第97話 人狼戦線
竜太「やあみんな、8日振り。土方竜太だ」
サキ「やあみんな、サキです。私、リュータさんに聞きたい事があるんです」
竜太「何かな?」
サキ「リュータさん、私には、その、キ、キスとかしてくれませんよね?私とは嫌なんですか?」
竜太「そっ、そんな事ないよ」
サキ「もしかして私の事、まだ子供だとか、妹とみたく思ってませんか?私もう成人だし、妹さんは雪枝ちゃんですよ?」
竜太「ちゃんとサキには嫁になって貰うから焦らないでくれ」
サキ「やったー!初プロポーズ頂きました。それでは『救国の魔法修行者』スタートです!」
竜太「言わされた感ありありだけど、まあいいか」
一夜明けると、俺達は軽い朝食を済ませて野営地としていた集会所を出発。笛吹川沿いの国道は山中とは違って泥や落葉の堆積が少なく、前日よりも早いペースで進む事が出来た。
甲州市に入ると、その郊外は破壊を免れた民家や店舗が散見されるも、市街地へ進めば戸建ての民家は破壊され、或いは火災により焼け落ちていた。マンションやビル群は窓という窓が割られ、やはり火災が起こったのか黒く煤けた外壁が目立った。
ここでも道路はアスファルトは至る所でひび割れ、草が茂っていた。しかし、幹線道路は大集団による頻繁な往来があったようで、一定幅が草も泥も踏み固められていた。魔物は基本山中に生息しており、人型のオーガやオーク、ゴブリンなども例外ではない。となれば、何者によってこの幹線道路を一定幅に踏み固められたのかといえば、
「魔王国軍だな」
「だな」
俺と斉藤は互いに頷き合う。
「ねえ竜太、ここは引き上げた方がいいんじゃない?」
「そうだな。俺もそう思う」
真琴はそう言って甲州市からの撤収を具申した。勿論、俺も同意見なので直ちに賛成する。俺達の目的は飽くまでも魔法研修の一環としての長距離偵察だ。とはいえ、長距離偵察と銘打っていてもベトナムで米陸軍の特殊部隊がやっていた情報収集やハンターキラーのような事はしていない。研修で修めた魔法で魔物との魔法戦闘を体験させる事が目的だ。だから情報収集は副次的なもので、或いは草に伏し隠れ或いは水に飛び入りて、万死恐れず敵情を視察したりはしない。まして、魔王国軍との戦闘なんて以ての外だ。
俺は研修生達に長距離偵察を中断して即時撤収する方針である事を説明した。彼等アメリカ組は魔王国軍についてはアメリカ側から何も知らされていなかったらしく、そうした存在がある事にかなり驚いていた。逆に俺からしたら「えっ、知らなかったの?」って感じなのだが。
「それじゃあモンスターアタックを引き起こしたのは異世界にいる魔王とやらで、モンスターの次に麾下の軍隊をこの世界に送り込んできたというのか?」
「そういう事だ」
「そんな事、俺は初めて聞いたぞ?」
何故か斉藤とトッドが丁々発止の遣り取りを繰り広げている。この二人は似たようなタイプだ。こうした場合、気が合わなかったら反発するのが鉄板。
「俺達は知り得た情報は全て陸軍を通して政府に報告している。その先は日米政府間の問題だ。悪いが俺達の知った事ではない」
まあ、身も蓋もない言い方だが、斉藤の言う通り。トッドもそれを理解しているのだろう、ムッとして斉藤を睨んでいる。
撤収は急がなければならない。こうしている間にも俺達は魔王国軍に発見されているかもしれないのだ。いや、既に発見されているという前提でいた方が良いだろう。
とはいえ正直なところ、今の俺達の実力ならば魔王国軍(勿論規模にも因るが)との遭遇戦もさほど脅威ではない。だが、そうした遭遇戦から双方が応援を呼び、次第に戦闘も戦域も拡大した事例は戦史に照らしてみてもノモンハンとか枚挙暇が無い程だ。やはりここは三十六計逃げるに如かずがベストだろう。
