第89話 魔法、ゲットだぜ!①
少し短めです。続きは今日中にも更新する予定です。ご期待下さい。
研修三日目の午前は渋谷式新魔力交流の会場準備に取り掛かる。会場は湖左岸の斜面を登った中腹にある木々に囲まれた公園だ。特に遊具など有る訳ではなく、湖を見渡せるちょっとした展望台があるだけの広場と言った方がしっくりとくる。
会場準備といっても目立つ落ち葉を掃いたり、下草を刈ったり。そして煉瓦敷きのペイブメント、ごめんなさい格好付けました、煉瓦敷きの歩道の先にはまるで磐座のような巨岩があり、そこへ緑色の大きな布を掛けてそれっぽく演出するくらいだ。
魔力交流を行う際にはサバール村のエルフ達、ガーライルとアーニャの配下である獣人達に参列して貰い、それぞれサバール村、アースラ諸族連合、狼村、キャストン侯爵家の旗を掲げて貰う。最後に火竜のバーンかゾフィのどちらかに出席して貰って準備完了だ。
この日、研修生達には申し訳ないが、朝食は少なめで済まして貰い、昼食は抜きにして貰った。空腹の方が神経が研ぎ澄まされるからだ。研修生達は一昨日に満峰神社に到着してから本日に至るまでにもう随分とエルフ、獣人、ドラゴン、そして魔法といった異世界成分濃い要素に触れている。彼等にしても、最早魔法の存在を疑うレベルはとうに過ぎているだろう。
そして昼が過ぎ、俺達一行はゲストハウスを出て会場となる公園へと向かう。国道をやや上り方面に進み、更に公園へと続く長い階段を登って行く。研修生達は来た時と同じく野戦服のまま。俺達一行の中で魔力交流に演出のため参列する物はこの渋谷式新魔力交流のために考案して作った異世界風衣装に着替えている。因みに初めてその衣装を着た俺を見た斉藤と大沢軍曹は大笑いしやがった。
会場は演出、参列者ともに準備が整っていた。そこへ俺が引率した研修生達が登場する。木漏れ日の中、歩道の両側にはエルフの村人と獣人達が並び立ち、巨岩の傍にはバーンが蹲る。そうした演出の中に入った研修生達は既にそうした雰囲気に呑まれているようだった。誰一人として声も出さず、咳ひとつ聞こえない。風が吹き、木々のざわめきだけが聞こえる中、俺はここにいる全員を見渡して渋谷式新魔力交流の実施を宣言した。
魔力交流、まずは武田少尉、君に決めた!嘘です、済みません、元からそう順番が決まってました。俺が名前を呼ぶと武田少尉はやや緊張した面持ちで歩道を歩み来る。いや、表彰や物品授受でもないのだからそんなに鯱鉾張らないで欲しい。
「では、武田泰信少尉。深呼吸して心を落ち着かせて、あるがまま、感じたままを受け入れて下さい。魔力は必ず誰にも有ります。魔力を感じたなら必ず魔法は発現します。では、両手を出して下さい。」
と、そう言って俺は体内の魔力を両腕に集めて赤く輝かせた。それを見た武田少尉が息を飲むのがわかる。俺は燃えるように赤く輝く両手で差し出された武田少尉の両手を掴むと、徐々に彼の腕から体幹へと魔力を送って行く。
「どうですか?」
「はい。教官の手から熱い、なんかパワーが伝わって来ます。」
良かった。ここで魔力が感じられたら武田少尉の魔力交流はほぼ成功といっていい。
「その"熱い、なんかパワー"が魔力です。それでは流れて来た魔力が全身を巡るイメージを持って実際に魔力を流してみて下さい。」
「はい…」
武田少尉は懸命にイメージ通りに魔力を巡らせているようだ。すると、武田少尉の全身が赤く光り始める。魔力の色が赤いという事は、彼は俺と同じく火属性という事になる。
「教官、全身が熱くなって何かぐるぐり回っています。特に臍の下辺りが。」
俺はそう聞くと武田少尉の両手を掴む手を離した。
「それでいいんだ。そのまま右手の平を上に向けて魔力を集中させ、火が吹き上がる事をイメージしながら「火よ、出ろ!」と言って見ろ!」
俺はこの辺りから敬語はやめて命令調のキツ目の言葉使いに変えた。経験上ここまで来れば命令した方が相手も動き易くなる。
「はい。火よ、出ろ!」
ただイメージするだけよりも言葉に出した方が言霊の力も加わって初心者は魔法が発現し易くなる。
すると、上に向けた手の平からボッと音を立てて一瞬火が吹き上がったのだ。
「きょっ、教官、やりました。俺、魔法で火が出せました。」
「やったな、武田少尉。君は今日から魔法使いだ。」
「はい!」
感極まった武田少尉は俺に抱き着こうとする気配があったので、俺は先手を取って両手でがっしりと握手をする。すると、武田少尉の魔法発現を祝って参列者達が歓声を上げ、バーンも張り切って魔力を少し込めた咆哮をあげたのだった。
「皆さん、有難う御座います。」
さて、次は山本少尉だ。
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それでは次話「魔法、ゲットだぜ!②」にテックセッター!




