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第101話 異世界、ここはイイ世界?①

竜太「やあみんな、久しぶり。土方竜太だ」

アーニャ「…やあみんな、アーニャよ」


アーニャ「ねぇ、リュータ、夏になるとこの国では盆踊りってお祭りがあるんでしょ?私、行ってみたいな」

竜太「いいねぇ。アーニャの綺麗な赤毛には紺色の浴衣が似合いそうだな。そうだ、アースラ諸族連合でも盆踊りをやってみようか?」

アーニャ「…本当?嬉しいな」


竜太「浴衣姿の彼女と夏祭り。屋台に花火。はあ〜、日本の夏だねぇ。という訳で『救国の魔法修行者』スタートです!」


アーニャ「じゃあ、通販で浴衣と髪飾りと下駄と巾着と、指輪買って?」

竜太「まあ、いいけど、って何で指輪も?」

アーニャ「…うん」

竜太「まあ、いいけど…」

世界線を越える時の感覚ってどんなだろう?自分が体験してみて思った事は、単に霧が晴れて視界が良くなっただけだった。特に目眩や吐き気がしたり、空間が歪んだりといった事も無かった。霧と共に含まれていた魔力も帯電していた静電気も消失していたけど。


霧が晴れると、そこには「ようこそ、勇者様」とにこやかに微笑むお姫様など当然居ない。別に期待なんかしてなかったが。エーリカ達はまだ俺に抱き着いたままだ。


「みんな、霧が晴れたよ」


「ん〜?」


俺が声を掛けると、抱き着いていた女の子達が漸く再起動する。


「お兄ちゃん、ここどこ?」


「なんか森の中ですけど、単に霧が出て晴れただけなんじゃ、って事は無さそうですかねぇ?」


雪枝と舞は周囲を見回す。どうも舞が言ったように、単に元いた場所に霧が出てだだけではないようだ。今、俺達がいるのは鬱蒼とした深い森の中。濃いフィトンチッドの匂いが満ちている。少なくとも笛吹川沿いの山に囲まれた国道ではない。


周りを見渡すと一見俺達のメンバーは全員いるように思える。俺はラミッドとミアに全員の安否確認を命じて状況の把握に努める。


「やっぱり異世界へ転移しちゃったみたいね。エーリカ、此処がどこかわかる?」


「ちょっと待って」


真琴に尋ねられたエーリカは、俺達から少し離れると、くんくんと森の空気を嗅ぎだした。そこにサキとガーライル達が続く。


くんくん、すんすん


狼獣人達の森の匂いを嗅ぐ音が続き、エーリカは両眼を瞑って精神を集中させている。どうやら森の精霊達の声を聞いているようだった。


エーリカとサキ、ガーライル達は顔を見合わせ互いに頷き合う。結論が出たようだ。狼獣人達の視線を受けてエーリカがここがエルム大森林であると皆に告げた。


「間違い無いのか?」


「うん。森の匂い、生えている草木がエルム大森林のものだし、精霊達もここがエルム大森林だと教えてくれた。多分、中央山地の西側の麓辺りだと思うわ」


うーん、どうしたものか。これが斉藤とユーリカが予知した何かなのだろうか?俺が斉藤に視線を向けると、奴は無言で肩を竦めた。


「兄貴、俺達は全員無事だったぜ」


「そうか、済まない」


「リュータ様、黒狼族も全員居りまする」


ラミッドが全員の無事を報告すると、黒狼族のバールも何故かラミッドと一緒に人狼達の無事を報告してきた。


「え?そうなの?良かったな」


「ははっ」


そして何故かギュンター以下黒狼族全員が揃って片膝を付いてこちらに頭を下げている。黒狼族全員からそんな事をされる謂れは無い訳だが、俺は説明を求めてギュンターに視線を向ける。