こうした場合、本来なら往路をそのまま戻るような事は避けた方が良い。俺達が魔王国軍に発見されていると仮定すれば、予想される撤退経路に伏兵を置くのは定石だからだ。しかし、俺達の誰も甲府盆地にいるであろう魔王国軍の戦力規模や配置を知らない。そうした中で迂回路を探して行くのも危険と言える。俺達の戦力は少数ながらもかなり強力だ。ならば伏兵を恐れず往路をそのまま戻る事にした。どの道ここは敵中なのだ、一線は覚悟しなければならない。
国道を広瀬湖に向けて進み、やや開けた盆地から山中に入ると追跡されている気配が窺えるようになった。やはり俺達は早々に魔王国軍に発見されていて、木々に紛れて姿は見えないが、どうやら追跡されているだけではなく包囲されてもいるようだった。
「リュウ、このまま気付いていない体で進もう。あからさまに警戒すれば無用に奴らの対応を誘う事になる」
「わかった。だが、一応全員に事実を周知させよう。このメンバーなら今更素人みたいな真似はしないだろう」
確かに魔物と違って魔族は未知の敵だ。しかし、俺達の誰もが伊達に三年間も害特封地で戦い続けている訳ではない。自分も含めて皆若いが、俺達の誰もが歴戦の戦士であるのだ。研修生達、特に国務省のトッドは怪しいが。
とはいえ、どんな連中がどれくらいの戦力で俺達を包囲しているのかは知りたいところ。だがもし、敵情把握のために探知の魔法を使えば、それで魔王国軍に俺達が包囲の事実に気付いている事がバレてしまう。だからといってこちらから手を出して敵情を探るのは更に悪手だ。となれば、こちらの敵情把握の手段として考えつくのは二つ。
「ガーライル、ウルク、ライル、アイク」
「「「「はい!」」」」
狼獣人4人衆に声を掛けると、たちまち俺の傍に集まる4人。4人とも神妙な表情をしているが、大きく振られている見事な尻尾がその表情を裏切っていた。歳下のケモミミイケメン達に尻尾をブンブン振られている図というのも、女子ならときめくかもしれないが、俺はそれほどでも… まあ、好意を向けられて嬉しくはあるけどね。
「状況は先程念話で伝えた通りだ。包囲する魔王国軍から種族を特定出来る何かしら臭いや気配などわかるか?」
俺にそう尋ねられて、う〜んと考え込む4人。狼獣人の嗅覚や聴覚で何かしらの情報が掴めると思ったのだが。すると、4人の内双子のライルとアイクが「あまり確証は無いのですが」と前置きしつつ臭いについて報告する。
「一瞬だけなんですが、微かに狼の様な臭いがしたんです」
「俺達とは明らかに違うんです」
う〜ん、狼ねえ。俺は4人に礼を言い、次にリッキーを呼んだ。
「リュータ教官、何でしょう?」
リッキーも何やら上気した表情で俺を見上げている。うん、まあ、実に可愛いが今はスルーしよう。
「済まないが、リッキーの千里眼で俺達を包囲する連中を探ってくれないか?」
「はい、やってみます」
リッキーは二つ返事で引き受けてくれた。探知魔法と違って千里眼は彼女自身の能力だ。魔力を使わないのでこちらの探知がバレない。そして、彼女は千里眼を使ってサラマンダーを始めとする数多の魔物を見つけては屠っている。期待していいと思うのだが。
リッキーは両眼を閉じて心持ち上を向き、祈る様に両手を胸の前で組んでいる。そしてゆっくりと両眼を開くと俺と向き合ってニッコリと微笑む。
「見つけました」
「それで、どんな奴等だ?」
「はい。全身黒い毛で覆われています。ですが、人の様な姿で、顔は両耳がピンと立ち、鼻面が長くて人の姿をした狼と言った感じです。正確な数はわかりませんが、50人から60人くらいでした」
ライルとアイクが言った嗅いだ事のない狼の臭い。リッキーが千里眼で見た人の姿をした狼。その意味するところは、
「リュータ、それって人狼じゃないかしら?」
エーリカがズバリと指摘する。
「人狼、だと?」
いつも『救国の魔法修行者』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは、次話「狼なんか恐くない」にご期待ください。
君も僕に釣られてみる?




