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逆転の反逆者、その意に逆らう~職業不明の青年が迷宮で神様から力を貰い、その力で英雄へと至るまで~  作者: 夜月紅輝
第2編 異端者は集う

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第48話 騎士団の襲撃#8

 とある民家の壁に尻もちをついて寄りかかるユトゥス。

 その目の前には悠然と歩いてくるカマセーヌの姿があった。


「先程の威勢はどうした? まぁ、吐く余裕もないだろうがな。

 遠距離武器は距離感が全て。こんな室内で剣士相手では手も足もでるまい」


「勘違いしちゃ困るな。俺がいつ職業を言った?」


「どういう意味だ」


「考えろ愚者。そこで思考を止めてるから貴様は弱者なんだ」


 ユトゥスは立ち上がる。そして、手に持っていた弓を<亜空間収納>に戻し、代わりに一本の短剣を取り出す。


「<亜空間収納>とは珍しい者を持っているな。

 だが、それがあったところでこの状況は覆らない。

 加えて、イキった割にはその短剣で俺に勝てるとでも?

 さすが嫌われ者だな。森ばかりに棲んでいて世界を知らないようだ」


「言いたいことはそれだけか? お前の方がよく吠えるな」


「殺す」


 カマセーヌは剣を頭上に構え、大振りからの振り下ろしを放つ。


「斬鉄!」


 ユトゥスが横に避けると元居た場所の壁は斬り裂け、砕け散った。

 相変わらずの大振りだ。そして、自分が避けたのは相手から見て左側。

 その状態で連撃を重ねるとすれば、右足を軸にして左足を動かす必要がある。


 となれば、こっちの方がワンテンポ速い。狙える。

 .......が、ここはもっと強力な一撃を狙ってみるか。

 恐らく、いや確実に絶好のタイミングが来るから。


「流岩払い!」


 後ろに下がって薙ぎ払いを避ける。

 本当に強攻撃しかしてこない奴だな。

 そして、相手は右から左に振るった剣をそのままに、右手から左手に剣を持ち替える。

 ほら来た。右足を前に出し、やや右肩を張り出した前傾姿勢――突きの構えだ。


「杭うがーーちぐがっ!?」


 カマセーヌは強力な突きを放ってきた。狙うは後の先。

 それを右手の短剣で受け流しつつ、左手の拳でカウンター。

 その一撃が相手の顔面をしっかりと捉え、吹き飛ばす。

 そして、その相手はたまたま奥にあったテーブルの上をズサーッと転がった。


「ふざけやがって!」


 転がったまま反対側に降りたカマセーヌは片手でテーブルをひっくり返し壁にした。

 なるほど、咄嗟にテーブルをひっくり返すことで次の手を読めなくしたか。

 しかし、こちらは弓も使えるのでそれを放った時点で話はおしまいなんだが......せっかく久々の近接戦だしもう剣で少しやろうか。


 さて、テーブルをひっくり返した相手の出方を想像してみよう。相手との距離は離れてる。

 となれば、飛ぶ斬撃で牽制し、避けるにしても弾くにしてもその直後をを狙うのが定石。

 それじゃあ、斬撃の種類を考えよう。あるとすれば、縦か横か点の3パターン。


 その中から三分の一で攻撃を当てるのは至難だ。

 それに飛ぶ斬撃によるテーブルの破壊の仕方で判断することも可能だが、それだとどうしても相手に隙を与えることになる。


 では、どのパターンで来るか。もうすでに答えは出てる。

 相手はテーブルの上を転がって落ちた際、自分から見て足を右に向けてあおむけの状態だった。

 そのままの勢いで転がった場合、先に地面につくのは右足だ。

 つまり、着地した場合、右ひざを地面につけ、左足を立てた状態の立ち膝。


「点の攻撃か」


―――ザンッ


 真上に跳躍したと同時に、テーブルは真ん中から裂ける。

 あの姿勢の状態からスムーズに攻撃に移行するには左足を前に出すだけの突き攻撃が一番効率がいい。


「っ!? どこだ!?」


 あの驚きようは当たると思っていたのだろう。想定が甘いな。

 自分が屋根の桁を掴んでいるとは考えもしていない様子だ。

 つまり、隙だらけってことだ!


