第91話 思春期"こじらせ"症候群
昨日の魔力交流は成功裏に終わった。研修生の五人が五人共に魔法が発現したのだ。武田少尉とオスカーが火属性、山本少尉が水属性、リッキーが光属性、そしてトッドが風属性だった。
中でもリッキーとオスカーの魔力量は他の三人よりもかなり多く、発現した魔法の威力も強かった。リッキーの光の矢は頭上の太い枝を撃ち抜き、オスカーの放った火炎はオークを丸焼きに出来そうなほどだった。
この事に関して俺が少々気になるのは、一昨日の夜に例の声の主が俺に言った言葉だ。それは五人の研修生の中から、誰だかわからないがその内の二人が俺を支えるようになる、という物だった。
支えるといっても色々な意味、解釈の仕方がある。ガーライルにように俺達の仲間に加わって一緒に戦ってくれるのもそうであれば、大沢軍曹のように業務を支えてくれるのもそうであろう。それが同じ日本人という事であれば武田・山本両少尉だろうし、実力という事であればリッキーとオスカーだろう。しかし、リッキー&オスカーはアメリカ人。
しかし、こればっかりは研修生達に聞いて回る訳にもいかないので様子を見るしかない。だが、あの声の主が俺には決して嘘をついてたり騙したりはしない筈なのだ(多分だけど)。まあ、研修はまだまだ続き、後半にはお楽しみの長距離偵察と実戦を兼ねた魔物刈りが始まる。その頃には尻尾くらいは掴ませくれるはずだと思いたい。
そして、これからのカリキュラムについて。研修生達には魔力の制御、補助魔法(身体強化など)、それぞれの属性魔法の基本バリエーションを修得させ、その上で研究課題を課す事になっている。課題は毎回同じで、自らの属性魔法を使っての得意技・必殺技の開発だ。
俺と斉藤はこの魔法研修を引き受けるに当たり、特殊作戦群の今西少佐とも相談し、望まれる魔法特殊部隊とその隊員の姿について話し合った。
今西少佐は自らも魔法技術を修得し、実際に魔法技術を修得した特殊部隊員を率いて魔物と幾度も戦っている。その戦訓も取り入れて三人で出した結論。
それは、魔法特殊部隊員は器用貧乏のように一人が幾つも少しずつの属性魔法が使えるよりも、一つだけでも強力でそれぞれの属性魔法に特化するのが望ましい(つまりそれぞれの必殺技)。そして、そうした隊員をチームとして組み合わせた方が戦力として使い勝手が良い、という事となった。この結論が研修カリキュラムに反映されているのは言うまでもない。
渋谷式新魔力交流の実施後も、しばらくはサバール村に滞在して魔法の訓練を行う。研修生達は魔法が発現したばかりで、まだその制御が不安定だ。そのため満峰神社の周辺では不慣れな魔法で周辺に被害を及ぼす危険がある。木が倒れるくらいならまだいいが(山の木は山の神の物だからそれもダメだけど)、誰かを殺傷させたら洒落にならない。その点、サバール村ならば土地も広いので研修生達が未熟な内は何かとやり易いのだ。
ただ、そうは言ってもサバール村での滞在は一週間が限度だ。その理由は色々とあるが、エルフ達がそもそも他種族との交流をあまり望まず、必要最小限の接触しかしたがらない。だからエーリカやユーリカ、その他以前から里や村を出て学者や冒険者や傭兵などに従事していたエルフ達は少数派であり、里や村のエルフ達からすれば変わり者になるみたいだな。そのため、いくら大露天風呂を作ろうが、研修への協力に対して報酬を払おうが、村の開村やその後の運営に力を貸そうが、
「それには感謝している。しかし、それとこれは別なんだ。悪いね。」
と、実に素っ気ない。流石にエーリカの両親である村長夫妻はそんな事は言わないが、アルフレッドというエーリカの従兄からは面と向かってそう言われた事がある。
また、サバール村のエルフの中には俺や斉藤の事を苦々しく思っている連中が結構いるのだ。まあ、大体が若い男のエルフなのだが、村長の美人姉妹の恋人になっている事が許せない!という奴や、ヒト族のクセにエルフである自分達よりも強力で多種多様な魔法が使えるなんて許せん!という二つのタイプに分類出来る。
