【第17話】クソゲー
――俺達から死角になる――家々を挟んだ路地へ、師匠が消えると同時に、俺の身体が浮遊感に包まれる。
屋根に登った兎人達から手の届かない、安全な距離を維持しつつ、足下に広がる光景が小さくなっていく。
家々の間を通るコースを、真上から見下ろせる位置に、エリスが移動した。
俺達の眼下では、細い路地に積まれた木箱や、無造作に置かれた農具などの障害物を、青白い風が身軽に避けながら高速移動している。
兎人の攻撃も避け、すれ違いざまに首をしっかりと刎ねており、どんな反射神経をしてるのかと疑いたくなる。
二メートルを超える山積みされた荷車を、跳び箱を飛び超えるように、踏切板の補助も無しに師匠が軽々と乗り越えた。
難なく地面に着地した青白い風が、走り出した直後――。
積荷を載せた荷車ごと、師匠の背後にあった障害物が、爆発したように砕け散った。
大量に飛び散る木片の中から、白い霧を吐く氷の剣が現れ、高速回転しながら師匠の背中を追いかける。
――第一コーナーの目印である――黄色ペンキの塗り忘れた煙突がある家の前を、ほぼ直角に師匠が右折した。
追走する氷剣が、大きな曲線を描きながら、第一のコーナーを曲がり終える。
曲がる際のタイムロスで、師匠との距離が開いてしまったが……。
「あなたが悪いんだからね……」
ボソリと、小さく呟いたエリスの声が、俺の耳に入った。
俺の方からは表情の伺えない横顔だったが、吊り上がった口角だけが、わずかに見えた。
なぜかゾクリと、背筋が冷える。
エリスの右手の掌が、ナニかを薙ぎ払うように横へ動いた。
直線コースに入った氷剣が加速し、ヒトもモノも全ての障害物を斬り刻み、高速で回転しながら破壊して行く。
猛スピードで競争相手との距離を縮め、氷剣が追走していた相手の背に、迫った瞬間――。
「はぁ?」
間の抜けたようなエリスの声が、俺の耳に入った。
追い抜こうとした相手は消え、刃の届かぬ位置を駆け抜ける。
師匠は、壁を走っていた。
横向きに走る師匠が、地面のように壁を蹴って、反対側の家に向かって飛び跳ねた。
空高く飛びながら、俺達の方へ顔を向けた師匠がニヤリと笑う。
「屋根の上も、アリって言ったからな!」
競争中の妨害も、予想済みとばかりの笑顔を浮かべながら、師匠が屋根に飛び移る。
事前に確認したルール通り、師匠が屋根を軽快に飛び移り、第二コーナーを悠々と曲がった。
「……チッ」
エリスの舌打ちと同時に聞こえたのは、ガリガリと異様な音を出す氷剣。
動揺で、コーナーを上手く曲がり切れなかったのか、回転する氷剣との接触箇所が、激しく火花を散らしていた。
さっきよりも大きくタイムロスをし、屋根上を飛び移る師匠とかなり差が開いてしまう。
忌々し気な顔を隠さず、エリスが右手の拳を強く握り締めた。
エリスの右手には、リング状の魔法円紋が二つ纏っており、二つあるうちの一つから、青白い輝きが消える。
吐き出していた白い霧は消えたが、高速回転する氷剣が再び加速し、教会鐘楼の裏側を通り過ぎた。
コースの半周を終え、先ほどとは見違えるコース捌きで、第三コーナーを氷剣が曲がる。
