第148話 異世界の屋上で愛を寄せる獣人
舞「やあみんな、久しぶり。北川舞です。今回は先輩の謎に満ちた大学時代の女性関係について迫ってみたいと思います」
(7人の唾を飲み込む音)「ごくり」
舞「という訳で斉藤さん、どうなんでしょうか?」
斉藤「知っている。しかし、全てを知っている訳ではなく、本人の許可無く言う事も出来ない」
舞「むぅ、正論です。だけど、そこは恋する乙女心を慮って、ひとつお願いします」
斉藤「しょうがないな。じゃあ、無難な事だけ。大学時代のリュウの収入源の一つに地下格闘技場でのファイトマネーがあってな。随分とマダム的なファンが、おや、誰か来たようだ。それでは『魔法修行者の救国戦記』スタート!」
舞「あっ、斉藤さん、どこ行くんですか?そこからが大切なところなのに」
竜太「別に疚しい事なんか無いよ。バイト先でお姐さん方に贔屓にしてもらっただけだから」
舞「せっ、先輩。そこのところを詳しく!」
(7人の唾を飲み込む音)「ごくり」
第1キャンパス1階の竜牙兵をユリィ達に任せ、俺は制圧隊と射撃隊を率いて屋上へと階段を駆け上がった。幸いな事に敵にも余裕が無かったのか、上階に竜牙兵は配置されておらず、難無く屋上へと辿り着いた。
しかし、ユリィの黒蛇は凄かったな。アドランゲだっけ?ユリィからはユリィの物とは異なる僅かな魔力を感じていたから、何かしら隠し球があるとは思っていたが、まさかの魔獣。しかも、黒い大蛇ときた。あの後はユリィ達から急かされるように上階へと駆け上がったからユリィがあの黒蛇をどのように操って竜牙兵を蹴散らしたのか、今は知る由もないが、後で教えて貰う事にしよう。
屋上にも竜牙兵は配されていなかった。俺は制圧隊の獣人達、人狼達に屋上の確保と警戒にあたらせ、射撃隊を配置に着かせた。
「戦兎族弓兵隊、射撃配置に着け!」
そう張り切って弓兵を指揮するのは戦兎族の弓兵隊長バニウス。
戦兎族は女児の出生率が非常に高く、女性優位(女尊男卑ではないらしいが)の社会で、戦士団も美しくて強そうな女戦士で満ち満ちているものの、決して男の戦士がいない訳じゃないそうだ。そして戦兎族でも男性の方が体格が大きく、力も強いから男の戦士は得てして弓兵になるものが多いのだという。現にここにいる60名いる弓兵隊も全員がウサ耳ムキムキの男戦士で構成されている。
弓兵隊の隊長バニウス。歳の頃は20代中頃といったところだろうか?ウサ耳金髪碧眼でムキムキのなかなかの美丈夫だ。やっと巡って来た活躍の場に少々張り切り過ぎているきらいがあるものの、その動きや指揮はしっかりしていて無駄が無い、部隊指揮を任せるに足る有能な戦士だ。
「神使様、戦兎族弓兵隊、配置に着きました。いつでもご命令を!」
「了解した。流石に早いな。魔法隊の準備が完了し次第攻撃を開始する」
「はっ!」
俺がバニアスを誉めつつ弓兵隊に「急いで待て」を命じると、バニアスは嬉しそうに持ち場へと戻って行った。
一方、エーリカ 指揮する魔法隊も配置が整いつつある。弓兵とは違って人数がいない魔法隊は、屋上の縁に横一列に並び、各々が各々の魔法で中庭の竜牙兵を攻撃する事となる。
因みに弓兵は15名ごとの4列横隊で、最前列の1隊が矢を斉射すると最後列に下がる。そして次列の隊が最前列に出て斉射、とこれを順に繰り返す。
第1キャンパスの屋上から見るエルム大森林の景色はまさに絶景と言える。西には外輪山と入江、東にはどこまでも続く樹海と、その緑に覆われた中央山地。そして北方へ目を転じれば、樹海の中に聳え立つ北の精霊樹を見る事が出来る。
(あれが北の精霊樹か。気になるどころじゃないか)
