第133話 Tチーム、駆ける
竜太「やあみんな、8日ぶり。土方竜太だ」
雪枝「ねぇお兄ちゃん、サラクーダ市って魔王絡みじゃなかったら客観的に見て、とても綺麗でいい街よね?」
竜太「そうだな。外輪山に囲まれて大規模な自然災害は無くて、暖流で気候も暖か。中立地帯だから侵略なんかも無く、食糧や大森林からの産物も豊富だ。街は上下水道完備で生活の質も高い。それに外観が綺麗だな」
雪枝「そう。それにちょっと違うかもだけど、古代のカルタゴとかロードス島ってこんな感じだったのかなって」
舞「しかも、港にはバイキングが使ってた船と同じロングシップ!まさに考古学者垂涎ものの街ですよ」
フレデリカ「でも、サラクーダ市はリュータ教官がぶっこわふごふごっ」
真琴(フレデリカの口を押さえながら)「リカがネタバレする前に『魔法修行者の救国戦記』スタートよ!」
ケリィ「まぁ、私達は実際に住んだけど、そんなにいい街でもなかったわね」
ユリィ「住民は結構しょうもない連中が多かったしね」
☆武田少尉視点
土方中尉から偵察と別ルートから上サラクーダを攻略して来る戦兎族を援護する別働隊の指揮を執るよう下命された。
別働隊の人選も任され、俺は同じ国防陸軍の軍人である魔法研修助教の大沢徹軍曹、合衆国海兵隊のオスカー・ワイルダー軍曹をスカウトし、本人からの猛アピールがあった戦兎族の女戦士であるケリィさんを加えた4人でチームを組む事となった。
出動準備を整えると、俺達4人は上サラクーダの街区を魔法で強化した脚力で疾駆し、ものの5分程で魔王国軍が守る街道ー上サラクーダルートの終着点付近まで辿り着く。そこには、やはり多数の魔力が感知され、魔王国軍が戦兎族の攻略を阻止せんと交戦していた。
俺は愛用するシュタイナーの軍用双眼鏡を取り出して敵の様子を窺う。すると、敵の戦力は殊更目立つ黒い巨体の分体が20体に100体程のアンデッド戦士。それに5人の一見ヒト族に見えるが額から角を生やした男達が見える。どうも、この角を生やした男達が部隊の指揮を執っているようだった。
「ケリィさん、ちょっと訊いてもいいかな?」
「さんは付けなくていいよ。ケリィで」
「そうですか。じゃあ俺の事もヤスノブと名前で呼んで下さい」
「ヤスノブじゃ言いづらいからノブでいい?それに口調が硬いよ。同じチームなんだからさ、なぁ、オスカー?」
「そうだぜ、ノブ。同じチームなんだぜ?」
いつの間にかケリィとオスカーは互いに名前で呼び合うようになっていた。
「トールもノブに行ってやってくれよ」
トールって、大沢軍曹も?いつの間に?
「武田少尉、立場はわかりますがケリィもこう言ってるんで、もう少し砕けてやって下さいよ」
チームの3人が名前で呼び合ってるのなら、俺だけ一人で堅物気取る訳にもいかない道理だな。
「わかったよ、ケリィ。これでいい?」
俺が口調を変えるとケリィは嬉しそうに頷いた。
「そうそう、その方がいいって。んで?何だっけ?」
やっと本題に入れそうだ。俺は先程双眼鏡で見た角の生えた男達についてケリィに訊きたかったのだ。
「あそこに魔王国軍の指揮を執っている角の生えた男達がいるのだけど、あれが鬼族って奴なのか見て欲しいんだ」
俺はそう言って双眼鏡をケリィに手渡した。ケリィは双眼鏡を受け取って覗き込み、おおっ、とか、魔法具か?とか言って驚いていたが、簡単に使い方を教えると早速魔王国軍の方へと双眼鏡を向ける。
「いや、ノブ。あれは鬼族じゃないよ。あの連中はおそらく吸血鬼だ。それも、元はこのサラクーダ市の偉いさんだった」
意外な返答に内心驚きながらも、俺は更に尋ねた。
「知っている人なのか?」
「まぁ、親しいって訳じゃないけどね。あの中心になっている奴はサラクーダ市の冒険者ギルドのギルドマスターだった男だ。それに他の連中もギルドの高ランク冒険者だね」
冒険者ギルドって、やはり異世界には本当にあるんだな、って感心している場合じゃない。
「ギルマスに高ランク冒険者って、結構強いんじゃないか?その連中が吸血鬼の眷属になっているのなら尚更に」
