第99話 狼なんか恐くない②
綾音「やあみんな、お久しぶり。巫女姉妹の姉、渋谷綾音よ」
香菜「やあみんな、妹の香菜です」
綾音「香菜、遂に私達がこのオープニングを担う日が来たわね」
香菜「こうでもしないと私達出番があまり無いしね。でも姉さんは彼氏いるからまだいいけど、私なんかそれも無いし」
綾音「あ〜何かごめん」
香菜「じゃあ私が決め台詞言っていい?」
綾音「ど、どうぞ」
香菜「それじゃあ『救国の魔法修行者』スタートです!」
香菜(姉さんにはまだ言ってないけど、今西少佐と付き合ってるんだけどね)
黒い影により俺の頸部に振るわれる一閃の刃。俺は左に身を捻ってこれを躱すと、着地した黒い影は更に俺を突き殺すべく刃を突き出す。俺は刃を右に半身を切って避け、左手で黒い影の右腕を捌いた。影の奴は捌かれた勢いで地面に腹這いで叩きつけられ、ガフっと息を吐く。
俺を襲った黒い影。その正体はやはり人狼だった。俺は腹這いに転がる人狼にすかさず電気魔法でショックを与える。すると人狼は「ギャン!」と悲鳴を上げて意識を失った。
噂に違わぬ人狼の凄まじい高速機動からの攻撃。俺じゃなかったら危なかっただろう。さて、こうして人狼の一人を捕虜にした訳だが、こいつは明らかに俺一人を狙っていた。それがどのような意図からなのか?尋問も拷問も出来るが、俺達が人狼に包囲されている現状に変わりはない。周囲からあの高速で一斉に飛び掛かられたら、俺達の誰もが無事じゃいられないだろう。
今はもう斉藤と話し合っている暇は無い。俺はガーライル達へ捕虜にした人狼の拘束を命じ、全員に念話で俺の作戦を伝え、次いで魔法による遠距離攻撃準備を指示した。
「人狼どもよ、よく聞け!」
俺は包囲する人狼達を誘き出すため、捕らえた人狼の末路について風魔法を使って辺りに拡声した。
「これより、この俺様を亡き者にしようとした愚かな人狼の処刑を行う。この物の無惨な末路こそお前達全員の未来と知れ!せめて苦しみが続かぬようお前達の神に祈るがいい」
この悪者感丸出しな台詞が谷間に響き渡る。先程までとは違ってザワザワとした動揺の気配が周囲から感じられるが、あからさまに動く気配は無い。
俺は更に後ろ手に縛られ膝まづかされ、項垂れている人狼の下顎に雷丸のこじりを当てると、グイッと顔を上向かせた。この人狼の意識は既に回復していて、狼の顔なので今一つ表情も雌雄の別も分からないが、悔しそうに憎々しげに俺を睨んでいる。
俺は威圧を込めて周囲の人狼達の動きを誘うべく、死刑執行の言葉と共に右手を上げて頭上に殊更大きな火球を作り出した。
「貴様など我が刀を抜くまでもない。この灼熱の炎で焼き尽くしてくれる!」
捕らえられた人狼は俺の威圧と頭上に燃え盛る炎の塊に流石に恐怖の色を浮かべ、ギュッと目を閉じた。
(おいおい、こっちだって今更引っ込みつかないんだから、何かアクション起こしてくれよ!)
内心焦りを感じつつ、俺はじわじわと火球を人狼に近付ける。
と、そこで漸く森の中から声がかかった。
「待て、話し合いがしたい!」
ふう、やっとか。全く心臓に悪いぜ。
それは深く低い壮年男性の声で、笛吹川の右岸から果たして一際大柄な人狼が現れた。
「それ以上動くな。そこで止まれ!」
大柄な人狼はラミッドに制止されると、川を渡り切った岩の上で立ち止まった。すかさずラミッドとアミッド、ガーライル達狼四人衆が包囲する。
「待ってくれ、貴公らとの話し合いを所望する」
大柄な人狼は再び話し合いを求めた。そいつは軽装のレザーアーマーを着装しているが、身には寸鉄も帯びていないようだった。
「まずは全員に姿を見せるように言え!」
「わかった」
大柄な人狼に促されて周囲の森からゾロゾロと人狼達が姿を現す。皆一様に黒く、総勢は50人ほどか。
「話し合いと言うが、殺し合いを仕掛けて来たのはお前達だ。都合が悪くなれば話し合いなどと虫の良い事を言い出すようなお前達を信用するほど俺達は甘くない。今、こうしてお前達が姿を見せた以上、俺達はお前達を皆殺しにする事など造作も無い事だ」
人狼達が姿を現したからといっても、俺は皆に攻撃魔法の準備を解かせてはいない。俺は皆に攻撃魔法の発現を念話で指示する。すると、たちどころに俺達の頭上には様々な魔法により氷の礫、火球、水刃となる水球、唸りを上げる旋風、プラズマ状の光球が現れた。俺が右手を振り下ろせばこれらは人狼達に殺到し、次の瞬間には立っている者はいなくなっている事だろう。
「ぐぅ、卑怯な!」
大柄な人狼が俺を射殺さんばかりに睨む。
「ふははは、褒められたと思っておこう!」
いや、俺もここまで悪役に徹するつもりは無かったのだが、乗りと勢いでつい言ってしまった。女性陣からの冷たい視線を感じるが、ここは無視だ、無視。
「待て、待ってくれ」
すると、焦ったように捕らえた人狼が口を開いた。
「降伏する」
「若!」
「あんだってぇ?」
あぁ、これも言うつもり無かったが、つい!
「僕達の負けだ。僕はどうなっても良いから部民達の命ばかりは助けて欲しい」
「「「若!」」」
「バール、皆に抵抗するなと伝えろ」
捕らえられている若と呼ばれた人狼が降伏の意を示し、部民達の助命を嘆願すると、周囲の人狼達は立ったまま、或いは脱力して両膝を着き、そして互いに抱き合いながらさめざめと泣き出した。あのバールという大柄な人狼も右腕を両眼に当ててオイオイと男泣きしていた。
(何、これって俺が悪いの?)
この意外な展開に俺は思わず隣にいた舞と顔を見合わせてしまう。
"先輩、これじゃまるで私達が悪者みたいですね?"
"…ちょっとやり過ぎたか"
俺が咄嗟に考えた作戦が上手くいって、何とか最悪の事態は回避出来たようだ。しかし、釈然としないのは何でだろう?
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それでは、次話もお楽しみに
No continueでclearしてやるぜ!




