第58話 アウドレッドに潜入#3
『で、情報収集はどこでやるつもりなんだ? その辺の連中にでも聞くか?
オマエの容姿と言葉遣いじゃまずまともに話してくれる相手はいないけどな。
下手すりゃ騎士を呼ばれて終わりだ、キシシ』
『ご機嫌で何よりだけど、そんなリスキーなことはしないよ。
それよりももっと確実に話を聞いてくれる人がいる』
『あぁ? この街にオマエの知り合いでもいんのか?』
『コネを作るのも冒険者の務めだよ。
だけど、問題はこんな容姿になった俺を信用してくれるかどうかだな』
『アタシのおかげだな、キシシ』
楽しそうに笑うブラックリリーを横目に見つつ、ユトゥスは大通りから路地裏へと入る。
その道に入った瞬間、賑やかな場所から一転してひんやりとして薄暗い雰囲気に覆われた。
『相変わらずこういう場所って入っただけで雰囲気変わるよな。なんでだろ?』
『暗いところは危ないって潜在的恐怖があるからじゃない?
理由としては日中の活動に慣れた大昔の人の夜目が退化してしまい、自分の弱点に対して危機意識を持つようにとか』
『随分と詳しいな』
『正解かどうかは知らないよ。色んな本を読み漁った故の知識による考察......あ、後で本屋行っていい?』
『アタシに聞くなよ。オマエが主導権の体だろ? 好きにしろよ』
『いや、なんというか......せっかく一緒にいるのに気を遣わないってのもな。親しき中にも礼儀ありっていうでしょ?』
『自分に取り憑いている悪意に対して礼儀って......変な奴』
そんな会話をしつつ、路地裏を右に曲がったり左に曲がったりして辿り着いたのは一つのお店。
古びた看板に「シャロン亭」と書かれており、ドアの前には「営業中」とだけの表札があった。
『なんというか......人来てんのか? この店』
『売上うんぬんより趣味目的の店だからね。さ、入るよ』
ユトゥスはドアを開け店に入る。その中は閑散としており、いても一人か二人程度。
その二人は見ない顔だ。久々とはいえ、隠れ家的のに店には基本顔見知りしか来ないのに。
「見ない客だな」
そう声をかけてきたのはバーのマスターであるブランディだった。
スキンヘッドの頭に眼鏡をかけた人物であり、基本眉間にしわが寄っていて一見強面な印象だ。
しかし、放せば案外優しい人物というのがユトゥスの見解である。
「俺は久しぶりだがな」
ユトゥスはバーカウンターの前に座り、ブランディと対峙する。
「久しぶり」という発言にユトゥスの存在を訝しんでいる様子のブランディだっただが、何事も無かったかのように接客を始めた。
「ま、顔に傷が出来てそれが恥ずかしくて顔を隠すって奴もいるしな。
こっちに迷惑かけなけりゃ誰だっていい。で、何飲む?」
『おい、どうやってオマエがユトゥスだって証明済んだ?』
『まぁ見てなって。気づかせる手段ならある』
ブラックリリーの問いかけに自信があるかのように答えたユトゥスは、ブランディから渡されたメニュー表に適当に目をやりつつ、そっとメニュー表を閉じて答えた。
「ふっ、前に見た時よりも酒の種類が増えてるな。それじゃ――マスター特製パフェで」
『酒じゃねぇのかよ!』
「はいはい、あのパフェね――ってちょっと待て」
瞬間、ブランディの凄みで空気が変わった。
ただでさえ明るくない雰囲気が一層暗くなり、まるで冷蔵庫の中のように空気が冷える。
「そいつは俺が娘のために作った特別な品だ。
それにそれを提供するのは手伝ってくれたあの冒険者パーティだけ。
どこぞもわからねぇ奴に提供するもんじゃねぇよ。
例え、お前がアイツらの友達だろうと目の前に一緒に来るまで俺は信用しねぇ」
「ふっ、面白い。なら、俺がそのうちの一人だと言えばどうする?」
そういうとユトゥスは自ら仮面を外し、ブランディに顔を見せた。
瞬間、ブランディの脳裏に昔に助けてもらったとある人物の顔が思い浮かぶ。
そして、チラッと周囲の人物達の様子を確認し、小声で話かけた。
