自分が自分じゃないようでしたが。ここはあっしが捕らえられていたサラクーダ大学の地下実験室でさぁ」
「記憶はどうだ?」
「えぇ、角が付けられてからの事はぼんやりとしてよく憶えてませんが、それ以前の事なら大丈夫でさぁ」
よく喋り、手足もよく動く。言語障害も運動障害も無さそうだ。
俺はギュンターに向き合うと、施術の成功を告げる。
「どうやら成功のようだ。角も体内の呪の根も物質化して取り寄せた」
俺は右手に持つ角と鎖の束をギュンターにほれほれと近付けて見せた。
「リュータ様、有難う御座います」
「リュータの旦那、誠に有難うごぜぇます」
何というか、黒狼族ってちょっとヤクザみたいだよな。
「リュータ、凄いじゃない!」
「…流石、私のリュータね」
「先輩、尊敬です」
「まぁ、竜太なら当然ね」
いや、真琴さん。結構ギリギリだったんだよ…
「お兄ちゃん、流石だね。でも大丈夫?まだまだ対象者、いっぱいいるよ?私でも出来そうかな?」
そうでした。アッカムだけじゃなかったんだった。
地下3階は少しひんやりした空気が流れていたが、俺はいつの間にか薄っすらと汗をかいていた。
「リュータ、お疲れ様でした」
そう言って手術中の看護師よろしくサキが俺の額の汗をハンカチで拭いてくれ、水筒を差し出してくれた。
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それでは次話「地下室のデスメメロディ④」もお楽しみ!
ゲルトルート・バルクホルン
「ネウロイはお前の成長を待ちはしない、後悔したくなければただ強くなることだ」
『ストライクウィッチーズ 』より