パワーを落とす代わりに精度を上げたのか、地上にいる兎人を仕留めながらも、屋根上を走る師匠との距離を徐々に詰めていく。
第四コーナーを曲がって、師匠が先に地上へ降りた。
真剣な表情のエリスが操る氷剣が、カーブを曲がりながら師匠を追走する。
井戸の前で、誰かの両足を引っ張り上げようとする、二体の兎人の姿が目に入った。
兎ピエロは、まだ落ちてなかったのか……。
兎人の背後を青白い風が通り過ぎ、二つの兎頭がコロリと地面を転がる。
その後を追う氷剣が通り過ぎた直後に、首なしの兎人が主人の足を掴んだまま、井戸の中に吸い込まれていくのが見えた。
「バニィイイイ……」
よく分からない叫び声の後半が遠くなっていったので、今度こそ井戸に落ちたのだろう。
道化師と言う意味では、百点満点のリアクションではある。
それが、本来の彼が望んだ道化師と、同意義だったのかは分からないが……。
数メートルはある教会鐘楼を、壁を蹴りながら飛び上り、難なく鐘の前に師匠が到着した。
不機嫌そうな顔で、エリスが手招くように指先を動かし、空中を高速回転する氷剣が、操り主の手元まで飛来する。
「えっ?」
驚いた声を漏らし、エリスが少し後ろへ仰け反った。
不意を突かれた顔で、目を丸くしたエリスの瞳に、操り主へ刃を向けた氷剣が映る。
「おっと、失礼。昔から手癖が悪くてね……。目の前に来たから、くれるもんだと思って掴んじまったよ。悪い悪い、ヘッヘッヘッ」
わざとらしい笑みを師匠が浮かべながら、氷製の剣柄を握り締めた手を離した。
「うへっ。冷てっ」
両手を合わせて冷えた手を擦りながら、師匠が吐息で温める仕草をした。
今の俺も、驚いたエリスと同じ顔をしてるだろう。
手が届く範囲にあったからって、高速回転する中にわざと腕を突っ込んで、いきなり剣を掴みやがったぞ、この魔獣ハンターは……。
ホントどんな動体視力と、反射神経してんだよ。
「おっとっと……。病み上がりには、やっぱキツイな」
それなりに無理をしたのか、足もとをフラつかせながら、師匠が石柱に背を預ける。
「トウマ。どっちが勝った?」
「えっと、同数です……。この場合は、引き分けですかね?」
「そっか。引き分けか……残念だね~。魔女と勝負して、勝ったことがあるって。あともうちょっとで、自慢できたのになぁ~」
勝てなかったのに、特に悔しがる様子もなく、なぜか満足気な笑みを浮かべる師匠。
勝負は引き分けで終わったのに、嬉しそうな笑みを浮かべる師匠を見て、俺は妙な違和感を覚えた。
「兎狩りの勝負は終わりだ。そろそろ、本番にいこうか?」
「本番って何よ?」
「おいおい。金ヅルが目の前にあるのに、それを見逃せってか?」
「金ヅル?」
「楽して金を稼げる方法が、金ヅルだよ。魔獣ってだけで賞金額が高くなるから、まだ魔獣に成り立ての弱い頃は、魔獣ハンターじゃなくても数を揃えたら、倒せるのもいるから金ヅルだって。俺と一緒に住んでたグレンさんから、聞いたことがあるけど……。魔王を金ヅル扱いするのは、たぶん師匠くらいですよ?」
「弟子とのヒモ生活も悪く無いけど。酒とツマミ代くらいは、稼がないとな。ヘッヘッヘッ」
できれば酒以外の生活費も、自分で稼いで欲しいのですが?