俺がそう感想を伝えると、ケリィは不敵な笑みを浮かべる。
「幾ら吸血鬼になったからって、元から大した事は無かった奴等だから大丈夫だよ。それにノブにはあたしが付いてるから心配する必要なんてないさ」
いやいや、ケリィの実力の程は知らないけど、俺は女に守られるような男じゃない。俺はそう口に出そうとしたが、オスカーと大沢軍曹の俺を揶揄う声に遮られた。
「ヒューッ、ノブモテモテだな?」
「少尉、土方教官の真似しちゃダメですよ?」
モテモテって。軍隊の背骨たる軍曹が何言っている?今は作戦行動中だぞ?しかも土方教官の真似なんて、ハーレムキングの真似なんて出来る訳ないし、したくない。
「でも吸血鬼になるにしても、あの角はわからないな。分体の角とも違うようだし」
俺が日米の軍曹達に揶揄われる原因となった当のケリィは、その間も双眼鏡で魔王国軍を見続けていたようだった。
「あれじゃないですか少尉、倉庫街にいた奴みたいに麾下の戦力を操ったり、裏切り防止の術式が込められていたりする用の角じゃないですか?」
「何よ、する用って(笑)」
ケリィは笑ったけど、大沢軍曹の説も馬鹿には出来ない。まぁ、ケリィも大沢軍曹の言い方が可笑しかったのだろうけど。
しかし、ここでその是非を論じてもしょうがない。これも本隊に持ち帰って土方教官に報告しよう。
「それで、どうしますか、少尉?ルートを攻略している戦兎族は上からの攻撃に苦戦してるんじゃないですか?」
「ノブ、あまり戦兎族に犠牲が出るとリュータが彼女達から恨みを買いかねないぞ?」
確かにこうしている間にも戦兎族は戦い続けている。よし、兵は拙速を尊ぶというし、bestを考えるよりも行動してのbetterのほうがいい。
「よし、敵の戦力と配置は把握したから作戦通りに背後から奇襲をかけて奴等の動きを分断する。攻撃準備かかれ!」
「「「おおっ!」」」
俺は三人に下命すると、腰に差した刀を抜く。それはやや幅が広く、刀身に厚みがあって反りの入った長刀。青味がかった鋼色の刀身には銘なのか、何らかの呪文なのか文字が刻まれている。
これは最初の対アンデッド戦で屈強なアンデッド戦士(彼がヒトだった頃は何だったのだろう)から得た戦利品だ。手に取ると掌に吸い付くようで、魔力を通すと刀身が青く発光した。
その時、それをたまたま通りかかったエーリカさんがそれを見て言うには、
「それ、魔剣ね。刀だけど。タケダ少尉とその刀はとても相性がいいみたいね。刀も少尉の事を気に入ったようよ?」
との事だった。
更には「名前をつけてあげれば?」と勧められた。俺は自分が風魔法の使い手になったので風に因んだ名をつけようと思い立ち、刀身の青さと合わせてその刀に「青迅」と名付けた。
「青迅」と、そう呼びかけた時、青迅はその刀身を淡く青く光らせ、それが俺には名前を気に入って喜んでいるように思えたのだ。
バシン!
不意にケリィに背中を叩かれ、大して痛くはなかったが、何事かとケリィを見ると悪戯成功みたいな笑顔。
「頼むよ、隊長さん?」
「よし、ひと暴れするか!」
「そぅ来なくっちゃ」
異世界から魔物が襲いかかり、俺達の世界は大混乱に陥った。モンスターアタックの前日、俺達の世界の誰がそんな明日を想像しただろうか?
未来は決して予知なんて出来ない。少なくとも普通の人間には無理だ。魔法の力を手にした俺ですら、まさか自分が異世界で魔剣を手にして日米の軍曹と兎獣人(美人)を配下にして魔王の軍隊と戦うなんて思っても見なかった。
戦闘を前にしても、妙に落ち着いた気分だ。それは俺の傍らにいて背中を叩いてくれたケリィのお陰かもしれない。
美女と冒険の日々。案外こんな人生も悪くないな。
いつも『魔法修行者の救国戦記』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話「とある魔法研修生の追憶」をお楽しみに。
藤堂明「信号所に返信。我、祖国ト同胞ノ再興ヲ信ズ。サラバ。以上だ」
『征途』より




