第96話 マジックパレードマーチ
竜太「やあみんな、三日振り。土方竜太だ」
雪枝「やあみんな、土方雪枝だよ」
舞 「やあみんな、北川舞です」
雪枝「そう言えば、お兄ちゃんって中学高校の時は彼女とかいたの?」
竜太「それが出来なくてさ。告白してくれた女の子は何人かいたけど、数日後にはみんな取り消しちゃうんだよ」
雪枝「えーっ、何で?」
舞「言えない。女子の間に先輩を独り占めしない淑女協定が結ばれていたなんて、とても…だから!『救国の魔法修行者』スタートです!」
竜太「…」
雪枝「舞さん、心の声だだ漏れだったね」
県境を越えた先の広瀬湖、その湖畔にバーン達火竜一家が棲んでいる。また、エルフのサバール村もあり、火竜とエルフの存在が埼玉県側へ侵入して来ようとする魔物を防いでいる。サバール村のエルフ達は正直あまり好きではなかったが、彼等の魔法能力については信頼出来るので、あの場所にエルフ達が村を営んでくれた事により国道の往来が確保されている。これには好悪の情とは別に感謝しなければならない。
害獣出現特別封鎖地区の埼玉県側は、アースラ諸族連合警備隊やサバール村のエルフ達、バーン一家のお陰で魔物はほぼ駆逐されていて、アースラ諸族連合からも安全宣言が出されている。そのため今回の研修から長距離偵察では魔物がいる山梨県側に出なければならなくなった。
唐突だが、俺は父親から爪弾きにされて家族旅行なんて行った事が無かった。高校を卒業するまでは旅行といえば遠足や修学旅行、剣道部の大会や合宿くらいなもの。しかし、大学生になると師匠から紹介して貰った警備会社のアルバイトで随分とあちこちに赴く機会が増えた。そのアルバイトとは鍛えた錬気道空手等を用いた身辺警護で、警護対象には政治家が多く、遊説や選挙応援などそうした警護対象に付いて長距離を移動する必要があったためだった。
流石に学生のアルバイトなので長時間は出来ず、土日を挟んで3、4日が精々で、地域も関東を中心とした東日本が多かった。その中でも山梨県は比較的訪れる機会が多かった場所と言える。
それは何故かと言えば、よく俺を身辺警護に指名してくれたクライアントが山梨県を地盤とする保守系の衆議院議員だったからだ。
また、奨学金を得るために受講した陸軍の短期現役予備士官養成課程の訓練や演習が富士山麓の演習場で行われていたため、其方でも山梨県は数回訪れる機会があった。
とはいえ、アルバイトにしろ演習にしろ、どちらも観光目的ではなく、バスや乗用車、電車の車窓から景色を眺めるくらいでしか知らない。しかし、その時見た聳える日本アルプスの山々は美しく、道路や街並みも整っていて綺麗だったと記憶している。久々に訪れる山梨県はモンスターアタックから三年経ち、果たしてどのようになってしまっているのだろうか?
広瀬湖から国道を少し下った辺りまで、サバール村のエルフ達が草を刈ったり等の道の整備をしてくれていた。だがその先はといえば、アスファルトはひび割れて落ち葉や泥が堆積し、草や場所によっては木が生い茂ってとても通行出来る状態ではない。
まあ、これは長距離偵察と銘打ってはいるものの、ベトナムで米国陸軍のラープやグリーンベレーといった特殊部隊がやっていたものではなくて、魔法研修の総仕上げとして害特封地内を一定期間移動して魔物相手に修めた魔法の威力や効果を確認する事を主目的とするものだ。なので、道無き道を行き、草に伏し隠れ或いは水に飛び入りて、万死恐れず敵情を視察するような事はしない。
ここは研修生達5人の魔法で道を通る事が出来るようにしつつ進む事とした。まず、山本少尉が水魔法の水刃で、トッドが風魔法のウィンドウカッターで下草を借りつつ進む。
暫くそのようにして進むと、複数の魔物の気配を感知した。そして木々の間から三体のトロールが現れた。身長はいずれも2mを超え、頭が大きく腕が長い。身体は茶色い剛毛と筋肉で鎧われ、三体とも手には棍棒を持っている。この付近に群がいるらしく、この三体は俺達が結構派手に魔法を使ったため斥候に出たのだろう。その割には隠れる気は無いようだが。
トロールの出現に武田少尉は俺に視線を向けて戦闘の許可を求める。研修生は5人とも既に念話を使えるようになっているが、この程度の意思疎通は念話を用いるまでもない。俺は武田少尉の視線を受けて「殺れ」と軽く頷いた。
今回の研修生のリーダーは武田少尉だ。理由としては階級が最上位の軍人だから。オスカーも軍人だが海兵隊の軍曹であり、トッドは役人でリッキーは民間人。では山本少尉でもよいのでは?という意見もあるだろう。しかし、リーダーを決める際に山本少尉が「先生、武田君がリーダーになりたいって言ってま〜す」と先手を打ったため、武田少尉は「山本、てめぇ」と睨みながらも結局は引き受けた、という経緯があった。
現れた三体のトロールのに対し武田少尉は山本少尉、トッド、リッキーに遠距離からの魔法攻撃を、オスカーには接近した場合の火魔法による近接戦闘の指示を出した。それにより山本少尉は水刃、トッドはウィンドカッター、リッキーはシャイニングアローにより一体ずつ屠り、戦闘はものの数秒で終わってしまった。
こうした魔法による技の名は術者がそれぞれ考えて付けている。ここは名付けのセンスが問われる部分だが、自分が使う技には自分が考えた名前を付けた方が技と名が馴染んでより効果が発揮しやすくなる傾向がある。因みに、今回は出番が無かったオスカーの火魔法による技はダブルファイヤーランスという…
「三人とも良くやった。遠距離からの魔法攻撃は今の要領だ、よく憶えておけ。武田少尉の判断も的確だった。オスカーは次の機会に頑張ろう。」
俺は教官として今の戦闘について講評を述べ、トロールの死体を燃焼させて灰にした。
その後、トロールの群とは遭遇せず、国道の草木を払いながら進み、その日は笛吹川沿いある集会所の駐車場で野営した。
野営においては各自が持参した1人用のテントを展張し、夕食はレトルト食品を温めて食べる。就寝に当たっては2人1組で一時間交代の不寝番を立てた。程度の違いはあるが、気配察知の魔法を皆が使えるため不寝番の必要は無いとも言えるが、人数が多いため、こうした場合は誰かが気付くはずと人任せになりがちだから必要と俺は判断した。
勿論、俺自身が率先垂範したのは言うまでも無いだろう。2人1組なので俺の相方になったのは激烈な相方争奪戦を勝ち抜いたサキ。サキはここぞという場合に凄まじい強運を発揮する。もしかしたらサキにはそういう能力があるのかもしれないな。
そうした訳で、俺とサキは満点の星空の下、焚き火に当たりながら寄り添って時間を過ごした。勿論、警戒は怠らずに。
いつも『救国の魔法修行者』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話にご期待下さい。
お呼びとあらば、即参上!