「リュータ様、我等黒狼族一同はこれよりリュータ様のお下知に従います。何なりとお命じ下さい」


「いや、お前達は魔王国軍だろう?降伏したといったって別に俺に従う必要なんて無いんだぞ?」


俺がやんわりと拒絶すると、それを聞いたギュンターは頭を振った。


「いいえ、僕達は確かに魔王国軍に属していましたが、単独で降伏したとなれば元々裏切り者、反逆者の誹りを受けていた僕達です。もう魔王国軍内に居場所なんてどこにも有りません。もし戻ったりすれば僕達は全員捕らえられ、単独降伏した咎で処刑されるでしょう。他の部民の行方も安否も分からない以上僕達が皆処刑されれば黒狼族は絶滅となってしまうかもしれません。お願いします、是非、ご配下にお加え下さい」


いや、そう言われても降伏した敵なんてとてもじゃないが信用なんて出来ない。彼等の身上は気の毒ではある。しかし、だからといって配下に加えてって、俺が面倒見なければならない理由なんて無いだろう。


「ここはお前達にとって元の世界なんだから、魔王国軍の本隊に戻れないなら、他の支族を頼ったらどうだろうか?」


と、そんな事を提案してみたが、人狼の世界もそう単純でも甘くも無いらしい。


「魔王国の庇護下に入った僕達黒狼族は、他の支族からは良く思われていません。仮にここから他の支族のテリトリーに赴いても彼等が僕達を受け入れてくれる保証は無いですし、彼等の元に辿り着く事も今となっては至難の業です」


ギュンターはそう黒狼族の辛い立場を説明すると、俺を見上げる。


「…」


う〜ん、どうしたものかなぁ。そんな段ボールの中の捨て犬みたいな目で見ないで欲しいなぁ。


「リュウ、どうやら面倒見るしかないみたいだぞ?」


「竜太、戦争状態にあってこちらから降伏を求め、交戦相手がそれを受け入れて私達が捕虜にした以上、ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約によって私達は彼等を保護しなくてはならないわ」

 

果たしてこの世界で魔王国軍相手にジュネーブ条約やハーグ陸戦条約が適用されるのか?という問題はさて置き。黒狼族は魔王国軍の部隊である事は明確であり、俺達の集団は民間人や外国軍の軍人がいるものの、日本の国防陸軍の軍人が魔法研修という軍務で率いており、その最中に双方が交戦状態となった。政府や国防省がどのように判断するのか知らないが、異世界で連絡手段が無い以上は、現場としては法令に従わねばならない、か。


「土方教官、ここが異世界で、現在我々が陸軍の指揮命令系統から外れているとはいえ、軍法からも外れたら我々は単なる武装勢力になってしまいます」


武田少尉もそのように述べる。確かに、その通りだ。


「わかってるって。ギュンター、これから黒狼族を正式に捕虜として扱う。お前を捕虜の代表者とし、バールを副代表者とする」


「「ははっ、有り難き幸せ」」


「武田少尉と山本少尉は彼等に捕虜の義務と権利について教えてやってくれ」


「「了解」」


という訳で、俺達一行は黒狼族の人狼達50人が加わって、一気に75人もの大所帯になってしまった。



誰の思惑なのか、エーリカ達がいた世界へ転移させられてしまった。だが、こちらにはこの世界出身者がわんさかいる。エーリカを始め、俺達の仲間は皆信頼できる者ばかり。そして、俺達は皆魔法が使えて、武器もある。このアドバンテージは大きく、そう考えると、異世界に転移させられてしまっても特に恐い物など無い、かな?


「よし、考えるのは後にして、取り敢えずメシと野営の準備をしよう」


その内、好むと好まざると、きっとまた何か面倒事に巻き込まれる。それは何となく分かっている。だが、それはそれとして、何をするにしても食べる事は大事。腹が減っては戦はできぬって言うからね。


いつも『救国の魔法修行者』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


それでは、次話「異世界、ここはイイ世界?②」にご期待ください。


命あるところ、正義の雄叫びあり!

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