この戦いが終われば俺達は戦兎族に導かれてあの樹の元に行かなければならないのだという。その先は元の世界へ戻る事が出来るのか、どうなのか。まぁ、どの道行ってみなければ始まらないのだが。
「リュータ、こっちも準備完了よ」
「わかった。有難う、エーリカ」
中庭は竜牙兵が満ちている。その内の幾らかは第1キャンパスの左右に回って友軍を圧迫している筈だ。こうしてみるとやはり双方の戦力差は如何ともし難い。
「よし。標的は前下方中庭の魔王国軍竜牙兵、攻撃始め!」
俺が発した号令一下、エーリカ指揮下の魔法隊、バニウス指揮下の戦兎族弓兵隊が攻撃を開始した。
戦兎族弓兵隊が放った矢は地上の竜牙兵に次々と降り注ぎ、竜牙兵は大楯を構えるも矢は易々と大楯を貫通して竜牙兵ごと粉砕した。
続いて弓兵の2列目が矢をつがえると、1列目は後方へ下がり、前方に出た2列目が矢を放つ。すると2列目の矢は、1列目と同じく竜牙兵の構える大楯を突き抜けて破壊し、同時に矢が爆発して竜牙兵を木っ端微塵に破壊、周囲の竜牙兵をも薙ぎ倒した。
「神使様、今のは鏃に爆発の術式が込められています」
驚く俺にバニウスは得意気な表情 (ドヤ顔とも言う)で2列目の放った矢について解説した。
「お、おう。凄いな」
「皆、弓兵に負けてられないわよ!」
魔法隊を指揮するエーリカの声も響く。
魔法隊は各自が得意とする攻撃魔法を地上の竜牙兵に放っている。エーリカとフレデリカは光の矢を放ち、真琴は水刃を、舞は上空に何本もの氷槍を浮かべては一斉に加速をかけて降下させ、雪枝が打ち上げた火球は複数に分裂し幾筋もの真っ赤な軌跡を描いて地上に降り注いだ。
そしてトッドと山本少尉、ミアの放つ風刃が竜牙兵を切り刻み、弓兵隊の第4列目が最前列で爆裂矢を放つと中庭の竜牙兵はほぼ全滅していた。
それにより第1キャンパスの左右に展開していた竜牙兵は後方からの援護を失い、戦兎族と有志連合軍に忽ち殲滅された。更に戦兎族と有志連合軍は中庭に雪崩れ込むと、身体がバラバラになりつつも灰になっていなかった竜牙兵を掃討していった。
「リュータ、これで竜牙兵は全滅ですね!」
「あぁ、だが2時間は時間を食われたな」
俺はサキに頷きつつも、つい想定外だった竜牙兵戦について愚痴ってしまった。
「じゃあ、直ちに射撃隊を中庭への転換を指示します」
「頼むよ、サキ」
サキは「了解です」と言って可愛らしく挙手の敬礼をすると、エーリカの元へ駆けて行った。
そうしている内に1階に残って殿となっていたユリィとTチームが屋上へ到着した。
「土方中尉、1階の竜牙兵は殲滅しました。人員に事故無しです。オスカー、大沢の両名は1階を確保しています」
「了解した。皆、お疲れ様。お陰で中庭の竜牙兵を片付ける事が出来た」
俺が彼等を労うと、武田少尉とケリィは目配せをして一歩二歩と後ずさる。いや、仲良くなったね、君ら。そして繰り返すようだが、俺も鈍感系主人公じゃない。そんな態とらしい事しなくても君らの言いたい事はわかる。
俺は黒蛇を傍に従えたユリィに近づくと、第1キャンパス内での戦闘における最大の功労者に感謝と労いの言葉をかけるべく、彼女の正面に立った。
「ユリィ、君のお陰で助かったし、皆が救われた。誠に有難う」
俺の予想だとユリィは「ふん!これくらいどうって事無いわ」とか、「貸しにしとくからね」なんて返しが来るもんだと思っていたのだが、
「…」
意外にも俯いて黙ったままになってしまった。
「ど、どうした?負傷したのか?」
俺は思わず狼狽してしまい、何も気の利いた事も言えず。黙ったままのユリィはそれを聞いて頭をかぶる。
本当にどうしたのだろうか?怪我は無さそうだし、俺、何か変な事でも言ったか?
