第93話 帰ろうかもう帰ろうよ
サバール村での滞在は五日で済んだ。あの村は正直俺にとってあまり居心地の良い村ではない。バーン一家は皆大好きだし、ワルター先生や村長夫妻は歓迎してくれるが、村内を歩けば結構キツイ視線を向けられる。
そうした非友好的な輩は大抵が若い男だ。どうもエーリカの従兄のアルフレッドという奴が主導していて、俺について無い事無い事言って回っているらしい。そのくせそいつは俺に会う時などは笑顔で接してきて、友好的に振る舞うのだ。エーリカとユーリカもそこら辺の事はわかっていて、随分と腹を立てて以前ほど頻繁に村に行かなくなっていた。これは魔力交流について新たな方式を考えなければならんな、と思う今日この頃だったりする。
そして、村の若い男衆が俺に悪意を抱く理由は一言で言えば嫉妬だ。エーリカが俺の恋人に、ユーリカが斉藤の恋人になった事への嫉妬。俺が何人もの美女を恋人にしている事への嫉妬。俺や斉藤がエルフよりも多種多様で強力な魔法を使う事への嫉妬。実にくだらない。強い奴ほど憎まれる、弱い奴ほどよく吠える、とは良く言ったものだ。
エーリカとユーリカには悪いが、エルフは見た目の良さと違って変にプライドが高くて頑固。しかも腹黒くて嫌な奴が多い。
それに比べて獣人のみんなの素直さ、率直さが本当に良い。あの人懐っこさは老若男女問わず可愛いらしく思えてしまう。彼等には強い者に従う習性があるみたいだが、俺に向けてくれる彼等の好意には当然好意で返したくなろうというもの。だから、今回の研修生達が皆なかなか優秀だったため、予定よりも一日早く帰る事が出来、研修生達には本当に感謝だ。
そう。早く帰る事が出来て嬉しいはずなのだが、何故かいらんおまけがくっついて来ている。
「…なんだよ。文句あんのかよ!」
「…別に。」
今も俺を睨んでいるこのおまけはエーリカとユーリカの弟ビクトルだ。急に満峰山に二か月程滞在したいと両親に言い出したらしい。何でもこの世界の文明や制度などをより近い場所で学びたいのだそうだ。俺はそれを聞いて
(嘘つけ!エーリカとユーリカと一緒にいたいだけだろ!)
と思ったが、勿論口には出さない。どうも誰か変な入れ知恵した奴がいたんじゃないかと邪推してしまう。
だが、おまけのビクトルが満峰山に二か月もいるとなると、当然エーリカかユーリカと一緒に居ようとするだろう。そうなると俺とエーリカが仲良くする時間が奪われてしまう。よし、出来るだけおまけはユーリカの元に行くように仕向けよう。
そんなこんなで、漸く懐かしの我家ならぬ、満峰山へと戻って来た。あぁ、やっぱりここは良い、落ち着く、空気が良い。
と、神社へと向かう道路上に大きな体をちょこんとお座りさせている御眷属様が。
"遅い!いつまで待たせるんだ。もっと早く帰って来るはずだぞ!"
三郎丸は不機嫌そうに歯を剥き出して文句を言う。
「ごめんなサブちゃん。態々待っていてくれたのか?」
三郎丸が大好きな俺は態々迎えに来てくれた三郎丸に思わず駆け寄って後ろから抱きついた。
"そっ、そんな訳あるか。勘違いするな。俺はここに座っていただけだ"
どうも三郎丸は、舞と雪枝に連絡していた時間よりも俺達の帰りが遅いのでここまで来て待っていてくれたようだ。全く、素直じゃないなサブちゃんも。まあ、そこが可愛いのだが。
"おい、リュウ。今何か失礼な事を考えただろう?"
いやいや、そんな事ないよと答えようとしたところ、エーリカとサキが俺と三郎丸に話しかけてきた。
「あなた達、本当に仲良いわね。」
「三郎丸様、お出迎え頂きまして有難う御座います。」
サキは狼獣人だけに狼神の眷属である三郎丸も敬っている(勿論俺だってそうだよ?)。エーリカはそれほどでもなく、アーニャは赤鬼族の戦士を噛み殺す三郎丸を見たせいか、心なしかちょっと怖がっている。もっとも当の三郎丸はどちらの事も大して気にしてはいない。
「後で念入りにブラッシングしますね。」
"うむ。サキは気の利く実に良い子だ"
三郎丸はサキがお気に入りで、俺には「サキを大事にしてやれよ」とか「リュウは早くサキと番ってやれ」とかサキ押しが強い。
"よし、リュウ、さっさと帰るぞ。しょうがないから朝夕の見回りにも付き合ってやる"
「あの、リュータ教官、」
すると、リッキーとオスカーが遠慮がちに話しかけてきた。
「この狼も異世界から来たのですか?」
「リュータ、それとも日本にも狼がいるのか?地元の森林狼よりも一回り大きいけど、」
基本的に御眷属様は滅多に人前には現れない。狼の女神様に俺との連絡係に任じられた三郎丸も同様で、今までも研修生や格省庁からの出向者の前にも姿を現さない。そのため、研修生達もおまけのビクトルも初めて見る三郎丸の姿に唖然としている。
「こちらは御眷属様というこの山の神様の御使いで三郎丸様っていうんだ。まあ、俺はサブちゃんって呼んでいるんだけど。」
俺はこの時、お座りする三郎丸に後ろから抱きついて耳の付け根に頬擦りをしていたのだが、俺の紹介が気に入らなかったのか首だけ後ろに回して俺を噛もうとする。
「リュータ教官、ドラゴンといい狼といい、みんな手懐けちゃって凄いです。」
"手懐けるとか、何だこの失礼な女は!"
「まあまあ、そう起こるなって。今夜は久々に一緒にゴロゴロしようぜ?」
俺は三郎丸をもふもふしながら一緒に寝るのが楽しみだったりする。
"うむ。サキも一緒に来る事を許すぞ"
「私もいいんですか?有難う御座います、三郎丸様!」
サキも嬉しそうに三郎丸に抱きついた。
「えー!」「サキばっかりずるい」
何か色々と聞こえてきたが、部屋の主である俺を置いてけぼりにしてサキと三郎丸は盛り上がっていた。まあ、いいけど。
その後、道の途中途中で出会ったアースラ諸族連合の住民達と言葉を交わし、満峰山に到着して狼村の狼獣人達から労いの挨拶を受けた。宿坊に帰れば舞と雪枝も待っている。斉藤とユーリカとアックスもいる。うん。やっぱりここが俺の心許す故郷だ。
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それでは、次話も読んでくれないと、またまた暴れちゃうぞ!