「なあ、トウマ。前に尻尾付きの魔王が、どうたらこうたらとか言ってたよな?」
「はい。たぶんですけど。俺の予想が正しければ、あの魔王もシラヌイと似たスキルを持ってるんじゃないかと……」
「ふーん……。トウマ。もうちょっと、それ詳しく教えてくれよ……」
数分ほどの小休憩を挟んだ後、ポキポキと関節を鳴らして、ストレッチをしながら師匠が目線を落とす。
井戸の前では、十を超える兎人達が井戸穴から伸びたロープを掴み、綱引きをするように引っ張っていた。
全身をズブ濡れにした兎ピエロが、寒さで震えながら、井戸穴から顔を出す。
ヤンキー座りをして、地上の様子を眺めていた師匠が、おもむろに腰を上げた。
「おい魔王! こっちの用事は済んだから、次はてめぇの首を狩るぞ! 死にたくなかったら、さっさとトモダチを呼んで、自分を守れよ!」
「ひぃっ!? ぼ、僕を守れぇ!」
もはやピエロのロールプレイをする余裕もないらしく、自分を助けてくれた兎人達を押しのけて、我先に逃げようとする兎ピエロ。
主からの指示を受けた兎人が、カチカチと歯を小刻みに打ち鳴らし、周辺にいる仲間達に合図を送る。
「打ち合わせ通りにやれよ、ダークエルフ」
「ニンゲンごときが。私に命令しないでくれる?」
「エリス、頼む……」
「そんな顔しないでよ。やるわよ、やればいいんでしょ?」
さっきの勝負の結果を、まだ引きずってるのだろうか。
エリスが渋そうな顔をしながらも、手元にあった氷の剣を目的地へ飛ばした。
「お? 集まってる、集まってる。ごちそうに群がる蟻みたいに、集まってやがるぜ」
村中に散っていた兎人達が、主を守るようにして集まる様子を眺めながら、師匠がニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。
「ほんじゃ。始めるか……」
精神を集中させてるのか、師匠が瞑想しながら、時間を掛けて深呼吸を繰り返す。
師匠が再び目を開き、青白い息を吐きながら全身に魔紋を浮かべ、口角を吊り上げた。
「狩りの時間だ。今日は兎が多すぎて、鍋が溢れそうだぜ」
肉食獣が獲物を狙うような、獰猛な笑みを浮かべた師匠が、いきなり後ろを蹴った。
――鐘の音が、鼓膜が破れんばかりに、盛大に鳴り響く。
鐘楼に設置された鐘が、普段は見る機会の無い角度で、激しく揺れている。
「うるっさいわね……」
不機嫌そうな顔のエリスが、激しく鳴り響く鐘から距離を取ってくれる。
俺も耳を塞ぎたくなるくらいにクソでかい鐘の音が、村の外に聞こえるくらいの音量で響き渡っていた。
でも、コレで良いんだ……。
師匠の靴跡以外に、過去に何かを強くぶつけた跡のある鐘から視線を外し、村の外へ目を向ける。
これでこの場所を目指している人達が、村で異変が起きたことに気づいてくれると思う。
運が良ければ、外を巡回している領主の私兵騎士達が駆け付けてくれるし、街からも応援を呼ぶはずだ。
過去の世界線から経験したことだが、村一つが魔獣に襲われて壊滅したとかは、この世界ではよくある話だからな……。
外へ向けていた視線を、地上に戻す。
すでに地上へ降りていた師匠が、持っていた剣を投げた。
主を守るために集合した、兎人達の先頭にいた一体の頭に、剣の刃が突き刺さる。
兎頭から剣の生えた兎人が膝を折り、割れた額が地面に触れる直前に、人の形をした疾風が滑り込む。
――青白い光が、横薙ぎ一閃。
割れた額から刃が消えた兎人を中心に、周りにいた数体が、同時に血飛沫を上げた。
……五、六、七、九。
小動物がギュウギュウ詰めで密集した檻の中に、放り込まれた大型猛獣の如く。
爪という名の刃を振り回す度に、柔肉が剣で斬り裂かれる。
十一、十二、十三、十五……。