すると、俯いていたユリィは徐に顔を上げると、俺の顔をじっと見つめて、
「私、あなたの為に戦った。あなたの役に立った?」
と言ったのだ。
ユリィの表情はいつものように俺に文句を言ったり、からかったり、突っかかったりする時のそれではなく、何かを期待するようで、何かを恐れているようなそんな表情。
「勿論だよ、ユリィ。これからも宜しく頼むから」
思わず俺がそう言うと、ユリィはそれまでとは一転してパッと表情を綻ばせる。
「わかったわ、リュータ。私、"これからも"あなたの為に頑張るから!行こう、アドランゲ」
ユリィは照れ臭そうにしてアドランゲを連れてケリィの元へと駆けて行く。アドランゲは一瞬俺に視線を送ると、ユリィの後を追った。その視線は言語化すれば「よろしくね」といったところか。そういえば、俺、アドランゲにお礼言うの忘れてたな。
「あ〜あ、お兄ちゃん。ユリィに言質取られちゃって、しょうがないなぁ」
いつの間にか俺の横に来ていた雪枝がヤレヤレといった感じで肩を竦めた。それにしても雪枝は式神の術といい、さっきの火球といい、そして気配の消し方といい、最近魔法の腕を上げているか。
「いや、言質って何だよ」
苦し紛れに俺が言うと、更に真琴と舞が俺に追い討ちをかける。
「あの娘が竜太に気があるの、まさか気付いてないなんて言わないわよね?」
「先輩、まさかの鈍感系ですか?」
サキは面白くなさそうな表情となり、アーニャもジト目で俺を見る。
「リュータ、本当に気付いてないの?うそでしょう?」
「…」
黙っても、エーリカからの俺への追撃の手は緩まない。
「そんなリュータの為に頑張って見せ場を作ったあの娘にリュータは"これからも宜しく頼む"なんて言ったのよ?鈍感じゃなかったら天然?」
「鈍感でも、天然でも養殖でもない」
苦し紛れにそう言ってみたものの、明らかに俺に分が悪かった。まぁ、みんな俺を責めている訳ではなさそうだが。
何となくユリィに言わされた感が無きにしも非ずだったようにも思う。しかし、言ってしまったものは、言霊として口から出た言葉はもう捉える事は出来ない。なるようになれだ。
それよりも、竜牙兵が除かれた以上、もう大講堂まで遮る物は何も無くなった。いよいよ吸血鬼の王であるアルメウス公爵を討つ時が来た。
「リュータ、何してるの?行くわよ?」
エーリカに促され、俺も中庭に向かうべく踵を返す。元来た階段を下ると、フレデリカが横並びに寄ってきて肩を並べた。そして、何かを決心したように、
「リュータ教官。私も教官の為に頑張りますから。あの娘になんて負けません!」
と宣言するように言った。それに対して相変わらず上手い事は言えない俺だが、決して鈍感でも天然でもない。
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それでは次話「対決しようとしたら勇者呼ばわりされた件」をお楽しみ!
地上大型巡洋艦青葉「食糧、窮乏を告ぐるも、将兵の意気軒昂なり」
荒巻義雄著『神撃つ朱い荒野に』より




