第112話 斯くして豹は斯く語りき②
竜太「やあみんな、4日振り。土方竜太だ」
真琴「やあみんな、朝倉真琴よ」
竜太「真琴は水魔法が得意だよね?」
真琴「水魔法というよりは水に関係する現象って感じかな。新しい魔法も開発したのよ。海を出現させるって魔法」
竜太「凄いな。見てみたい」
真琴「いいけど、まだ制御が今ひとつなの。それじゃあ、波よ至れ!」
ざっぶ〜ん(大波)
竜太「え〜、かなりなビックウェイブです、現場からは以上です。それでは『救国の魔法修行者』スタート!」
真琴「竜太ごめんね。でも海藻まみれでザザーンみたい」
元サラクーダ市自衛軍中隊長ザック・ハーケンの話は次第に熱を帯びて更に続く。
「市の正門を開放し、次から次へと雪崩れ込んでくる避難民を全て受け入れたが、不思議な事に魔王国軍がサラクーダ市を攻める事は無かった。俺達が避難民を受け入れていた頃、市の郊外で避難民を守っていた有志連合軍の戦線が魔王国軍に突破されると、なんと市長から正門を閉じるよう命令が下されたんだ。それは一緒に戦って来た有志連合軍の友軍を見殺しにしろという事に他ならない。当初の計画では避難民だけじゃなく、有志連合軍の将兵も収容してから正門を閉じるて籠城する事になっていたのにだ!だが、市長は有志連合軍を見捨てた。俺は城壁の上から、一方的に殲滅される友軍将兵を見ている事しか出来なかった」
ザックの心情はともかくとして、そのタイミングでのサラクーダ市の裏切りは確かに酷いものだ。だが、その時点では市は多くの避難民を受け入れている。ザックは有志連合軍を見捨てたと言うが、敗走して来る有志連合軍の将兵に魔王国軍が付け入って市内に侵入したならば、市内は魔王国軍による虐殺や掠奪などの大惨事に見舞われるのだ。俺は市と市民と避難民を守るという観点からしてみれば、市長のその判断が必ずしも悪いとは言えないと思うのだが、どうだろう?まあ、ここだけを聞けば、の話だが。
この後はザックの嘆きが続き、長くなるのでちょっと省略。
市の本来の収容能力を超えて収容した避難民達は、この後どうなったのだろうか?
「市の人口に匹敵する避難所を受け入れたのだから市内は避難民で溢れ、はしなかった。避難民は警備隊によって広くて収容能力がある大学の講堂へと導かれて行き、それっきりどこかへ消えてしまったんだ」
そして、ザック達が避難民の行方を探す間も無く、魔王国軍が進駐して来た。
「進駐した魔王国軍は市に対して自衛軍の武装解除を要求した。市長はその要求を飲んで自衛軍に武装解除を命じたが、自衛軍の5個ある大隊の大隊長達は、それでは市の防衛や治安維持の責を果たせないとしてその命令に難色を示した。すると5人の大隊長達は警備隊によって何処かへ連行され、二度と会う事は無かった。そして、大隊長達を連行した警備隊員達は、皆アンデットだったんだ。」
ザックによれば、サラクーダ市と市立大学の上層部の一部が元から魔王国と通じていて、その後、市長や市議会議員達が吸血鬼によって眷属のアンデットにされてしまっていたのではないか?という事だった。全ては魔王国とサラクーダ市の裏切り者によって最初から仕組まれていたのではないだろうか、とも。
「それで、避難民達は何処へ消えたの?」
真琴に尋ねらたザックは、よくぞ訊いてくれましたとばかりに彼等の行方について話し出した。
「避難民達は既にアンデットにされていた警備隊員によって大学の講堂に連れて行かれ、吸血鬼によってアンデットにされた者が多かった。今日あなた方が戦ったのがその一部だ。また、それとは別に多くの避難民達は餌にされたんだ」
「餌?何の餌だ?」
斉藤も餌という単語に反応を示す。
「それは、魔王国軍が軍艦で持ち込んだ魔物を作り出す魔物、プラントモンスターのだ」
サラクーダ市内に幾つかある競技場や野外劇場などの施設に、魔王国軍によって持ち込まれた巨大(どうも小学校の貯水槽くらいらしい)な袋状の臓器のような魔物(なのか?)が設置されているらしかった。魔王国軍の兵士やアンデットにされた警備隊員により、避難民が液体で満たされたプラントモンスターの口が開いた袋状の体内に突き落とされると、その体内で避難民は溶かされて、プラントモンスターは下部にある口状の器官から魔物を次々と生み出したという。
