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七十話 迷宮探索終了

 迷宮を出て疲れの影響で夕食も食べずに眠りについた。流石に早く寝すぎたのか目が覚めたのは日が昇る前だった。まあ今日はやる事が沢山あるし、早く起きた分には問題無い。

 

「裕太。起きたの?」


「うん。おはようシルフィ。昨日は早く寝すぎちゃったから目が覚めちゃったよ」


「おはよう。まだ日も昇っていないけどどうするの?」


「うーん。そうだね。この宿には迷惑掛けちゃってるし、何か故郷のレシピでも渡そうかなって思ってたから、朝食の時間までに考えて用意するよ」


「ああ、確かに空室が結構出てるわ。裕太が迷惑を掛けた可能性もあるから、おびしておいた方が良いかもね」


 おうふ。絶対に俺のせいで空室が出来ているとは言い切れないけど、迷惑を掛けている可能性がとっても高い。お詫びしないと辛すぎる。お客さんが来るようなメニューを思い出さないと。


 トルクさんは色々料理をするのが好きみたいだし、応用できる物が良いよね。炭とか直ぐに真似されるだろうし……。


 応用が効いて、集客力がありそうな物か。……そこまで手間がかからない方が良いはずだ。雑貨屋で買った紙とペンでレシピを書く。あれだな文房具が使い辛い。紙は引っ掛かりがあるしペンも扱いが難しい。


 まあ、しょうがないか。頑張ってレシピを書こう。シルフィに確認したところ、ケチャップのたぐいは無いそうなので、簡単なトマトを使った料理に決めた。


 まずはケチャップとそこからの派生でピザソース。ピザトーストとナポリタン、ミートソースの作り方を紙に書く。少なくともここら辺には無い味なので、受け入れられたらお客さんは集まるだろう。ダメだったら別のネタの提供だな。


 頑張ってレシピを書き、何度も修正しながら書き直した結果、朝食の時間になってしまった。細かい分量は覚えていないから、結構大変だった。


「これで少しは恩返しが出来そうだ。シルフィ。朝食に行くから付き合って」


「ふふ。どんな料理が出来上がるのか、とっても楽しみだわ。裕太が教えたメニューが流行ったら、私達にも食べさせてね」


「たぶん、大丈夫だと思うよ。上手くいったらトルクさんに作って貰って、大量に持ち帰るからそれで我慢してね」


「ええ。それで十分よ。じゃあ行きましょうか」


 部屋を出て食堂に向かう。レシピの渡し方も重要だな。変な事言を言ったら受け取って貰え無さそうだ。


「お客さん、おはよう。そう言えば今日の昼でチェックアウトだよ。延長するかい?」


 あー、そうだった。今日レシピを渡して、今晩大量に作ってくださいってのもいきなりすぎるよな。まあ、俺が出て行くのが一番宿にとっても良いのかもしれないけど、正直トマトソースも欲しい。迷惑だろうけど一泊だけ延長させて貰おう。


「あー、マーサさん。トルクさんにお願いがあるので、一泊だけ延長お願い出来ますか?」


「分かったよ。後でカウンターで手続きをするね。それで、旦那に何のようなんだい?」


 普通に延長を受け入れてくれた。俺のせいで客足が減ってたりしたら、延長を断りたいだろうにわずかにすらその事を匂わせない。俺のせいで空室が増えているのって勘違いだったりしないかな。


「実は故郷の料理で食べたい物が幾つかありまして、明日から少しの間だけ迷宮都市を離れるので、作って貰って持って行きたいんですよね。お願い出来ませんか?」


「知らない料理を教えて貰えるのなら大歓迎だよ。旦那を呼ぼうか?」


「いえ。これがレシピです。料理は専門では無いので、分量の方は試行錯誤してもらえれば助かります。明日の昼前に、ここに書いてある中で、ケチャップ。ピザソース。ミートソースを多めに作って持ち帰らせて頂ければ助かります」


 ほとんど時間が無いから無茶ブリになっちゃうけど、レシピを伝えるのが目的だから問題無い。トルクさんの感じだと、レシピを渡したらそれに一直線っぽいから何とかなるだろう。


「へー。面白そうだね。旦那には朝食の時間が終わってから渡しておくよ。今渡すと朝食の用意をホッポり出しちまうからね」


 そんな感じだよね。


「あはは。今から朝食なので、それは困ります」


「もしかしたら、あたしの手料理が食べられたかもしれないのに残念だったね」


 なんで、俺の言葉にそんな返しが来る? 文脈が全然合ってないよね。もしかして話を聞いてなかった? えーっと、なんて答えるべきなんだ?


「……それは……残念ですね」


 普通に返して話が終わった。なんて返せば正解だったんだろう? 頭を悩ませながら朝食を取る。今日の朝食はデンっとオーク肉とラフバードの串焼きが二本のっている。相変わらずのボリュームだ。


 朝から無理やりお肉を詰め込んで部屋に戻る。卵ってどうなってるんだろう? 和食は無理としても、俺としては、朝食はスクランブルエッグやオムレツぐらいで良いんだけど。  


「さて、まだ朝が早いけど、何処から回ろうか」


「裕太。孤児はどうするの?」


「もう見つけたの?」


 朝の挨拶でワチャワチャと絡みついて来るベル達を、撫でながらシルフィ話を聞く。


「ええ。二人見つけたわ。才能がある子は他にも居たけど、ちょっと素行が悪いから弾いたわ。その二人なら直ぐに浮遊精霊となら契約出来るわね。ただ一人は妹が居るのよね」


 面倒を見るとしたら、三人って事になるのか。流石に妹を捨てて来いとか言えないよね。


「この妹も精霊術師の才能はあるわ。今のところ魔力が足りないけど、レベルが上がれば問題無いから一緒に育てても良いと思うんだけど……」


 それなら何の問題も無いな。パワーレベリングをすれば直ぐに契約出来るようになるだろう。


「どんな子達なの?」


「うーん。十歳ぐらいの男の子と八歳ぐらいの女の子の兄妹。十二歳ぐらいの女の子ね」


 全員小学生の年頃か。まあ、孤児って言うぐらいだしその位になるよね。素行も悪くないみたいだし、十分だろう。


「それなら、その子達をスカウトしに行こうか」


 こんなにあっさり人の人生に関わって良いものかとも思うが、スラムに居るよりもマシだと思うし大丈夫だよね?


