第87話 エルフの里ってどんなとこ?
長いトンネルを幾つか抜ける。トンネル内は三年前から送電が止まっているため漆黒の闇が続く。そのため以前は魔物が棲みついてしまっていたが、今は警備隊が全て駆逐し、定期的に巡回してトンネル内通行の安全を保っている。
そうは言っても、警備隊もトンネルに常駐している訳では無いので、俺はトンネルを通行するにあたって風魔法で強風を送って換気し、先行して光魔法で坑内を照らしながら進んだ。トンネルを抜けた先には広瀬湖、そしてサバール村がある。
魔法の光球で照らされながらも薄暗いトンネルから遂にでると、9月の陽光が眩しい。すると、突然俺達に二つの影が差し掛かった。一瞬皆に緊張が走ったが、俺は影の正体には当たりがある。
"リュータ!"
影の正体は小学生くらいの大きさの火竜の子供だ。先に降りて来た方がそのまま俺に抱きついて来る。
"リズリィ、お出迎え有難うな"
リズリィを抱きとめた俺に、更にもう一頭の火竜の子供がリズリィを押し除けるようにして俺に抱きついて来た。
"リズリィ、狡いぞ自分ばっかり!"
"ちょっと、割り込まないでよドラグ!"
競い合うように抱きつく二頭の火竜の子供達。俺はこの子達を両腕で抱き寄せる。
"ドラグも有難うな。二人とも会いたかったよ"
""リュータ、大好き!""
俺は半端ない力で二人の火竜の子供達からギュウギュウと抱きしめられる。こうして俺の事を慕ってくれるドラグとリズリィを可愛いと思うと同時に、予め身体強化を掛けておいた自分を誉めたかった。普通の人なら体が潰れているからね。
この子達はバーンとゾフィの子供達。男の子がドラグ、女の子がリズリィで双子の兄妹だ。先に卵の殻を破って顔を出しのがドラグだったので、一応兄となっているが、二人の間にはあまりどっちが先とか、上とか下とか、そういう感覚は無いんだそうだ。
二人が生まれた時、俺は三郎丸とたまたまバーンの元をおとずれていて、偶然にこの子達の孵卵に立ち会ったのだ。そのため、そうした刷り込みと、俺がまだ力加減がわからない彼等との遊び相手になった事から今でも随分と懐いてくれている。まあ、懐いている理由は、今はそれだけじゃ無いけども。
"ねえリュータ、魔力ちょうだーい?"
"私にも。リュータの魔力大好き!"
そういう事なのだった。全く現金なもので、俺は小遣をねだられる親戚のおじさんよろしく二人に魔力を分け与える。
"しょうがないなぁ"
""ヤッター!""
一頻り俺が与える魔力を吸収すると、二人は満足したのか、礼儀正しく"ありがとう"と俺に抱き付く腕を離した。
"リュータ、ウチに遊びに来てくれるんでしょ?"
