幕間22 ラブリーラビットエンジェルの大冒険④
竜太「やあみんな、土方竜太だ。今回は読者のペンネーム"ベロニカ・ハートの子守歌"さんからの相談だ」
畠山「やけに時代がかったペンネームじゃな」
竜太「うわぁ、びっくりした。」
畠山「竜太君、ベロニカじゃなくてヴェロニカじゃぞ?ヴェ。ふむふむ、ヴェロニカ・ハートとチェッカーズのデビュー曲"ギザギザハートの子守歌"を掛けた訳じゃな。ヴェロニカ・ハートとは、」
竜太「ワァー!そこは興味ある人は個人的に調べて下さい。って事で、『救国の魔法修行者』スタートだ!」
畠山「個人的にはヴェロニカ・ハートに子守歌を歌ってほしいぞい」
竜太「畠山さん、ドワーフと酒飲んでるから口調が移ってますよ?」
港町の酒場での乱闘騒ぎの後、私達が領都の騎士団から呼び出される事は無かった。
それは当事者の一方ではあっても、私達にそもそも非が無い正当防衛だったからなのか、それともおっさん達が口にした魔王云々について領主が緘口令を敷いたからなのかもしれない。
何れにしても原因は不明で、態々騎士団に訊きに行くのも藪蛇になりかねない。この件についてはベッキィお姉さまも「放っておきましょう」という姿勢なので、尚も私には引っ掛かるものがあったけどお姉さまに従う事にした。
領都キャストンで三ヶ月に渡って私とユリィが収集した情報は、簡単な報告書にしてキャストンに駐在する戦兎族の連絡官にベッキィお姉さまが渡していた。今回の船乗りのおっさん達との騒動についても同様に報告している。魔王についてはおっさん達が何かを知っていて言った言葉なのか、それとも苦し紛れの妄言なのか。それは私達のような下っ端が考える事ではなく、情報を統括して判断する女王様の側近の役割なので、後の事はそちらにお任せします。
領都キャストンも滞在が三ヶ月となり、私達3人はいよいよ目的地であるエルム大森林最大の自治都市サラクーダ市へと向かう事となった。
キャストンは食べ物の量も種類も豊富で、領主によりしっかりと治められているので比較的治安が良く、領民達も良い人が多かった。とても居心地が良くって、もうちょっと居続けたいな、というのが私の正直なところ。でもユリィの心はまだ見ぬサラクーダ市へと向かってしまっているみたいで、嬉々として旅立ちの準備に取り掛かっていた。
ユリィは見た目から大人しくて内向的なように思われがちだけど、それはとんでもない誤解で、好奇心が強くって少々無鉄砲でもあり、アグレッシブな性格だ。
まぁ、サラクーダ市に行くのが私達に与えられた任務なのだから仕方ないよね。
私も渋々、荷物をまとめて出立の支度に取り掛かった。
翌日、私とユリィとベッキィお姉さまは、お世話になったギルド職員さん、冒険者仲間達、宿屋の女将さん等に別れの挨拶を済まし、領都キャストンを後にした。
領都キャストンからサラクーダ市までは、レマレード湖の湖港からの船旅となる。船は川も航行するので、喫水の浅く帆もオールも使えるロングシップと呼ばれるタイプな船だ。
船首の竜頭はレマレード湖の主と言われる水竜レマールを模しているんだって。
出航したロングシップ「マイティマーク」号は乗客と荷物を乗せ終わると、穏やかな湖面を帆に風を孕ませ、音も無く進んで行く。
この船の船長兼船主は船名の通りマークさん。マーク船長は壮年の偉丈夫なリザードマンだ。私達の酒場での騒動を知っていたようで、
「あの船乗りの風上にも置けねえヒト族の馬鹿どもをよくぞ懲らしめてくれたぜ」
と、私達にはとても好意的で、他の船員共々良くしてくれた。
マイティマーク号はやがてノービス川へと入り、川沿いの自治都市ピースマック市の港に錨を降した。この街で私達は一泊し、翌日は再び船上の人となる。
ノービス川は川幅が広く、支流からの水量も多い大河だ。激流や岩場などの難所は少なく、マーク船長は時折変わる浅瀬に気を配れば航行は楽なんだと言っていた。
川沿いには漁村が点在し、漁民達はかつては河賊や傭兵も兼ねていたという。一説にはキャストン侯爵家も、元を辿ればこうした河賊の親分だったとか。そう言われてみれば、領都の領民達も船乗り達もキャストン侯爵の事は親しみを込めてか"親分"て呼んでいたっけ。
翌日、ピースマック港を抜錨したマイティマーク号は、ノービス川を更に下り、次の停泊地である自治都市ブレンズマック市に錨を降した。そしてキャストンを出航しつ3日目にして漸く私達は目的地であるサラクーダ市へと至ったのだった。
エルザ大森林最大の自治都市サラクーダ市、についてはきっと誰かがさんざん説明しているだろうから、もういいよね?
