第113話 斯くして豹は斯く語りき③
斉藤「やあみんな、斉藤岳だ」
ユーリカ「やあみんな、ユーリカ・バル・サバールよ」
斉藤「漸く俺とユーリカにオープニングが回って来たな」
ユーリカ「そうね、お姉ちゃんはしょっちゅう出てるけどね。ところでタケの今までで一番嬉しかった事って何?」
斉藤「そりゃあユーリカと出会えた事だよ」
ユーリカ「本来?嬉しい、私も。じゃあ一番悲しかった事は?」
斉藤「そうだな、めんまちゃんの橋が陸軍に落とされた事かな。秩父は奪還されて再建されるだろうけど、同じものは流石にむ」
ユーリカ「…ねえ、めんまちゃんって誰?」
斉藤「あっ、(やばっ)、そっ、そういう訳で『救国の魔法修行者』スタートだ!」
ユーリカ「タケ、ちょっとお話しよっか?」
斉藤 (リュウよ、お前はいつもこれに耐えていたんだな、揶揄って済まない)
ザックの語りは最早真琴が行っている聞き取りの範疇を超え、今までの自分の苦しみ、悩みを聞いてくれとばかりな感情の発露となっていた。
自分から勝手に喋るのだから楽でいいって?とんでもない。奔流のようなザックの独白に、真琴も口が出せなくなっていて、訊きたい事も訊けないのだ。
ふと真琴と視線を交わすと、真琴は「このまま聴いてましょう?」という感じで僅かに肩を竦めた。
だが、ある程度話してザックは少し気分的に落ち着いたようだった。恐らくザラクーダ市での異常な体験が心理的な負担となっていたのだろう。しかし、状況的に、ザックにとってそれは誰にも話せず、相談出来ない事であった。ここで漸く自分の体験と味わった苦悩をじっくり話し、聴いて貰える機会に恵まれたと言える。また、真琴がザックの喋りたいように喋らせた事も良かったのかもしれない。
そうして、図らずもザックは心に溜まっていた澱ををぶち撒ける事となり、ザックにとってこの聞き取り調査はデブリーフィングとしての役割を果たしたようだった。
「それで、その人体実験というのは具体的にどんなものなの?知っている範囲で構わないから教えてくれない?」
真琴に訊かれたザックはうむと頷き、先程とは違って憑物が落ちたように落ち着き、喉が渇いたのか陶器のカップに注がれていた水を一口飲むと、ふうと息を吐いて話し始めた。
「市長から自衛軍の武装解除命令が出されたが、現場の俺達としては"はいそうですか"とは出来なかった。命令は命令だが、では市民の安全や市内の治安はどうなるのか、と。自衛軍は5つの大隊からなっていたが、五人の大隊長が武装解除に抵抗し、市内は自衛軍と進駐して来た魔王国軍との間で一触即発の状態となったんだ。結局、市議会が仲立ちになって魔王国軍が市民の安全を保証する形で武装解除する事となった」
この後の展開は想像がつく。言っては悪いが、よくあるパターンだろう。
「しかし、我々が武装解除した途端、大隊長達は連行され、それ以後誰もその姿を見る事は無く、俺達中級指揮官は自宅軟禁となった。そして、その直後から元自衛軍の兵士を中心に市民達が吸血鬼に操られたアンデットに連れ去られるようになった」
自衛軍の幹部も立場上仕方なかったとしても、侵略者は約束など簡単に反故にするものだ。
「その兵士は自分の上官であった俺の同僚の中隊長の元に逃れ、連行された市立大学で見聞きした全てを話した」
アンデットにより市民達は市立大学に連行されたという。そして、そこで行われていた人体実験に恐怖し、同じく連行されていた魔族達と共に蜂起して脱走を図ったのだった。
「市立大学で行われていた人体実験は、市立大学の魔術師によって額に角のような物を植え付けられるのだという。その角のような物を植え付けられた者は徐々に自我を失って魔術師に従順となったいったというのだ。そして、更に実験台となって時間が経過した者は外観にも変化が及んでいたそうなのだ」
角のような物を額に植え付けられ、日数が経過した者達。彼等の肉体がどのように変化していったのか?勿論ザックも直接見た訳では無く、脱走した兵士から聞いた同僚からの又聞き情報となる。しかし、ザックの口から語られた内容は実に悍しく、驚き、そして魔王国軍とザラクーダ市の魔術師共に対して怒りを禁じ得ないものだった。
