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第139 話 夜を歩く

雪枝「やあみんな、土方雪枝です。ねえ舞ちゃん、お兄ちゃんは苦手なタイプの女性っていないのかな?」

舞「私は知らないなぁ」


斉藤「実はいるぞ」


雪枝、舞、真琴、サキ、アーニャ、フレデリカ

「え⁈どんな?」


斉藤「高校の時、美人だけどキツい感じの女性教師がリュウの家庭事情を知って、やたら可哀想な子扱いして構ってな、リュウは心底うんざりしていたな」


舞「あ〜、あの女か」


斉藤「それ以来リュウは年上で上から目線のインテリ女性が苦手になってたな」


真琴「わ、私は年上だけど竜太はきれいで、可愛いくて、大好きだって言ってくれたもん!もう、『魔法修行者の救国戦記』スタートよ!」


雪枝「お兄ちゃんがもうそんなタイプの女性(ひと)に遭いませんように」


畠山「…マーフィーの法則」

戦兎族の援護に出した武田少尉のチーム(Tチーム)は無事に任務を達成した。Tチームは魔王国軍守備隊の戦力を奇襲と陽動により分断し、戦兎族への圧力を半減させる事に成功したのだった。


これにより、魔王国軍は守備陣地を一気に抜かれて戦兎族に全滅させられた。そして、それどころか戦兎族は、その勢いのまま市庁舎と議事堂へと雪崩込み、吸血鬼の眷属となっていた元市長やら元市議会議員やらを皆殺しにしたのだ。恐るべし戦兎族。まさに戦闘民族だ。


議事堂は俺達満峰集団と有志連合軍が半包囲していたのだが、戦兎族が突入して行ったのは俺達からは死角になる反対側だったのでそれに気付くのが遅れてしまったのだ。


「申し訳御座いません、神使様」


そうした訳で、戦兎族の女王グレンダ陛下は絶賛謝罪の最中だ。誰に?って、勿論俺に。


「陛下、顔を上げて下さい。戦兎族がルートを攻略した後の行動について大雑把にしか決めていなかったこちらにも非があります。今後は互いにより話し合って行きましょう」


まぁ、そう言うしか無いよねぇ?何せ"敵"という相手のある事だから、二手に分かれて攻略にかかればきっちりとした予定なんか組みようがない。そんな時は大雑把に予定を組み、イレギュラーが起こるたびその都度調整するしかないのだ。


流石に市庁舎と議事堂に雪崩れ込んで吸血鬼を皆殺しにしたのはかなり想定外だったが…


「どの道、吸血鬼の眷属となった連中が降伏する事も、命乞いをする事もないでしょうし、いずれ皆殺しという結果になったでしょう」


「そう言って頂けると助かります」


「兵達を労ってやって下さい」



グレンダ女王からの謝罪も一段落し、神聖パレンナ同盟軍は再び一同に会し、最終攻略対象であるサラクーダ大学に迫ろうとしていた。


さあ、この勢いでサラクーダ大学へ攻め込む!かといえば、そうも出来ない。何故ならば、もう日が暮れるからだ。流石に人質(?)がいる上に、吸血鬼やら分体やら、アンデットが待ち構える異世界の見知らぬ都市(まち)での夜戦なんてしたくないのが人情というもの。なので、日が暮れるのを幸いに大休止を取り、明朝の大攻勢に備えて三大欲求(おっと、4つ目はダメだぜ?)を満たして英気を養って貰おうという訳だ。


