表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【SQEXノベル大賞受賞】私を殺す攻略対象と、赤い糸でつながっているのですが!?  作者: 新 星緒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/56

12・1 好きでいる覚悟

「だいぶ予定より早く終わったが、どこかへ寄って行かないか」

 教会庁から帰る馬車の中で、険しい表情でエメリヒが提案した。

 アドリアーナは王宮で降ろしたので、車内にはふたりきり。エメリヒは私を誘ったのだと思う。だけど人相が悪すぎて、まるで果たしあいでも申し込んでいるみたい。


 そう思ったら楽しくなって、それまでぐるぐるとしていた気持ちが、少しだけ軽くなった。


「カフェはどうだ? 騎士団の先輩にお勧めを教えてもらったんだ」

「いいわね」

 私も美味しいものを飲んで落ち着きたい。


◇◇


 馬車が止まった。どこからか軽快な音楽が流れてくる。

「お祭りかしら?」

「聞いていないが」とエメリヒも首をひねる。

 そこに馭者が「渋滞でこれ以上は進めません」と言ってきた。


「見に行ってみる?」

 音楽とともに楽しそうなにぎわいが聞こえてくるし、小窓から見えるひとびとは明るい表情で道の先に向かっている。

「ラウラが構わないなら」


 ふたりで馬車を降りる。メインストリートからそれた、下町のような区画だった。

 そばを通り過ぎようとした女性に「お祭りですか」と尋ねると、

「違うけど、そんなもん! みんな広場でお祝いをしているんだ」との返事が返ってきた。


 彼女の向かう先は広場で、中央にある噴水のへりに数人が上ってリュートや縦笛、太鼓で演奏をしている。そのまわりで沢山のひとたちが踊っているものの、確かにお祭りではなさそう。


 活気はあるけれど、見るものはないみたい。馬車に戻って当初の予定どおり、カフェに向かったほうがいいのかしら。


「ラウラ」

 掛けられた声にエメリヒを見ると、右手を差し出して思いつめたような顔をしていた。

「一緒に踊ってもらえないか。本当は歓迎会の時に誘うつもりだったんだが、機会を逸してしまったから」


 その手をみつめ、それからエメリヒをみつめ、腹をくくって手を重ねた。

 嬉しそうに微笑むエメリヒ。


「でも私、どう踊ればいいかわからないわ」

 社交場で踊るダンスしか知らないもの。

「俺だって!」


 エメリヒは笑うと、周りのひとたちのようなステップを踏み始めた。私も慌てて合わせる。

 両手を繋いで、跳ねるように踊りまわる。激しく波打つ赤い糸。段々楽しくなってきて、正しく踊れているかなんてどうでもよくなった。

 エメリヒは満面の笑みで、とても幸せそうで――。


 好き、と思った。


 ◇◇


 踊り疲れて、広場の隅のベンチにエメリヒと並んですわった。

「なんだかわからないが楽しかったな!」と言うエメリヒは、珍しく興奮した様子をしている。

「私も楽しかったわ」

 周りはまだまだ軽やかな音楽と共に踊っている。


「エメリヒ」

「……っ!」

 彼が驚いたように目を見開く。

 気づいていたのね。私が名前を呼んだことがないことを。

 最初は特に意味はなかった。どちらかといえば、こんなひとの名前を口にしたくないという思いがあったぐらい。

 だけどいつのころからか、口にしづらくなっていた。

 その理由は考えないようにしていた。たぶん、私はずっと前から、自分の気持ちがわかっていたのだわ。


「あなたが好き」

 エメリヒの目がますます大きくなる。

「でも、好きでいることが怖いの」

 もし自分が意地悪な人間に戻ってしまったら。もしエメリヒが心変わりをしたら。

 どうしてもそう不安になってしまう。


「ラウラ」エメリヒは真摯な顔をで私を見る。「俺は謝らなければならないことがひとつある。赤い糸の切り方は、みつけた」

「ええ? いつの間に」

「君と図書館で書物に目を通していたときに。『一度切った縁は二度と戻らない』そう書いてあったから、黙っていた」


 赤い糸を見る。私と彼の左手の小指を繋いでいる。最初は絶対に切ると意気込んでいた。だけど今は――


「明日、その箇所を見せる」とエメリヒ。「ラウラが俺との縁を切りたいと思ったら、実行していい。魔力があれば誰でもできるらしい。これは俺の覚悟だ」

 それはどういう意味?

「俺はラウラを失いたくない。だから絶対に君の不安を払拭する。信じてほしい」


 エメリヒは歓迎会の日も、教皇様のお話を聞いたあとも、今も、真摯に私に約束をしてくれている。

 それを信じられないって、悲しいことだわ。


「ありがとう。エメリヒを信じるわ」

「手をとってもいいか?」

 ええと答えると彼は私の手をとり、視線を合わせながら

「ラウラが俺のすべてだ」と言って口づけた。


 その箇所が燃えるように熱い。

 そして、顔も。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