その角は15㎝くらいの大きさで、色は灰色の円錐状なのだという。その角の底面には触手のような物がびっしりと生えていて、ウネウネと動いていたそうだ。魔術師によってその角を額に当てられると、底面の触手が皮膚と頭蓋骨を貫き、その被験者に寄生する。
そうして角を植え付けられて数日経過した者は、それまで自我が無いように従順だったものが、唸り声を上げて悶えてだし、そして全身の筋肉が盛り上がって皮膚が弾けると、全身が黒く角のある蜥蜴の様な顔した魔物になったというのだ。
「その兵士は被験者がその魔物になったというよりは、被験者の中からその魔物が出て来たようだったとも言っていたそうだ」
その言いようでは、角の様な寄生体を脳に寄生させられると、徐々に身体を侵食され、角型の寄生体が被験者の肉体を材料にやがて蜥蜴面の黒い魔物に成長するといった感じだろうか。いや、本当、吐き気がする。
その黒い魔物は魔術師には従順だったそうだが、脱走するため蜂起した市民達に魔術師が嗾けると残虐無比に襲いかかり多くの市民達が犠牲となった。だが、運良く逃げ果せた者もいて、その兵士もそうした中の一人であり、そうしてこの情報が外部に齎されたという事だった。
その頃には進駐していた魔王国軍の部隊は少なくなっていて、ザラクーダ市内では元軍人や冒険者などを中心とした抵抗組織が出来ていた。
「有志連合軍は野戦軍が壊滅したが、全滅した訳でも消滅した訳でもなかった。魔王国軍が占領しているエルム大森林の北の精霊樹の辺りで残存戦力が再結集して非正規戦が展開されている。俺達の抵抗組織とも連絡を取り合っていて、俺達はこのザラクーダ市内での一連の出来事を有志連合軍を通じて今も魔王国軍と戦っている全世界の国々に知らせようという事になったんだ。そして、抵抗組織から決死隊を募りザラクーダ市からの脱出を図ったという訳だ。結果は、まあ、あなた方がいなかったら途中で皆殺しに遭っていただろうがな」
ザックはそう言って、やや自虐的に話を締めた。
食堂内には気まずい沈黙が流れている。まあ、アンデットが大量に攻めて来た時点で市内は碌でも無い事になっているであろう事はお察しだったが、ザックが語った内容はそれ以上の物だったのだ。
道理で考えれば、魔王国軍とザラクーダ市のやっている事は非人道的であり、とても看過していい事ではない。だが、俺は物語の英雄でも勇者でも無い。ましてやこの世界の者でもないので、俺には魔王国軍と積極的に戦い、ザラクーダ市を解放する義務は無い。現時点で俺に責任があるのは俺が率いる形になっているこの集団に対してのみと言える。
だが、ここで考慮すべきなのは二点ある。ザックから齎されたプラントモンスターと黒い魔物になる角の様な寄生体だ。
恐らく、モンスターアタックとして俺達の世界に送り込まれた魔物共はプラントモンスターによって生み出されたものだろう。であるならば、プラントモンスターがある限り俺達の世界にモンスターアタックは続くのである。そして、考えたく無い程悍しい事だが、魔物を送り込まなくても魔王国軍が例の角型寄生体だけ俺達の世界に送り込めば、俺達の世界の人間を材料に幾らでも魔物を生み出す事が出来るようになるのだ。
モンスターアタックは日本だけじゃなく、全世界で起きている。それによって無政府地帯になっている地域だって多いのだ。そんな地域に魔王国軍が角型寄生体を持ち込んだらどうなるのか。人間狩りに黒い魔物の増殖と再生産。恐らく黒い魔物は人間を捕食もするだろう。そんな未来を到来させてはならない。
俺には魔王国軍と戦い、ザラクーダ市を解放する義務は無い。そうした事は本来この世界の者達が為さなければならない事だ。だが、俺の考えは決まった。俺達の世界、祖国日本を守るためザラクーダ市を解放して魔王国軍の企みを潰す。
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それでは次話「若きギュンターの悩み」にご期待ください。
それでは次話も、あなたのハートにテレポート!