チーターに兎が勝つのは不可能なように、クワなどの農具を手に持ち戦いを挑んだ兎人が、真っ二つに斬り裂かれた。
肉と骨を斬り過ぎて、折れた刃が地面を跳ねる。
しかし、師匠は止まらない。
折れた剣を相手の脳天に突き刺し、地に転がる農具を足で蹴り上げ、空中で掴んだクワの先端で、兎頭を殴り飛ばす。
掴んでいた棒がへし折れたクワと、新たに手に入れたナタを交換し、目の前にいた相手の四肢を斬り飛ばした。
十八、十九、二十……二十五。
人の形をした猛獣が、両手で握り締めたナタを、全力で振り回す。
数体の喉元から、ほぼ同時に血飛沫が舞う。
元傭兵らしき兎人から剣を奪い、ナタと剣を両手に握り締める。
集団の半分ほどを血肉に変え、ようやく一息つくかと思ったら――。
「私を殺したければ、魔獣を連れて来いや! 魔獣ハンターを舐めるなよ、兎野郎がッ!」
ナタと剣を斜め十字に頭上で重ね、人の形をした猛獣、いや魔獣が吠える。
またまだ食べ足りないと空高く飛び跳ね、飢えた魔獣が嬉々として群れの中に飛び込んだ。
切り裂き魔を、お前ごときが模倣できると思うなと言わんばかりに。
本物の切り裂き魔獣が、先ほどの倍のスピードに加速し、暴風の刃が手当たり次第に獲物を斬り刻む。
「ひぃいいっ!」
兎人の壁では防げないと悟ったのか、兎ピエロが悲鳴を上げながら逃げ出した。
しかし、その足も数歩を進んだところで、急に立ち止まる。
立ち尽したまま背中を俺達に向けた、兎ピエロの視線の先――。
村の出口付近に、白い霧を吹きだしながら、高速で回転する氷の剣が浮遊していた……。
エリスが操る氷剣に逃げ道を防がれ、兎ピエロが再び後ろへ振り返ったが。
「ひっ!?」
目を見開いた兎ピエロの眼前に、全身を赤黒く染めた師匠がいた。
折れた鉈を、師匠が地面に放り投げる。
師匠が掌を手刀の形にして、自らの首をトントンと、何度も叩く仕草をする。
後方の回転する氷の剣、前方の挑発する魔獣ハンターに挟まれ、兎ピエロが意を決したように両手の短刀を構えた。
「魔王に選ばれた僕が、このデスゲームに勝利するんだよぉッ!」
もはやヤケクソ気味に息巻いた兎ピエロが、交差に短刀を振り抜いた。
青白い風が吹き、師匠が姿を消す。
誰もいない虚空を茫然とした顔で、兎ピエロが見つめている。
兎ピエロの眼前で、短刀を握り締めた両腕が、地面へと落ちた。
「クソゲーかよぉおおおおお!」
怒りで顔を真っ赤にし、天に向かって叫ぶ兎ピエロの顔面に、斬線が縦に走った。
真っ二つに割れた兎ピエロの背後から、刃を地に降ろした師匠が姿を現す。
「トウマ、尻尾が出たぞ! ……村の外へ逃げたから、先に行くぞ!」
どうやら兎ピエロは、村中に散った兎人を本当に集めてくれたらしい。
師匠が提案した一網打尽の作戦が、上手くいったようだ。
分身切れになった魔王が、黒い触手を蛇のようにうねらせて、森の方へ逃げて行ったらしく、師匠が追いかけた。
あとは事前の打ち合わせ通り、寝床まで誘導してもらって、巣を破壊すれば……。
「エリス?」
「……ん? なに?」
本物の魔獣ハンターだと実力を証明するために、村の中で師匠が暴れ回った残骸を、エリスが物静かに眺めていた。
「俺達も、巣を叩こう。一体でも残ってたら、面倒くさい」
「……そうね」
シラヌイのことも知ってるから、エリスも魔王の仲間を増やすスキルの厄介さを、理解してるはずだ。
だから師匠を、すぐに追いかけたいところだったが……。
物憂げな顔をして、少しばかり元気が無いエリスが気掛かりで、先を催促しにくい空気が漂っている。
急にしおらしくなったエリスの原因は想像つくが、さっきの勝負でもしエリスが負けていたらと、違う未来を考えるとちょっと怖いところだな……。
「兎がこの倍いたら。たぶん、エリスが勝ってたよ」
「……え?」
