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第100話 白い闇を抜けて

竜太「やあみんな、5日振り。土方竜太だ」

雪枝「やあみんな、土方雪枝だよ」

雪枝「ところでお兄ちゃん、私、禰宜の畠山さんから式神の作り方を教えて貰ったから見てみて」

竜太「どれどれ」


雪枝「出でよ、しろくの蝦蟇!」


折り紙のカエルに息を吹きかけて投げる


雪枝「どう?お兄ちゃん?」

竜太「雪枝さ〜ん?なんでお兄ちゃん、どでかいカエルに丸呑みにされようとしているのかな?」

雪枝「う〜ん、まだまだ改良の余地ありね。お兄ちゃん飲み込まれちゃったけど大丈夫でしょ。という事で『救国の魔法修行者』スタートです!」


竜太「う〜ベトベトだ。風呂に入らせてくれ」

雪枝「ほ〜ら、大丈夫だった」

降伏した50人程の人狼達を道の真ん中に集めた。俺達は人狼達を囲み、依然として彼等の生殺与奪の権を握っている。これから色々と彼等から聞き出さなくてはならない。なので、ここからは斉藤にバトンタッチし、奴に尋問を進めて貰う事にする。そういう役は斉藤の方が似合っていそうだからな。


「僕の名前はギュンター。黒狼族の族長ワーレンの息子です」


俺を襲撃して返り討ちに遭って捕らえられた若い人狼は、斉藤にまず名を聞かれてそう名乗った。斉藤は両腕を組むと片方の眦を僅かに上げ、路面に座らされているギュンターを見下ろして続きを促した。


「僕達黒狼族は人狼の4支族の1つで…」


長くなるので要約すると、人狼は黒狼族、灰狼族、白狼族、銀狼族の4支族から成り、それぞれの体毛の色からそう呼ばれている。彼等の居住する自然環境により体毛が異なるようになり、黒狼族は森林、灰狼族は草原、白狼族は高山地帯、銀狼族は北方の寒冷地にそれぞれ元は住んでいたという。


「人狼は魔族の一種族と言われていますが正確には違います。僕達黒狼族が魔王国に属するようになったためそのように思われたのです。僕達黒狼族は生息域がヒト族の生活圏に近く、利害が対立する事も多かったのです。そのため、僕達のご先祖は生き残るために魔王様の庇護を受けるようになりました」


「それで魔王国軍に従軍していると?」


「はい。ですが、そう単純な問題ではありません。族長である父はこの侵略戦争には反対の立場でした。魔王国は隣国とは様々な外交問題を抱えつつも、歴代の魔王陛下や元老院の努力によって概ね良好な関係を築いてきました。貿易でもどの国に対しても巨額な赤字になる様な事にはなっていません。そのような状況で何処に対しても戦争を仕掛ける理由など無かったからです。しかし、今上の魔王陛下は独断で戦争準備を進め、全世界を相手に開戦するに至ってしまったのです」


ギュンターはここで一度話を切り、僅かな逡巡の後、再び話を続けた。斉藤はもう無理に話の続きを促す事は無く、おそらくギュンターが自ら喋るだろうと踏んだのだろう。


「黒狼族の族長である父は元老院に族長として議席を持っていました。そして魔王陛下は元老院の解散を一方的に宣言すると、反対派の粛清に乗り出し、父も開戦に反対していたため鬼族の親衛隊に襲われて捕らえられてしまったのです」


なるほど。何を目的に全世界相手の戦争を始めたのかは知らないが、魔王国内にも鳩派というか常識がある連中もいたという事なのか。そして魔王が直々にカウンタークーデターを仕掛けたと。


「捕らえられたのは父だけではありませんでした。僕の姉も、ここにいる部民達の家族も同様です。僕達黒狼族はそうして族長やそれぞれの家族を人質にされ、魔王陛下の命令によって従軍せざるを得なかったのです。部族はバラバラにされ、それぞれ最前線に送られました。そして、戦争が魔王国軍が優位な元に進むと、遂に異世界にまで派兵する事となり、族長の息子である僕も部族の半分を率いて異世界遠征に従軍するよう命じられたのです」


話を聞く限りでは、この若様もなかなか辛い立場のようだ。ギュンターの話を聞いてあの大柄な人狼バールも俯いて肩を震わせており、他の人狼達からも「うぅっ」とか「くっ」とか抑えた泣き声が聞こえてきている。ギュンターの話を自分達の泣き声で妨げないようにしているようだ。若様は随分と部民達に慕われているのだな。


"なあ、どう思う?"