 宿を出る前にマーサさんに人数が増えるかもしれない事を伝えて、延長の手続きをとって宿を出る。シルフィに案内されてスラムに向かうと……普通に怖いな。家がドンドンボロく廃墟のように変わっていく。こんな所に子供が住む事が出来るのか?


「よお、兄ちゃん。こんな所に入り込んでどう言うつもりだい? 無事に此処を出て行きたいのなら、有り金全部置いて行きな。ああ、その装備と服もだ。パンツは勘弁してやるよ」


 やっぱりこういう人が出て来るよな。ニヤニヤしている男達がゾロゾロと現れて俺を囲む。俺、結構な高レベルになったんだけどまだ絡まれるんだな。こう立っているだけで近寄りがたい的なオーラはレベルが上がっても身に付かないのか?


「なんとか言えや。ギャッ」


 いきなり剣で斬りかかって来て風壁で弾かれた。問答無用なんだな。


「こいつ。魔術師だぞ。詠唱させるな!」


 周りの男達が慌てて距離を詰めて風壁に弾かれている。最初の男の事を見てなかったのか?


「なんで連続して魔術が放てるんだ。詠唱なんてしてねえぞ!」


 ああ、風壁が単発だと思ってたのか。  


「あー、君達にこの壁は破れないから諦めた方が良いよ。別に喧嘩を売りたい訳でもないし、用事を済ませたら直ぐに出て行くから」


「ケッ。凄腕の魔術師様がこんなスラムにいったい何の用だってんだ」


 物凄く不愉快そうだ。まあ、相手からしたら勝手にテリトリーに入って来て、軽く俺tueeeeしている訳だから不愉快だよね。


「弟子を取りに来たんだよ」


 おうふ。襲い掛かって来た男達が、俺が弟子になるんだとめ出した。いきなり斬りかかって来るおじさん達を弟子に取らないよ。そもそも、俺は魔術師でも無い。


「ちょっと待って。もう弟子を取る人は決めてあるんだ。素直に道を開けてくれると助かるな。余計な怪我を負いたくないでしょ?」


「俺も弟子にしてくれ」「絶対に付いて行く」と言ってゾロゾロと後ろを付いて来る。魔術師ってかなり人気なんだな。精霊術師だって言ったらどうなるんだろう? 普通に去られても不愉快だし、食らい付かれても困る。

 

(シルフィ。彼らを足止めしてくれる?)


「分かったわ。風で囲んでおくから大丈夫よ」


「おい、進めねえぞ」「畜生。待ちやがれ」と言った声を聞こえないふりしながら先に進む。その後も二度ほど絡まれたが、問答無用でシルフィに風で閉じ込めて貰った。スラムの中でも特に酷い場所の、ボロボロの板を立てかけただけの家に、シルフィが近づいていく。


「ここよ。兄妹が中にいるわ」


 想像以上にボロい家だ。シルフィにうなずいて、扉らしき部分をノックする。すると隙間から男の子が顔をのぞかせ、ひょこっと引っこんだ。


「あー、警戒するのは分かるけど、悪い話じゃないと思うから、話だけでも聞いてもらえるかな?」


 自分で言っていて怪し過ぎる。どうしたら良いんだろう?


「話なら、そこから話せ。それ以上近づくなよ」


 警戒マックスだな。


「じゃあ、ここから話すね。俺は精霊術師なんだけど、迷宮都市に来たら精霊術師を馬鹿にされてね。くやしいから精霊術師を育てて見返そうと思ったんだ。契約している精霊に精霊術師になれる子供を探して貰って、その一人が君なんだけど精霊術師になってみない?」


 ………………長い沈黙が続く。ダメかな?


「俺は精霊術師になれるのか? それは食って行けるのか?」


 現実的だな。この環境だとそうならざる得ないんだろう。


「うん。周りでは嫌われてるけど、独り立ちするまでは俺が面倒みるから心配しなくて良いよ」


 シルフィに聞いたら、ちゃんと意思疎通が出来れば、意外と早く一人前になれるらしいし、大丈夫だよね。


「………………」


 考えているのかな? もうひと押ししておくか。


「嫌われてるとか聞くと不安に思うかもしれないけど、実力を示せば大丈夫だと思うよ。少なくとも此処に居るよりはまともな暮らしを約束する」


 ……あれ? 死の大地って此処より環境がマシなんだろうか? お腹一杯ご飯が食べられたら、マシって事になるよね。たぶん。


 長い沈黙をゆっくりと待つ。全員に断られたらどうしたら良いんだろう?


「お前が安全だと証明できるか?」


 難しい質問が飛んで来た。酷い事をするつもりは微塵みじんも無いんだけど、証明とか言われるとそれはそれで難しい。

読んでくださってありがとうございます。

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