まあ、エーリカとユーリカは美形揃いのエルフの中でもとびきり美しく可愛い。だから元々村の男共から狙われていたのだろう。また、魔法に関しては少しでも互いの距離を縮められるようにと、俺達が開発した魔法の技術提供や共同研究なども打診したのだが、それも気に食わなかったようで無視された。
どちらにしても、要は嫉妬なんだが、それだけに根が深い。前者はそいつらがその内いい相手と巡り合い、それで結婚でもすれば憑物が落ちたように「いやー、そんな時代もあったね」といつか笑えるようになるだろう。しかし後者の場合は嫉妬が解消される事が無いだけに非常に厄介だ。男の嫉妬は実に見苦しい。
因みに後者の代表者格がエーリカの従兄アルフレッドで、どうも俺を誹謗中傷して回っているようなのだ。エーリカもこの事で心を痛めていて、何度か謝られた事もあった。別に俺の事をこんな所で幾ら悪く言われようがどうという事は無いが、エーリカを苦しめるのは許さん。その内機会があればアルフレッドの奴をシメちゃる。
そうした訳で毎回気の進まないサバール村滞在だが、今回は研修生達が思いの外優秀だった。五人とも基本的な魔法の制御や補助魔法までサクサクと修得してくれたため、なんと一週間の予定だったサバール村滞在が五日で済んでしまい、六日目には満峰神社へ帰る事となった。これが嬉しい誤算って奴なんだな。
☆ビクトル視点ー
またあいつが来た。
このところ三ヶ月に一度、ヒト族に魔法を教えるためとかで大勢のヒト族と獣人族を引き連れてこの村に来ている。正直言って僕はあんな奴、顔も見たくない。父様や母様を始め村の大人達は、あいつが村の恩人であり、エーリカ姉様の恋人なのだからと寛容だ。だけれども、僕からすればあいつは僕からエーリカ姉様を奪った憎むべき男なのだ。
あの日、エーリカ姉様とユーリカ姉様は森へ狩り出掛けたけど帰りが遅く、そして二人とも遂に戻る事は無かった。翌日、村のみんなが探しに出てくれたけど、思い付く限りの狩場とその周辺にも姉様達の痕跡すら見つからなかった。
僕は姉様達が大好きだった。二人ともキレイで優しくって、ちょっと気が強いエーリカ姉様、少し抜けているようでその実しっかり者のユーリカ姉様。僕は小さな頃から二人の姉様達と結婚するのが夢だった。
姉様達も僕がまだ小さな頃は笑顔で「結婚しようね」と言ってくれたけど、少し大きくなると次第に「またそんな事言って」と笑いながらも嗜めるようになった。
いや、僕だって姉弟で結婚出来ない事くらいは知っていたし、いつかは姉様達も誰かと結婚してしまう事だって理解してる。でも、だからって何でそれが異世界のヒト族なんだよ!姉様達が行方不明になってもう二度と会えないって絶望して悲しんでいたんだ。それが二人とも異世界で生きていて、一年ぶりにまた会えたっていうのに。また一緒に暮らせると思ったのに。それなのに、エーリカ姉様もユーリカ姉様もあんな奴等と一緒に暮らすなんて、恋人になったとかふざけんなよ!
嫌いだ。僕はあいつ等が嫌いだ。特にあのリュータとかいう男が大嫌いだ。あいつはエーリカ姉様だけじゃなく、他にも何人ものヒト族や獣人族(しかもみんな美人だ)の女の子達を侍らせている最低野郎だ。僕があいつを無視したり悪く言ったりすると、姉様が僕に怒るのが嫌いだ。姉様があいつを庇うのが嫌いだ。あいつが侍らせている女の子達が僕を睨んだり、僕に謝れと詰めて来るのが嫌いだ。嫌いだ嫌いだ嫌いだ。あいつが嫌いだ嫌いだ、大嫌いだ。
だけどそれは僕だけが思っている事じゃない。あいつ等を嫌っているのは僕だけじゃないんだ。従兄のアルフレッド兄さんもあいつ等が気に入らないって言っていたし、他にもあいつ等が嫌いな人はいっぱいいる。
あいつ等が居なくなればいい。あいつ等さえ居なくなれば姉様達は村に戻って来て、また僕達は前のように一緒に暮らせるんだ。
あいつ等なんか魔物にでも喰われて死んでしまえ!
いつも『』をお読み頂きまして、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
それでは次話「身近な観察者」にご期待ください。
月の光は 愛の光