俺は斉藤の意見を聞いてみた。


"少なくとも嘘は言っていないようだな"


"俺もそう思う"


考えてみれば、斉藤はギュンターへの尋問に際して「大人しく吐け!」とか脅しも強要もしてなかったな。最初に話すよう促しただけだった。


まあ、ここでいつまでもこうしている訳にもいかない。そこで、俺は最後にギュンターが単独で襲撃して来た件について尋ねてみる。


「では、最後に1つ。何故俺だけを狙った?お前達の方が多く、総力を挙げて攻撃すれば俺達にもかなりダメージを与えられたはずだ」


集団の頭を真っ先に潰す。指揮命令系統を先に叩くのは集団戦の定石だ。かつてのドイツ空軍もB-17の編隊を迎撃する際は隊長機を最初に狙ったそうだしな。だが、それは戦力的に劣勢にある側がやる戦法であって、ギュンターが単独斬り込んで来ては自分が返り討ちに遭うリスクがあろう。


「それは、僕は捕らえられている部民達を救い出さなければなりません。そのためには少なくともここにいる部民達の力が必要なのです。徒らに部民達を損なう訳にはいきません。ですから部族で最も腕の立つ僕が単身で仕掛けたのです。まあ、結果はこの様ですが」


ギュンターは自嘲気味にそう言って肩を竦めて見せた。何かちょっと可愛そうになってきた。


「まあ、相手が悪かっただけで、なかなかの攻撃だったぞ。俺が思うにお前は力に頼り過ぎているな。力だけでは限界が来る。力に技が合わさってこそだ。お前が技を修めたならば更なる上を目指せるだろう」


「本当ですか?!」


え、何?そこに食いつくのか?


「まあ、そうだな、嘘は言わない主義なんだ」


「僕に剣の技を教えて下さい!お願いします」


「俺達は敵同士なんだけど?」


「あっ!」


こいつ、何今気付いたみたいな声出してんだ。こいつの今の立場で、こんな時によくそんな事を言えるなんて、ある意味大物だよな。


「おい!そんな事は後にして続きを話せ」


やはり族長の息子ともなると感覚が少しズレて来るのだろうか?斉藤がちょっと苛立ったように急かした。ところで、後ってあるのか?


「そして部民達を救い出すためには異世界派遣軍総司令であるプリンツカイネルの信用を得て僕達の立場を強化しなくてはなりません。プリンツカイネルは公平な方だと聞いていたので、ここで何かしらの手柄を挙げておきたかった。だから、あなた方を監視していて、この集団のリーダーであるあなたが「リュウタだ」え?あっ、はい、リュータ様がかなりの強者と分かっていたので、そのために襲ったという理由もありました」


プリンツカイネルか。魔王の第一王子だったかな?あいつが派遣軍の総司令なのか。ギュンターの今の話だと部下から信頼されているようだな。まあ、何となくわかる。



そして、肝腎なこの世界に転移してきている魔王国軍の戦力と配置、派遣目的について尋ねた。しかし、成果は芳しく無く、黒狼族の部隊は派遣軍の中でも魔王に逆らった部族としてハブられていて、あまり情報は与えられていないそうだ。だからあまり情報が無く、甲府城の辺りが派遣軍の本拠地になっているとか、そんな事を知っているくらいだ。


ギュンターの言った事が本当か否か。ギュンター自身は正直に喋ったようだが、当然欺瞞情報かも知れず何とも言えない。まあ、魔王国軍の動向は国防軍が衛星や偵察機などで把握しているだろう。これ以上ギュンターを締め上げたとしても大した情報は出て来ないだろう。そもそもが情報収集目的ではないのだから、この辺りが潮時だ。


だが、そうなると、この人狼達をどうするか?という問題が残る。正直なところ聞く事聞いたから用済みである。降伏はしているが、満峰神社に連れていってもいつ反乱を起こすか知れたものではないし、これ程の人狼の集団ともなるとアースラ諸族連合警備隊に引き渡しても彼等の手には余ってしまうだろう。国防軍に引き渡すのがいいのか?


