第149話 アルメウス公爵はこう言った①
静寂の中で対峙する俺とアルメウス公爵。
一応、今は話し合いの時間だ。だが、せっかくこうして場を設えたというのにアルメウス公爵は未だ何も話そうとしない。
これも公爵の手なのか?じらしか?腹立たしい限りだ。まぁ、永い寿命を持つ吸血鬼、しかもその親玉ともなればいくら力が強かろうが俺などは子供にも満たない赤子のようなものだろう。ならば、赤子故に大いに甘えてやろう。
「この世界の民と知り合って3年、この世界に来て1ヶ月ほどになる。だが、俺は誰からも勇者なんて呼ばれた事は無いし、勇者の話も聞いた事が無い。そちらが言い出した事だ。何か言いたいのならさっさと言ったらどうだ?」
俺の拙い煽りにアルメウス公爵は「フッ」と笑うと、
「いいだろう。私が言い出した事だらな。勇者とは何か教えよう」
と、勇者とは何か、滔々と語り出した。
「勇者。勇者とは読んで字の如く"勇気を持つ者"を意味する。歴史の至る所に現れ、ある者はその力により、またある者はその身を犠牲にする事により戦乱を終わらせ、人々を救う。ある勇者は王として、別の勇者は英雄として歴史に名を残す。君らの世界にもいないかね?そんな勇気ある者達が」
確かにそういった意味でなら、そうした者は俺達の世界の歴史上にも、洋の東西を問わず多くいるだろう。それに、それを言えば俺の夢に出て来た俺の前世とされる(雪枝談)6人の男達など、それこそ勇者そのものだ。それじゃあ、俺も勇者なんじゃ、とか少し思ったが無論口には出さない。なんか恥ずかしいし。
「それは一般論だ」
「そう。物語の緒は一般論から始まるものだ」
物語とか、なんか長くなりそう。やっぱり問答無用で倒しておいた方が良かったかな。
アルメウス公爵の話は続く。
「勇気とは発揮できる場は酷く限られるものの本来どんな者でも持っているものだ。だから勇気を発揮した者をいちいちその全てを勇者とは言わないだろう?だから君はこの世界の誰からも勇者の話など聞かないし、君も勇者とは呼ばれない」
何か、最後の部分が微妙にカチンと来たが、まぁ、いいだろう。
「私が言う勇者とは、無論そうした者達の事ではなく、我々魔族の間に伝わる勇者の事だ」
アルメウス公爵が言うには、この世界ではよく知られている事だそうだが、元々各魔族は種族ごとにテリトリーを定めて暮らしていたという。そしてヒト族や獣人族などに対抗するため作った緩い連合体が魔王国の起こりだったそうだ。
そもそも彼等は魔族なんて呼ばれてもいなかったという。各種族毎に鬼族とか、吸血族とか呼ばれ、その連合体も当初は魔王国ではなく北方連合と呼ばれていたとか。その盟主は主に北方連合での最大勢力であった鬼族から出すのが習わしだったらしい。
「そして、幾代前の事か、その代の鬼族の族長が北方連合の盟主になると、突然自らを魔王と僭称するようになり、更には北方連合を統一せんと各種族に服属を要求したのだ。
我々吸血族は早期に鬼族と同盟していたが、これに反発した種族は連携して鬼族と対立し、北方連合は内乱状態になったのだ。結局、北方連合は魔王によって統一されて魔王国と国名を変えるに至った訳だが」
「その魔王を僭称した鬼族の長に何かがあった、という事か?」
「そうだ。或いはそれ以前から鬼族には何かしら伝えられていたのかもしれない」
「吸血族はそこまでは知り得ていない?」
「残念ながらそういう事だ。して、勇者、君は国の統治権限とは何に由来すると思うかね?」
いきなり話の内容が変わったが、まぁ、いいだろう。
「それは政治形態にもよるが、俺達の世界では昔は神より王に与えられたと考えられてたな」
所謂「王権神授説」というやつだな。我が愛する祖国もその支配の正当性を神の子孫だから、という事に求めている。
アルメウス公爵は俺答えを聞いてうむと頷くと話を続けた。どうやら俺という生徒はアルメウス先生の小テストに合格出来たようだった。
「そう、"王"とあらば、その統治の権限、支配の正当性は、その更なる上なる存在、つまり神から与えられる事となる。では、それまで鬼族の族長が担っていた北方連合の盟主が魔王となった。それを君はどう考えるかね?」
つまり、今までは「みんなの代表、まとめ役」だった存在が「王様」になった。それまでは支配の正当性を「みんなからの推し」に拠っていた。
「魔王国には魔王に統治の権限、支配の正当性を与えた、魔王よりも上なる存在がある、という事か」
「正解だ」
その神の名は伝えられていないという。
「魔王国ではただ魔神と呼ばれている。ただ、鬼族はティタン様と呼んで厚く敬っている」
魔王は北方連合を魔王国として統一すると、その首都 たる魔都グリープスと、エルム大森林の外輪山に接する地に魔神を祀る壮大な神殿を造営し、その運営を魔神教団に委ねたという。
「長くなったが、必要な基礎知識だと思って貰いたい。そして、ここからが本題だ。何代か前の鬼族の族長がどのようなきっかけで魔神から加護を授かったのか、その力で北方連合を統一して魔王国を建国した。これは恐らく魔神の意を受けての事だと思われる。ここまでは良いかな?」
俺は黙って頷く。
「魔王の目的は魔神の宿願を叶える事にある。何代にも渡って着々と準備を重ねて来た。皆、自分の代で魔王が行動を起こさないよう願ったものだ」
「その、魔神の宿願とはどんな事なんだ?」
俺はアルメウス公爵の話を遮るように口を挟んだ。魔王が始めた侵略戦争にしろ、俺達の世界におけるモンスターアタックにしろ、全てはそこから始まっているのだ。
アルメウス公爵はそれに気を悪くした風も無く話を続けた。
「魔神の伝説については、まぁ誰かに聞いてくれ。魔神はこのエルム大森林の中央山地に封印されている、と言われている」
俺は先程、第1キャンパスの屋上から見た樹海の中に聳える椀を伏せたような山容を思い出した。
「魔神の宿願。魔王の目的とは魔神の封印を解き、魔神を復活させる事にある。それがどういう事なのか、それによってこの世界がどうなるのかは私にも全くわからない。おそらく魔王ですらわかってないのではないかな。しかし、そのために魔王がこの世界で始めた事は、流石に我々も看過し得なかった」
「それは侵略戦争の事か?」
「それは目的のための手段の一つでしかない。魔王が魔神教団とサラクーダ大学に命じて開発させた"角"。あれは宿主を分体に変化させるだけではなく、最終的には宿主の魂を吸い上げてしまう。それを魔王は最終的に全世界で行おうとしている。魔王はこの世界のヒト、獣人、エルフ、ドワーフ、竜人、グラスランナー、ホビット、魔族などあらゆる知的生命体の魂を魔王に贄として捧げ、魔神を復活させようとしているのだ」
何だ、この重すぎる話は…
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それでは次話「アルメウス公爵はこう言った②」もお楽しみ!
ウィティ「フォークナー大佐、聖ヴィンセント病院で2年間胆石の識別をしておりましたら、心は固くなり、もっと大事な部分が柔らかくなってしまっております。私はこの進行を逆転させたいのであります」
「ワイルドギース」より