「ま、まさか......お前、ユトゥスか!? どうしたその目は!?」
「ようやく気付いたか。まだ耄碌はしてないみたいだな」
「それとどうしたそのオラオラした口調は?」
「色々あったんだ。話すと長くなる」
『アタシのおかげでな』
ユトゥスはフードを少しだけ上げ、自身の変わり果てた髪色を見せた。
一見すれば誰もが羨みそうな輝きを持つ銀髪。
されど、知る人であればそれが呪いの証だとわかる。
それこそ昔には銀髪の人々は一斉に粛清されたという歴史があり、それほどまでに忌み嫌われている髪色だ。
そんなユトゥスの姿にブランディは再び衝撃を受けたような顔をし、わずかに開いた口を閉じた。
「なるほどな。その姿は徹底して顔を隠すのも頷ける。
さすがに迷宮再構築での行方不明者の名前にお前の名前が載っていた時には肝が冷えたが、生きてるならなぜ一人でコソコソしてる? お前には自慢の仲間達がいただろ?」
「自分の成長目的で一時的アイツらから離れてる。
今までの俺は頼るだけしかできない能無しだったからな。
それにこの姿を剣王国の騎士に見られ目をつけられている」
「人族至上主義のイカレ騎士どもか。昔の栄光を笠に着て好き勝手やる蛮族モドキ。
とはいえ、相手は列国三強の一国でもある。敵にするにはあまりにも分が悪いな」
「アイツらのことなら快く味方なになってくれそうだが......それだと俺はアイツらに待っている輝かしい未来を、俺自身が望んだ夢を俺の手で汚すことになる。それは出来ない」
ユトゥスは思いつめたような表情で言った。それほどまでにこの夢は大切なのだ。
自分が役立たずと理解した時から、下の子達の卓越した才能があることがわかってから決めた生き方だ。
それを否定することは自分の人生を否定することも同じだ。
『くっだたねぇ。人間誰しも自分本位だ。自分の欲のためには平気で他人を汚す』
『そういう人しか見てこなかったのかもね。だったら、俺で価値観変わるかもよ?』
『けっ、やってみろ。お前の人殺しをしない信念ともども崩れるのを見届けてあざ笑ってやるよ』
挑発的な言葉で煽るブラックリリーを持ち前のスルースキルで軽くいなしつつ、ブランディが言う言葉に耳を傾けた。
「それで? こんな所でわざわざ俺に素顔を晒してまで信用を得たお前は俺に何を求めてる?」
「情報が欲しい。この街のこと、剣王国のこと、そしてアイツらのことも」
「なんだ関わらねぇくせに知りたいのか?」
「無駄な接触を避けるためだ。考えればわかることだろ。
例え姿が変わろうともアイツらなら俺の正体なんて一発でわかる。
それにアイツらの活躍を聞くのが俺の楽しみの一つだからだ」
『後者が本音だな』
『あたぼーよ』
そのユトゥスの言葉にブランディはせっせと作っていたお手製パフェを提供した。
そのパフェに目を輝かせるユトゥスを見ながら、ブランディは話始めた。
「まず剣王国のことだが、相変わらずあまり良い噂は聞かん。
下級騎士の隊が点数稼ぎで他の種族を捕まえているらしい。
だがその一方で、上級騎士以上の噂は中々下に降りてはこない。
恐らく用意周到に情報を制御してるんだろうな」
「無いならいい。次だ」
「お前の仲間達のことは良い印象しか聞かんからなぁ。ある程度のことはオマエも知ってるだろうし」
「ふっ、だろうな」
ユトゥスは得意げに笑った。
その姿はまるで愛でマウントを取るファンのような姿だった。
そんな彼の顔をよそにブランディは不穏な情報を提示する。
「ただ、どうやら市民の間でお前んとこの末っ子が”勇者”と呼ばれ始めてから少し不穏になった。
どうにもその言葉に剣王国が反応しているらしい。噂程度だけどな」
「またアイツらか.......」
「そして最後に、この街の領主についてだ。どうにも魔族と繋がりがあるらしい」
「剣王国が魔族と......?」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
良かったらブックマーク、評価お願いします