このまま、「もう悪さすんなよ?」と、ここでリリースしても、結局敵の数を増やすだけだし。もう面倒だから、いっその事、ここで皆殺しにして焼却してしまおうかな、なんてね。


「リュータ」


エーリカに呼ばれて、俺の意識は耽っていた思考から引き戻された。


「エーリカ、どうかしたか?」


「何か悪い事、考えていたでしょ?」


え?ギクッ!


「そんな事無「あるでしょ!」」


すると他の女子達も一斉に俺を非難し始めた。何で?


「ねえ、竜太。確かに手取り早くて面倒ないけど、それをやったら人としてどうなの?」


「お兄ちゃん、最低!」


「先輩、考えて直して下さい」


「リュータさんのする事なら、私何でも受け入れます。けど…」


「…リュータのしたいようにすれば良い。反対はしない」


いや、何故か俺が人狼達を皆殺しにする前提で物言うのやめて欲しい。


「可能性の一つとしてちょっと考えただけだから。そんな事しないって!」


「「「「本当かなぁ?」」」」

「リュータさん、私耐えてみせます」

「…リュータ、敵は飽くまでも敵」


と、そんな遣り取りをしていたら、ギュンターが遠慮がちに尋ねてきた。


「あの、一つお聞きしても良いでしょうか?」


捕虜の分際で質問、だと?


「リュータ、また悪い顔してるよ!」


エーリカの言い様では、先程の俺はかなり悪人面だったようだな。


「まあ、聞くだけ聞こうか。答えるかどうかは別として」


「有難う御座います。では、リュータさんは一体何者なんですか?」


俺が何者か?自分は何者であるのか、と言った哲学的な問い掛けではなさそうだな。


「俺の名は土方竜太。俺が何者なのか問われれば、この国の男で、一応軍人でもある。然してその正体は、この土地を守る狼の女神と空を守る龍神から信託と加護を授かった、言うなれば通りすがりの魔法修行者だ。憶えておけ」


「はぁ、魔法修行者、ですか」


おっと、最後の決め台詞はスルーか。何故か周りから冷たい視線を感じるが。


「でも、リュータ様からは狼神の息吹を感じていました。やはり狼神の加護を授けられているのですね?更には龍神の加護までも!」


ギュンターが興奮気味にそう言うと、人狼達からも「おおー!」という感嘆の声が上がった。いや、また何か別の方向に向かおうとしている気がする。



すると、いつの間にかひんやりと湿った空気に纏われている事に気付いた。まだ、早い午後だ。晩秋とはいえ霧が出るような時間じゃない。そして、この霧には魔力が含まれ、更に帯電していた。


次第に濃さを増す霧。自分を含めたこの世界の人間は急に立ち込めてきた霧に驚いてはいたが、エーリカ達異世界組は驚くばかりか、明らかに狼狽え、動揺していた。人狼達も同じく周囲の様子を窺いだす。


人がいる至る所でバチバチと火花を放ち、或いは輪郭がぼうっと光だす。


「エーリカ、この霧は一体、」


「あの時の霧よ」


「あの時の霧?」


「私達はこの霧に巻かれて、気付いたらこっちの世界に来ていたの」


という事は、俺達はこれから異世界に転移させられるという事か?


霧は更に深く立ち込めて、もう視界は真っ白で何も見えなくなっていた。


「リュータ」

「竜太」

「先輩」

「お兄ちゃん」

「リュータさん」

「…リュータ」


すかさず俺に抱き付いて来る恋人達、と妹。例えどこに転移したとしても、この娘達は我が身に代えても守らなくてはならない。


「みんな、離れるなよ!」


霧が晴れたら俺達はどこにいるのか?そして、この事態は誰が望み、誰によりなされた事なのか?取り敢えず、暫くはこの神の見えざる手になされるがままでいるしかなさそうだ。

いつも『救国の魔法修行者』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。


次話も寝ないで読んでね!

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