魔物を生み出す魔物。そんな物が存在するとか、どうやって作りだしたか知らないが驚異の魔法文明と言えよう。
ふと横にいるアーニャを見ると、アーニャは両腕を抱いて震えていた。無理もないと思う。アーニャ達の部隊は魔王国軍に追撃されながらも精霊樹によって俺達の世界へ転移され、現在に至っている。もし、あの時に転移されていなかったとしたら、アーニャ達は他の有志連合軍の将兵と同様にサラクーダ市の手前で魔王国軍によって殺されていたであろうし、市内へ逃げ込めていたとしてもアンデットにされるか、そのプラントモンスターの餌にされていただろうから。それにアルベルトさんが領都を放棄してまで避難させた領民達がそんな目に遭わされていたのだ。
そんなアーニャをそのままにしておくようではアーニャの恋人失格だ。俺がアーニャを抱きしめると、俺の腕の中でアーニャは額を胸に押し付けて声を殺して泣き出した。
食堂内は静まり返り、ただ押し殺したアーニャの泣き声だけが聞こえていた。
だが、ザックが話した事で漸く合点がいった。モンスターアタックで現れた魔物とその異常性についてだ。正常な魔物の生態という物をそもそも知らないが、転移者達は口を揃えてモンスターアタックで現れた魔物は異常だと言っていた。滅多に現れない進化体が多いのは野生の魔物ではなく、魔王国軍によって人口的に作られた魔物だったという訳だ。満峰神社の女神様が魔王が魔物を兵器として利用したと教えてくれた事とも一致する。魔王国軍はこうした"魔物を作り出す魔物"で強く、魔王国軍に従順な魔物を作り出していた。
と、そこで俺は一つの疑問を抱くに至った。
「ザックさん、先程はサラクーダ市は魔王国軍のエルム大森林侵攻に合わせたように有志連合を発足させ、避難民を受け入れるとしたと言いましたね?」
「はい。そうです。私見ですが」
「サラクーダ市と魔王国軍はそうして受け入れた何万人もの避難民を次々とアンデットにしたり、プラントモンスターの餌にしたりしている。あまりに手際が良すぎるように思えます。サラクーダ市と魔王国軍は最初からエルム大森林の住民達をそうした目的に利用しようとしていたと考えられませんか?
サラクーダ市はエルム大森林の住民達を纏めやすくするためバラバラだった都市や自治領などを有志連合として纏め上げ、避難民を受け入れるとしてエルム大森林の住民達をサラクーダ市に集めた。全ては魔王国軍がエルム大森林の住民達を資源として利用するために」
ザックは絶句し、食堂のあちこちから息を飲む音が響いた。
「俺には分からない。ただ結果的にその指摘通りになっている事は否めない」
そうすると、アーニャの父親である、あのアルベルトさんもサラクーダ市と魔王国軍に担がれた事になる。アルベルトさんがこの事実を知ったならどうなるだろうか?あの人ならば復讐を誓って、絶対に落とし前を付けさせる事だろうな。
「竜太の説は後で検証するとして、その後はどうしたの?」
真琴がザックに続きを促すと、ザックは再び話を続ける。
「避難民の次は、市の政策に反抗的な市民が捕らえて避難民の後を追う事となった。その事実に市民達は恐怖して、もう誰も表立って市や魔王国軍に反抗する者はいなくなった。そして、魔王に反抗したとされる魔族達がサラクーダ市へ送られるようになったんだ」
その魔族達もプラントモンスターの餌にされたのだろうか?なかなかエグい話だ。俺達の世界にも人身売買、覚醒剤や麻薬の取引、民族浄化に侵略戦争と碌でも無い事は多く、そこから利益を得る碌でも無い連中も多い。だが、魔王国軍とサラクーダ市の所業を見ると、世界や種族による人権意識の違いを痛感する。
「先輩、吐き気がします」
「お兄ちゃん、私も」
寄り添い合う舞と雪枝がそう呟いて嫌悪感を露わにした。
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それでは次話「斯くして豹は斯く語りき③」にご期待ください。
俺の心を鎧が走る!




