第114話 若きギュンターの悩み
雪枝「やあみんな、久しぶり。土方雪枝です。今回は実は何も考えてなくて、友達カップルの馴れ初めを話すね」
「私の母校は県立の女子高なんだけど、最寄駅周辺には焼き鳥屋が幾つもあって、帰りにみんなで焼き鳥を食べるんだけど、友達の寿々は焼き鳥につける辛子味噌を落としてしまったのね。そうしたら近くの県立男子高の男の子が自分の辛子味噌を半分くれて、そこから交際に発展したっていう辛子味噌が紡いだ縁でした、っていう事で、えーと、『救国の魔法修行者』スタートです!」
雪枝「ごめんなさい、ヤオイでした」
その夜遅く、みんなが寝静まった頃、窓から空を、じゃなくて、俺は黒狼族のギュンターの訪を受けた。場所は俺が使っている客室だ。
ギュンターを部屋に入れ、椅子が無いのでベッドの縁に座らせ、俺もその隣に腰を下ろす。座らせたものの、ギュンターは俯いて何も話す気配が無い。俺は急かすのも悪いので仕方なく待つ事に。お互い暫く無言のまま腰掛けていると、おずおずとギュンターが話し始めた。
「ザラクーダのから逃げて来た黒狼族の部民から、市内に多くの部民がいる事がわかりました」
「そうか」
「はい。そして、父と姉もいるらしいのです」
父がいて、姉がいて、多くの部民もいる。族長の息子としてはどうしても気にかかるだろう。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
俺に黒狼族を救う義務など無い。相談に来たという事は、ギュンターは俺に何かして欲しいという事なのだろう。だが、自身の家族、部民に責任があるのは俺ではなくギュンター自身だ。
「僕は、僕は黒狼族の族長の息子です。父や姉が部民が囚われているのなら助け出さなければなりません。なので、明日、僕は一人でザラクーダ市へ向かいます。だからリュータ様にここにいる部民の事をお願いしたいのです」
そう来たか。直情的な奴め。流石にこれは想定外だが、俺に一人で挑んで来たこいつならやりそうな事か。だが、それは違うだろうよ。
「バールには言ってあるのか?」
「いえ、バールは知りません」
はあ、こいつは何を考えてるのやら。バール泣いちゃうぞ、情け無くって。
「お前、一人で行くとか格好いい事言っているが、そいつは蛮勇とか、無謀という物だ。お前一人で一体何が出来るんだ?すぐに捕まるか殺されるかして終わりだぞ。部下にも部民にもしらせず、何も言わないで俺に丸投げか?余りにも無責任じゃないのか?」
俺は何の遠慮も配慮も無く思った事を言ってやった。するとギュンターはぐぅと唸り、膝の上で両拳を握りしめる。
「じゃあ、僕はどうすればいいんですか?確かに僕が一人で助けに行ったところで誰一人助け出す事は出来ない。でも、目と鼻の先に皆がいるんです。何か、何かをしなければならないんです」
「その何かがたった一人の殴り込みか?」
「…」
はぁ、しょうがない奴だ。袖振り合うも他生の縁、ここまで関わって知らん振りも出来まい。
「お前が今すべきなのはそんな事じゃ無いだろう。お前が父上、姉上、部民をどうしても救いたいというのなら、そして自分じゃそれが出来ないというのなら、恥になろうが、名誉も誇りも捨てて、それが出来る誰かに頼むべきじゃないのか?それが上に立つ者の責任ってもんだ」
ギュンター次第だが、俺もこうまで言ったなら自分の言葉に責任を持たなければならないな。
ギュンターは座っていたベッドから立ち上がると、床に両膝を突いて深々と頭を下げた。
「リュータ様、お願いです。皆を救いたいんです。僕に力を貸して下さい」
俺も床に片膝を突いてギュンターの肩に手を置いて頭を撫でる。
「わかった。俺が出来る限りの事をしよう。約束だ」
「はい。ありがとうございます」
「今まで一人で辛かったな。お前は良くやって来た。偉いぞ」
「リュータ様!」
ギュンターはそのまま俺に抱きつくと泣き出した。俺はそれ以上声は掛けず、ただギュンターが泣き止み、落ち着くまで背中を撫で続けた。
翌朝、早速サキが俺を起こしに来た。サキは俺の秘書官を自認しているのでほぼ毎日一緒に居て、毎朝俺を起こしに来る。満峰神社の宿坊では、俺のベッドの縁に腰掛けて俺の体をゆさゆさ揺らして「リュータさん、起きて下さい」というサキに、寝たフリをしながら抱き付いてイチャイチャしたりして、それが毎朝ちょっと楽しみで。いやそうじゃなくて、嗅覚に優れた狼獣人のサキに誤魔化しは効かない。
「リュータさん、どういう事ですか!何でギュンターさんの臭いがリュータさんの体からするんですか!説明して下さい!」
「そっ、そんなに興奮しないで。ちゃんと説明するから。何も疚しい事なんて無いから」
ギュンターの悩みを聞いていたらサキがとんでもない事になってしまった、どうしよう。
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それでは次話「はじめてのチュウ (血塗れ)」にご期待ください。
君は小宇宙を感じた事があるか?