こちらに不利な状況はあちらにとってみればチャンスな訳で、警戒を怠らないのは当然だが。



魔王国軍を排して占領した上サラクーダの街。戦闘によりあちこちで火の手があがったが、延焼する前に何も鎮圧に成功している。


未だ煙燻る真っ暗な街並。今は彼方此方で友軍による篝火が焚かれている。その篝火を囲んで皆が食事をし、暖を取り、仮眠を取っている。


ただ、700人ほどの将兵がいる割には喧騒は聞かれない。これは日中の戦闘で有志連合軍と戦兎族に少なからぬ戦死者が出ているからだろう。


戦闘には負傷者、戦死者が出る事は避けられない。満峰集団の皆は回復魔法が使えるので、今回の戦闘でも皆が手分けして負傷者の手当てに当たり、救える命を救うべく心を砕いた。だが、それでも戦死者の発生を止める事は出来ず、流石に死んでしまった者を生き返らす事は出来ない。


篝火の元、皆は戦死した仲間を悼んでいるのかもしれない。


「南無阿弥陀仏」


俺は生憎浄土宗の信徒でもないし、浄土真宗のそれでもないが、死者を悼んだり慰霊する為の言葉はこれしか知らない。


戦闘後、俺は安置されている戦死者達に跪いてこの六字名号を唱えた。果たして異世界の異教徒にまで阿弥陀如来の四十八願がどこまで効果があるかわからないが、英霊達の魂の平安を願って手を合わせた。



そして、俺は今、斉藤と黒狼族のギュンター、戦兎族のユリィ、有志連合軍からはアンドリューの副官であるリドリー女史(赤毛ロングで竜人の美人、印象ちょっとキツめ)と共に自陣を抜けて一路サラクーダ大学に向かって歩いている。これは別に俺の単独行動とか、みんなに内緒でとかいう事ではなく、ちゃんと仲間にも戦兎族の女王にも、有志連合軍のアンドリューにも謀っての行動だ。


暮らす人々の消えた真っ暗な街路を進む。先頭を行くのはユリィ。彼女は夜目も利く戦兎族である上、相棒のケリィと共にサラクーダ市で冒険者(兼スパイ?)をしていたからサラクーダの街を知悉する。その後に俺と斉藤、ギュンターとリドリーと続く。


ギュンターは多くの部民、黒狼族の族長である父親と姉がサラクーダ大学構内に囚われているらしいので自ら同道を願い出た。


そして、有志連合軍のリドリー女史は見た感じの歳の頃は20代後半といったところだろうか?スラッとして背の高く、知的でいかにも出来るって感じの美人(10代なら生徒会長、20代なら有能な秘書)。アンドリューが俺達と行きたがったのを一言の元に却下して代理として一緒に来た。おそらくだけど、有志連合軍サラクーダ派遣隊を実質仕切っているのはこの女性(ひと)だ。


(美人だけど、正直苦手なタイプだ)


「神使様、何か?」


う〜ん、チラ見したのがバレてしまった。流石に竜人だけはある。


「いや、何でもない」


「そうですか、てっきり神使様が私をハーレムメンバーに狙っているのかと、」


「狙ってないから!」


「あら、私にはその価値が無いと?」


「いや、そうじゃなくて!」


(…苦手だ)


俺が内心ぐったりしていると斉藤から漸く助けが入った。


「リドリーさん、うちのハーレムキングをからかうのはやめてくれないか?」


「おい!何だよ、ハーレムキングって。誤解を招くからやめろ!」


「ちょっとリュータ、静かにしなさいよ!敵地なのよ?」


くっ、ユリィの奴。絶対わざとだ。うぅ、サキに逢いたい。エーリカ 、真琴、舞、アーニャ。「わたしは⁈」という雪枝の声が聞こえて来そうだが。


"リュータ様、僕がいますよ"

"ギュンター…"




真っ直ぐで真っ暗な街路をこんな調子で進む事暫し。俺達は上サラクーダ最奥、サラクーダ大学を臨んでいた。今は夜の闇で全貌は見えないが、ユリィによればサラクーダ大学の構造は上空から見るとH型の建物が二棟並び、HとHの間に円形の大講堂がある。そして大講堂を挟むようにそれよりも小規模な講堂があるのだという。


(現在地→ 門 工 ○ 工 )


お分かり頂けただろうか?