確かにサラクーダ市はキャストンですら霞むほどの大きな都市だ。でも、街はなんかゴミゴミしていて、人々も日々の暮らしが大変なのかどことなく殺伐とした感じだ。
ここは貧富の差が激しく、上サラクーダに住む執政者や裕福な商人と下サラクーダに住む庶民、更に水濠の外に出来ている貧民街の人々との間には超えられない壁が存在していた。
サラクーダ市に着いた私達は下サラクーダに宿を取り、翌日に冒険者ギルドを訪れて再登録をした。その後は数日かけて私とユリィはベッキィお姉さまの案内で街歩きをし、サラクーダ市の地図を頭に叩き込んだ。
そして、私とユリィは漸くにして戦兎族の情報員としての任務に就き、ベッキィお姉さまは私達との連絡役をサラクーダ市の連絡員に引き継ぐと、最初の予定通り戦兎族のテリトリーへと戻る事となった。
サラクーダ市での私達の宿は、下サラクーダの下町にある「獅子の立髪亭」。元冒険者という獅子獣人の豪快な亭主の宿屋で、亭主が元冒険者だけに冒険者には理解があって居心地が良い。何と言っても宿のすぐ近くに大きな公衆浴場があるのが好ポイントなんだよね。
明朝サラクーダ市を出立するベッキィお姉さまの送別会を私とユリィは宿の食堂で催した。私とユリィの懐具合はキャストンでの魔物討伐などの報酬で結構潤っていて、料理はお姉さまのリクエストで鹿肉のローストと鴨の丸焼きを特注。亭主に頼んでルシタニウス港の酒屋で仕入れたちょっとお高い赤ワインも一本持ち込ませてもらった。
乾杯して料理とワインを頂いていると、次第に舌も滑らかになってベッキィお姉さまも思う所を話し出す。
「あなた達の道中指南を命じられた時は、正直誰かに代わって貰おうかと思ったわ」
「え〜、そうだったんですかぁ?」
「お姉さま、ひどくないですかぁ?」
結構三人とも酔っ払ってるかも。
「だって郷社でもあなた達ってば、やたらやらかしてたし。私だってあなた達を指導出来るほどの実力がある訳じゃないんだからね?」
私はお姉さまに言われ、郷社時代のあれやこれや、ベッキィお姉さまには随分とフォローして貰っていた事を思い出した。
「まぁ、でも今回も色々あったけど、無事に役目を終えられて良かったわ」
「「ありがとうございました」」
その夜は少し遅くまで宴は続き、その後はそれぞれの部屋へと引き揚げた。
翌朝、私達3人は宿の食堂で朝食を済ますと、私とユリィは戦兎族のテリトリーへと帰るお姉さまを見送るべく、船が出るルシタニウス港へと向かった。
「じゃあ2人とも、協力しあって頑張るのよ」
「「お姉さま!」」
桟橋でベッキィお姉さまは私とユリィを交互に抱きしめると、軽やかに船上の人となり、やがてお姉さまを乗せた船は桟橋を離れて行った。
これからは私とユリィの2人、このサラクーダ市で冒険者兼情報員として活動しなければならない。まぁ、別に市の極秘情報を狙えとか、そういったものじゃないし、気負わずにやって行こう。頼もしい相棒もいる事だしね。
「ケリィ、行こっか?」
「そだね」
私とユリィは手を繋ぎルシタニウス港を後にした。港の広場では人だかりの中にグラスランナーの吟遊詩人がいて、演目は知らないけど、高らかに"明日は明日の風が吹く"と歌い上げていた。
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それでは次話「ラブリーラビットエンジェルの大冒険⑤」をお楽しみに!




