第95話 竜太の人外魔境
竜太「やあみんな、5日ぶり。土方竜太だ。」
舞「やあみんな、北川舞です。」
竜太「ところで、舞。最近髪型をショートにして眼鏡かけてるよね?とても似合って可愛いけど、イメチェン?」
舞「本当ですか?有難う御座います。それはですね、私が複数ヒロインの中の後輩キャラだからですよ、先輩。」
竜太「えっ、そうなの?」
舞「はい。それが私の宿命なのです、先輩。」
竜太「う〜ん、それはよく分からないけど、とりあえず『救国の魔法修行者』スタートです!」
舞「折角夏なのに、この話山ばっかりで水着回が無いのが残念ですね、せ〜んぱい?」
竜太「そっ、その通りだっ」
「姉様達が行くのなら僕も行く!」
「あのねぇ、何度も言っているけど、これは遊びじゃないの。あなたを連れては行けないの。」
「どうしてさ?僕だって魔法くらい使えるし、魔物だって倒せるんだ。」
「だから!」
エーリカとビクトルが言い争っている。エーリカの横には腕組みをしてビクトルを睨みつけているユーリカ。
魔法研修の締めくくりである長距離偵察。それにエーリカとユーリカが参加する事を知ったビクトルが、二人に行くなと騒ぎ出し、終いには自分も一緒に行くと言い出したのだ。勿論そんな事は出来ないので拒絶。これはこの国との約束事だから無関係な者は連れて行けないとエーリカとユーリカ(俺だと余計に騒ぐから)が説明したがビクトルはまったく聞き入れない。終いには駄々っ子のようになってしまい、先の遣り取りに至ったのであった。
ビクトルは何故かずっと俺の足を引っ張る様な真似をしている。それが故意なのか、結果的にそうなっているのか判断が難しいところだ。しかし、その嫌がらせのような行為が悪い意味で実にいいポイントを突いてきている。
この世界の人間と向こうの世界のエルフとでは寿命が違うので、エルフの精神年齢がどんな具合になっているのかはわからない。しかし、ビクトルの嫌がらせ行為はとても13歳の少年がするには実に狡猾だ。理屈を述べたかと思えば、先のように駄々を捏ねたりと使い分けて周囲を辟易させている。しかも、こちらのスケジュールなども知っていなければ出来ないような嫌がらせもあり、どうも誰かしらビクトルに情報提供したり入知恵する存在がいるようなのだ。
あまり疑いたくはないが、この世界も一枚岩ではない。まあ、俺憎さ故にビクトルが誰かに踊らされているとしたら消去法である程度まで黒幕を絞り込む事は可能だ。今はそこまでするつもりは無いが、あまりに度を越すようなら考えなければならない。
で、結局のところ今回の騒ぎはどうなったのかといえば、ユーリカが「じゃあ私とお姉ちゃんが行かなければあなたも行くって言わないのよね?」と問われてビクトルは「うん」と答えている。俺はこの時のビクトルが一瞬見せた勝ち誇った顔を見て、こいつの目的はこれかと理解した。今までもそうだったが、どうもビクトル(と黒幕?)は俺とエーリカの分断を目論んでいるようだ。
だからといってその思惑通り分断される俺達ではない。俺達は互いに絶対に裏切らない面子だけで情報を共有して相手の裏をかく作戦を立てた。ビクトルよ、大人の狡猾さというものを身をもって体験するがいいさ。
長距離偵察の出発日。エーリカとユーリカはにこやかに俺達を見送ると宿坊に戻った。そして、その日はビクトルを油断させるため三人で過ごし、夜遅くにエーリカだけが護衛に付けたラミッドとミアと共に俺達に合流すべく出立した。
結果的にビクトルを欺くため、ユーリカが残留する事となった。
そうして、山梨方面に向かう国道の大休止地点で俺達とエーリカ達は合流して作戦は成功。今回の長距離偵察に参加したメンバーは総勢25名。その内訳は研修生が5名、教官・助教として俺と大沢軍曹、エーリカ、サキ、舞、真琴、雪枝、ラミッド、アミッド、ミア、アーニャとアーニャの配下3人、ガーライルとガーライルの配下3人、そして斉藤とアックス。
因みにアーニャの3人の配下はアルベルトさんがアーニャに付けた猫獣人の女の子達だ。3人とも手練れで名前はソラ、リエ、アイといってみんなスクールアイドルとしてデビュー出来そうな美少女だ。そして、ガーライルの3人の配下はガーライルと共に狼村から俺に協力するため派遣されている。俺がガーライル及びこの3人を鍛えたので彼等の実力は折り紙付きだ。名前はウルク、ライル、アイク。みんなアイドリッシュなイケメン揃いだ。
翌日、大休止で昼食を摂りながら、俺はふと疑問に思っていた事を斉藤に尋ねてみた。
「なあ、お前もそうだけど、今回は何で研修支援にみんな来たんだ?」
俺がそう尋ねると、周りにいたエーリカ達はさっと俺から視線を逸らす。ん?何か隠しているのか?