"勿論行くよ"
"じゃあ僕達先に帰ってるから絶対来てね"
"ああ、約束だ。バーンとゾフィにも宜しく言っておいてくれ"
"わかったー"
そうしてドラグとリズリィはじゃーねーと念話を送りながら飛び立って行った。俺は二人を見送り、研修生達に視線を向ける。彼等は間近で人にじゃれつく火竜の子供達を見て唖然としていた。それはそうであろう。
「ここには火竜の一家もいるんだ。あの子達は生まれた時から知っているんで、まあ、甥とか姪って感じかな。」
そう研修生達に説明すると「そうなんですか」「凄いですね」という感想に混じり、リッキーからはやや剣呑な視線を感じた。
「リュータ教官、あれはモンスターではないのですか?」
翼を持ち火を吐く蜥蜴の魔物「サラマンダー」。そいつらに両親を殺されたリッキーには火竜もその姿から同じように思えるのかもしれない。彼女からの視線、彼女の発する声には明らかな火竜への嫌悪感、その火竜と親しくする俺への非難めいた響きが含まれていた。
「いや、火竜はモンスターじゃない。知能も高い知的生命体だ。この地の空の守護者である炎龍の眷属であり、共にモンスターと戦う同士でもある。リッキーも念話が使えるようになれば彼等と意志の疎通も出来る。だから、そこは誤解しないでくれ。」
「…そうですか。わかりました。リュータ教官、随分と懐いてましたね。」
「ああ。それこそ二人が卵の頃から知っているからね。」
リッキーは納得してくれただろうか?しかし、火竜はこれから行う渋谷式新魔力交流でも大きな役割を果たすのだ。ここで不信感をもたれると魔力交流の結果ににも影響してくる。
因みに、火竜は魔法で人の姿に成る事が出来て、人型の他種族とも婚姻して繁殖が出来るのだという。だから他に火竜がいないこの世界ではドラグとリズリィの結婚相手は人間か獣人かエルフになるのだろう。二人が人化した姿はどんな感じになるのだろうか。俺はまだバーンとゾフィの人化した姿も見た事はない。ラノベとかだと竜が人化すると大抵美形だし、竜人のアラン兄さんも薄い本に出てきそうな美形だからきっとそうなのだろうとは思うが。
サバール村は湖の左岸、国道沿いの日当たりの良い開けた土地に営まれている。元は住宅や若干の商業施設、観光施設が存在していたが、モンスターアタックで魔物に襲われて住民は殆ど殺されるか避難してしまった。そのためエルフ達が入植するまで一年以上も荒れるがままだったが、それが今じゃエルフ達によって綺麗に再開発され、かつての観光ホテルもサバール村のゲストハウスとして活用されている。これから俺達が腰を落ち着ける場所もそのゲストハウスだ。
ゲストハウスに荷物を置き、研修生達を大沢軍曹に任せて俺はエーリカ、サキ、アーニャと共に村長の元を訪れる。渋谷式新魔力交流の実施に獣人と火竜とエルフの協力が不可欠だ。ならば、この村のエルフに協力を求める以上、村長への挨拶は当然必要な事。存在宅を訪問する理由はそればかりではないが。
村長の家はゲストハウスから少し離れた森の中にある大型のログハウスだ。そこは元々ログハウスのバンガローを売りとしたアルプスを意識したキャンプ場だったのだ。一年以上に渡って人の手が入らなかったため随分と荒れていたが、森の住人たるエルフ達が住む事によってその様相はすっかりエルフの村といった感じになっている。
エーリカにとって村長の家は実家に当たるため、到着したエーリカは何ら遠慮する事無くドアを開けた。
「お父さん、お母さん、わたしー。今着いたよー。」
すると、家の中からエーリカとよく似た顔立ちの綺麗なエルフ女性が現れてエーリカと抱き合う。エーリカとユーリカの母親であるイレーネさんだ。どのくらい未来の事か、エーリカもイレーネさんのようなしっとりとした美人な大人の女性になるのだろうなぁ、などと抱き合う二人を見ていて思ってしまう。
っと、急にアーニャに尻が抓られた。
「痛っ、アーニャよ、何故ゆえに我が尻を抓るか?」
「リュータ、人妻をじろじろ見ちゃダメ。」
「そうですよ、人妻はダメですよリュータさん?」
サキとアーニャは最初こそ揉めたものの、今じゃすっかり息の合った仲良しになっていて、いつの間にか俺は二人に生活面をガッチリ把握されて管理されてしまっているのだ。
「美人だなと思っただけで、人妻には興味ないぞ?」