地上階はそうした外観だが、問題は地下なのだとユリィは言う。


「上サラクーダがあるこの丘は、なんでも大昔に砂が堆積して出来た岩なんだって。だからとても掘りやすくて、当然地下室はあると考えなければいけないんだけど、関係者以外入れないから、正直その構造と全容は全くわからないの。多分、サラクーダ市でも把握しきれてないんじゃないかしら」


ユリィもケリィと共に一年ほどサラクーダ市で冒険者として活動し、同時に戦兎族の隠密としてサラクーダ市を探っていた。それでも彼女達が把握出来なかったという事は、地下室はサラクーダ大学の秘中の秘という事だろう。


「表向き冒険者だし、ちゃんと依頼をこなさなきゃいけなかったから。飽くまで隠密はできる範囲に限られてたからサラクーダ大学の地下までは無理。それに途中で帰還命令が出たしね」


そう言ってユリィは肩をすくめた。要するに、この地面の下には誰も全容がわからない迷宮並みの地下空間があるという事だ。


「これでモンスターが出て来たらリアルダンジョンだな?」


「吸血鬼やら分体なんかが出てくるんじゃないか?」


「それはそうだな」


コアも無ければお宝のドロップも無いが、斉藤の指摘通り、サラクーダ大学の地下はダンジョンなのであった。そんな中に入らなければならないなんて、気が滅入る。



「ねぇリュータ、本当にやるの?」


俺の傍を歩くユリィが怪訝そうに俺に尋ねた。


「ああ、問答無用で攻め込むよりはいいだろう?」


そう、何故俺達が深夜に少数でサラクーダ大学までいているかといえば、干戈を交える前に一応、お互いの顔合わせや降伏勧告、捕虜の身柄引渡しなどを要求しておく事にしたからだ。


何故そんな事を態々するのかって?まぁ、ユリィに言った通りなのだが、それに敵の大将がどんな奴なのか見ておきたかったという事もある。その上でこちらの要求を突きつけて捕虜を解放すれば良し。拒否すればしたで攻撃する大義明文も出来る、という訳だ。


「それで、吸血鬼が要求を飲んだらどうするの?許すの?」


ユリィは俺の顔を上目遣いで覗き込むと少し挑発的に尋ねた。


「まさかな。捕虜の身柄を受け取ったら皆殺しさ」


「うわぁ、悪辣ぅ」


「そう?ダメかな?」


「え?うん、まぁ、いいと思うよ?その考えもリュータらしくって」


ユリィは何故か嬉しそうだ。しかし、俺らしいって、俺はユリィからどんな風に見られているんだ?


「おい、イチャついてないで静かにしていろ。ここまで来たら誰が聞き耳を立てているのか知れたもんじゃないんだぞ?」


「「すみませ〜ん」」


イチャついてなんかないだろ。

とは言っても、俺とユリィを叱りつけた斉藤の怒鳴り声が一番デカかった訳だが、それは言うまい。


そして、サラクーダ大学の正門まで来ると、その付近に幾つかの魔力を感知した。俺はそいつらに向かって大音声で呼びかける。


「俺は異世界から来た土方竜太という者だ。アルメウス公爵に目通りしたい」



俺からの呼びかけに対し、そいつらは沈黙で応えた。動く気配も無いが動揺している気配は感じた。


「おい、そこの連中。聞いていただろう?さっさと取り次げ」


潜んでいた連中から更なる動揺の気配がしたかと思うと、その内から魔力の気配が一つ抜けて大学構内へと遠ざかって行った。


さて、鬼が出るか蛇が出るか。乞うご期待というところだな。吸血鬼だから鬼かもしれないが。






いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは次話もお楽しみに。


リナ・インバース「黄昏よりも暗き存在(もの)

血の流れよりも赤き存在(もの)


時間の流れに埋もれし偉大なる汝の名において、 我ここに闇に誓わん、我らが前に立ち塞がりし 全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを


ドラグ・スレイブ!


『スレイヤーズ』より


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