「まあ、もうここまで来ているから言ってもいいかな。実はな、今回の長距離偵察にお前を何時もと同じように生かせてはならない、という予知が俺とユーリカにあった。それをユーリカからエーリカ達に伝えて貰ったところ、他のみんなも参加してくれた。まあ、ユーリカも来るはずだったが、結果は知っての通りだ。」
「つまり、この長距離偵察では俺だけじゃ手に負えないような何かが起きると予知した訳か?」
「そういう事だ。」
「お前もみんなも俺を心配して来てくれたのか?」
「まあな。」
俺は柄にもなくちょっと照れたような斉藤の返事を聞き、う〜ん、と考え込んでしまう。魔法が使えようと所詮は人の身、何でも出来る訳じゃない。他の人々よりは出来る事が幾らか多いだけだ。
人は意識するしないは別にして、支え合い、助け合いながら生きて行くものだ。それは俺にしたって例外じゃない。何をやるにしても誰かの助けが必要だし、一人で何でも出来ると思う程俺は自惚れている訳でも、何かを拗らせている訳でもない。
「みんな有難う。いつも助けて貰って本当に有難く思っている。」
そうみんなに感謝を伝えると、みんなも少しくすぐったそうな表情になる。だが、しかし、続きがある。
「でもな、そういう予知があるのなら、本人にまず伝えて欲しい。」
何か言葉にならない「うっ」という呻くような声が辺りに響いた。別に誰を責めている訳でも無いのだが。
「まあそう言うな、リュウ。みんながお前に言わなかったのは俺がそうして欲しいと頼んだからだ。あまりお前に負担をかけたくなかったし、それに最初から予知について教えていたら、みんなが一緒に行きたいと言ってもお前は拒むだろう?」
「…そうかもしれないが。」
流石に小学校三年生からの付き合いだけに、斉藤は俺の性格やら行動パターンやらをよくわかっている。反論のしようが無かった。
「リュータ、その、黙っていてごめんなさい。」
エーリカがしゅんとした表情で謝まる。心なしか両耳がペタンと下がっている。そして見回すとサキとアーニャの耳もへこっと垂れていて、真琴も舞も雪枝も項垂れていた。
自分に関する重要な予知なのだから当然教えて貰いたかった。しかし、彼女達のそんな様子を見ていると、みんな好意でしてくれた事だけにこちらも罪悪感が湧く。
「ごめん。別に怒っている訳でも、みんなを責めている訳でも無いんだ。みんなの気持ちはとても嬉しいよ。」
俺はそう言ってエーリカを軽く抱き寄せて頭を撫でる。するとエーリカは「うん」と頷いて頭を俺の胸に預けた。
その後は「あっ、エーリカさん狡い」「先輩、私も」「竜太、当然私にも」「…リュータ、私も」と詰められて全員の見ている前で6人(何故か雪枝にも)に同じ事をする羽目になった。
そうしている間にも強化した俺の聴覚は色々な声や呟きを捉えている。
「ケッ、やっぱハーレムキングじゃんか」これは大沢軍曹だな。ちょっと後で話し合おうかな。
「いいなぁ」「いいけど、私には無理」これは武田少尉と山本少尉。
「「ヒュー」」「ぐぬぬ」これはアメリカ組だ。ぐぬぬ?
「…ラミッド」「…ミア」この二人はこの二人で自分達の世界に入ってしまった模様。
6人分が終わると、ポンと斉藤が肩を叩いた。
「リュウ、ハーレムキングも大変だな。」
「いや、誰のせいだよ?」
まあ、出だしでちょっとトラブルがあり、こんな出来事もありつつも、俺達は一路甲府盆地目指して長距離偵察の途を進める。
トンネルを抜けるとサバール村に到着。ゲストハウスで一泊し、翌朝出発すればいよいよその先は魔物が跳梁跋扈する魔境と化した甲府盆地へと至る。
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それでは次話もご期待下さい。
ウェイク・アップ!運命の鎖を解き放て!