俺は何ら疾しい気持ちなど無いと主張するも、再び二人から駄目押しをされる。
「でも女の人をジロジロ見るのはマナー違反よ。」
「リュータさんがそう思っても他の人はリュータさんが美人妻をジロジロ見てるって思うんです!」
ジロジロなんて見てないってのに。そこで俺はささやかな反撃に出る事にした。
「サキもアーニャも女の子がやたら人妻人妻って連呼しちゃダメなんだぞ?」
「誤魔化そうとしたってダメ!」
「人妻連呼なんてしてませんから。みんなに言いつけますよ?」
どうもあまり効果は無かった。
「何騒いでるの?煩いわよ!」
一頻り親娘の会話が済んだあたりで俺達が騒がしかったようで、エーリカに怒られてしまった。
「リュータさん、サキちゃんにアーニャちゃんもよく来てくれたわね、久しぶり。」
「「お久しぶりです、イレーネさん。」」
「ご無沙汰してます。今回も宜しくお願いします。」
俺達が挨拶すると、さあ入ってとイレーネさん村長宅へ招き入れられた。
居間の暖炉の前の長椅子に座ると、イレーネさんがお茶の支度を始めた。すかさずサキが手伝いを申し出たが、「お客さんは座ってて」とイレーネさんに追い返される。
「サキちゃんは手伝ってくれようとしてくれたのに、エーリカはどうしたのかしら?」
「今行こうと思ってたの!」
こうした親娘の会話はヒトだろうがエルフだろうが同じなのだなと変なところで感心してしまった。すかさずエーリカに気づかれて「何笑ってるのよ!」と言われてしまった。どうもここに来てから言われっぱなしだな、俺。
「ただいま。」
すると、バル家の長男たるビクトル君が帰宅した。ビクトル君も今や14歳。初めて会った頃より身長も伸びて少しだけ大人びて来ている。しかし、ビクトル君は俺の存在に気づくと忌々しそうに一睨みし、その後は挨拶などする事無く無視してそのまま台所の方へと向かった。まあ、こうした事も慣れっこなので今更何も言わないが、俺はまだまだ拗らせシスコンのビクトル(こんな扱いされているのだから「君」は付けなくていいだろう)にとっては招かれざる客だ。
「エーリカ姉様、戻ってたんだ。お帰りなさい。」
「ただいま、ビクトル。リュータ達にちゃんと挨拶した?」
「しないよ。誰があんな奴に。」
「「ビクトル!」」
と、こんな会話が聞こえて来る。
「あんのクソガキが!」
こらこらサキちゃん。心の声がダダ漏れですよ。俺が「あんな奴」呼ばわりされてサキが憤慨しており、アーニャも顔をしかめている。俺がサキの気分を落ち着かせようと肩を抱き寄せると、サキは身体を寄せてコテっと頭を俺の肩に預ける。そんなサキをとても愛おしく思う。アーニャも後でするから睨んじゃだめだぞ。
ビクトルは俺とエーリカとの事で随分と俺の事を嫌っている、どころか今や憎んでいるようだ。そんなビクトルを当然サキも嫌っているし、アーニャも良く思っていない。ここが村長宅であり、ビクトルがエーリカの弟だから二人とも抑えているが、そうでなかったらビクトルに食ってかかっているだろう。
人には誰しも譲れない物がある。ビクトルにとってはそれが子供の頃から大好きな姉のエーリカであり、サキにとっては不肖この俺土方竜太という事になる。だから、俺は自分の事で怒ってくれているサキに感謝して少し嗜めはするが、自分からビクトルには何も言わないし、何もしない。そこは侵してはならない領域なのだと思うのだ。いつかビクトルも成長して好きな女の子でもできれば、きっと瘧が落ちたように俺への憎しみも消えると思っている。だから、基本俺はノータッチだ。
とはいえ、この二年もの間、毎度毎度こうして村長宅を訪れる度に無視され、憎まれ口を叩かれているので、俺ま内心かなり腹立たしくはあるのだ。だからビクトルには何も土産物を持って行かないというみみっちい仕返しをさり気なく続けている。まあ、どの道エーリカが用意しているのだけど。
その後、村長のエーリッヒさんが前村長のワルター先生(俺はこのエーリカのお爺さんに師事して魔法を教えてもらっているのだ)と共に帰宅した。俺達は互いに挨拶を済ますと、この後に行う渋谷式新魔力交流の打ち合わせを行った。
いつも『救国の魔法修行者』をご贔屓にして頂き、誠に有難う御座います。宜しければブクマ登録、評価、感想など宜しくお願いします。
次話もお代わり、もう一杯!