俺の言葉に反応し、不思議そうな顔をしたエリスが、俺を見つめてくる。
「師匠、まだ本調子じゃないんだ。勝負のコースを村の半周にしたのは、たぶんそれ以上やると限界が来て、血を吐くんだと思う」
「……血を吐く?」
「二日酔いで師匠がゲロ吐いてた時に、介抱してたらさ。魔薬のせいで昔みたいに、長いこと本気で走り回れないって言ってたよ。さっきも、兎ピエロを倒した時にフラついてたから、けっこう限界なんだと思う……。ダークエルフのエリスと引き分けにもっていけて、すごく喜んでたから。さっきの勝負も、本当にギリギリだったんだと思うよ?」
俺がそう言ってやると、エリスが何かを考えるような顔で、地上をじっと見つめる。
「ねえ、トウマ。血を吐いた後、どうしたの?」
「……え? エリスも見てなかった? その後、俺の家に運んだよ……」
「ああ……。あの時のね。トウマの目玉をほじくるとか言ってた、ふざけたニンゲンのことで頭がいっぱいだったから……。そんなこともあったわね」
ようやく当時の記憶を思い出してくれたのか、エリスが目を細める。
アレはホント、大変な事件でしたね……。
お嬢様を屋敷に届ける時も、誘拐事件の主犯として連行していた貴族の目玉を、誰かさんが常に狙ってましたからね。
「目玉は、一つあれば見えるし。片目くらいは、いいでしょ?」
いや、よくないよ。
お嬢様が顔面を一発殴ったくらいじゃ、やっぱり気が済まなかったエリスに、恐ろしい質問をことあるごとに、繰り返しされてましたからね。
隙あらば貴族の目玉をほじくろうとするエリスから目が離せなくて、お嬢様の護衛よりそっちがヒヤヒヤしっぱなしだったからな。
朝起きたら、貴族の目玉が片方無くなってたとか、どんなホラーだよ……。
俺は大貴族だぞと威張り散らして恐喝していたライザールも、容赦なく殺気を振りまいて、両目をガン開きしたダークエルフに、一日中ずっと眼球をほじくりたそうな顔で覗き込まれて。
屋敷に到着した時は、「早く俺をアイツのいない、地下牢に連れて行ってくれ!」と泣き叫んでたしな。
いや、アレは誰でもトラウマになるよ……。
「ねえ、トウマ」
「……ん?」
「トウマは、私の味方よね?」
「そんなの当たり前だろ。エリスが敵になったら、俺は誰を頼れば良いんだよ……」
余裕で即答できる質問を投げられても、俺は困りますよ。
前回のラスボス候補と、絶対に戦いたくないからさ。
死に戻りできた今回の世界線で、最初から全力で君を味方にしようと、俺は必死に頑張ってるんだからな。
言っちゃ悪いがエリスさん、その質問は愚問ですよ……。
「そっか……。そうよね。フフッ」
どうやら、ダークエルフのお嬢様は機嫌を良くしてくれたようだ。
次からは余計な心労を増やさないよう、エリスが誰かと勝負ごとを始めたら、絶対に止めよう。
うん、そうしよう。
「トウマ。飛ばすから口を閉じて。舌を噛むわよ」
「うん、よろしく頼むよ」
話し込んで離れてしまった師匠を追いかけるために、エリスが加速の風魔法を発動する。
「あのニンゲンが、血を吐いて倒れてたら。トウマも困るんでしょ?」
「うん。魔獣ハンターをやってる師匠のことだから、自分の限界はよく分かってると思うから。魔薬を呑んでた時みたいに、予想外のことが起きない限り、動けなくなるまで無理はしないと思うけど……。万が一が、あるからな」
「分かったわ。急いだ方が良さそうね」
機嫌を直してくれて、いつも通りになったエリスが、俺と手を繋ぎながら風になってくれる。
兎ピエロのクソゲー発言を、真似するつもりは無いけどさ。
ここまできてエリスと敵対するような、クソゲーって叫びたくなる展開だけは、ホント勘弁願うぞ……。
俺の手を強く握ったエリスの手を、俺もまた強く握り返した。