「なっ!」


 ユトゥスはカマセーヌに向かって飛び出し、脳天目掛けてかかと落とし。

 しかし、その攻撃は剣の腹で受け止められた。


「舐めるなっ!」


 カマセーヌに弾き飛ばされると後方に下がって着地。

 同時に、手に持っていた短剣を投げる。


「こんなもの――なっ!? いつの間に!?」


 カマセーヌが短剣を弾いた後隙を狙って近づき、右足を上げて思いっきり膝を曲げる。

 そして、圧縮した力を開放するように右足を開放する。


「逆転」


「がっ!」


 カマセーヌの胴体に右足が突き刺さった。

 加えて、その男の筋力値を利用した一撃は鎧を破壊した。

 口から血を吐くその男は民家の壁を突き破り、隣の民家の壁を突き破って転がっていく。


「ごほっ、がはっ......な、なんなんだお前......お前は弓系の職業じゃなかったのか?

 なぜ忌み嫌われるお前が立っていて、俺が地に伏せている?」


「ふん、面白いことを言う。俺は弓を使うがそれしか使えない職業と明言した覚えはないぞ」


 ユトゥスは地面に落ちている短剣を拾い、カマセーヌを見下ろす。

 対して、カマセーヌは剣を支えにしながら立ち上がった。


「だが、お前は弓の射撃性能に短剣のいなし、そして無駄のない体術まで使う。

 そんなたくさんの技能スキルを使える職業なんてないはずだ!」


「言っておくが、俺はスキルなんて1つも使用していない。

 確かに、身体能力を上げるスキルもあるが、そもそも技能スキルはあくまで威力を上げる手段に過ぎない。

 〈体術〉が無ければ拳が振れないでは、ロクすっぽケンカも出来ないだろうが。頭を使え低能負け犬イキり金髪」


「低能負け犬イキり金髪......っ!?

 では、お前がやってるのはただのケンカの延長戦と言いたいのか?」


「そうだな。その程度の戦いでしかないということだ」


 相変わらず思っていない言葉がボロボロと出てくる。

 特に今回は酷い。最初の名乗りすらまともじゃなかったし。せっかく名乗ったのに。

 しばらく前からしゃべってないのにこのありさまだからねホント。どういう口よ。


 しかし、自分の口から出てくると不思議と本当はそう思っているんじゃないかと勘違いしそうになる。

 だって、不謹慎だけど今の戦闘が楽しいし。


 これまで自分が勝てる相手は同年代にいなかった。

 それどころか年下にもいなかっただろう。

 もちろん、比べる相手は冒険者に限るけど、少なからず入ってきたばかりのルーキーよりは確実に劣る。


 つまり、これまで勝てる相手がいなかった。しかし、今は違う。

 装備ありきだけど明確に優勢に立っている。相手はスキルを使って戦っている。

 それが凄く嬉しいし楽しい。こう忘れかけていた闘争心が沸き上がる。

 とはいえ、さすがにあそこまでコケにするような言い方はしてないけど。


――あぁ、そうだ。オマエはそれでいい。そのまま舐めてるクソを叩き潰せ。


 .......ん? なんだろうか、今の声は。この場には誰もいないはず。

 となると、脳内に流れてきた? ちょっとトゲトゲしい少女の声が?

 え、なんだ今の幻聴? まぁ今は目の前のことに集中しよう。


「まだ続けるか? 弱者」


******


 場所は変わってAランク迷宮“獣過の巣穴”の入り口。

 そこでは二週間以上にも渡り迷宮に挑み続けた“満点星団”のリーダーサクヤとそのAランクパーティに続くCランクパーティ”夕暮れのコール、バレッタ、トバンの座る姿があった。


「見つからないですね、ユトゥスさん。あの......大丈夫ですか?」


 コールが心配する視線の先には死んだような眼をするア二リスと、声をかけようとするもかける言葉が見つからず暗い顔をしているユミリィ、そんな二人を見て暗い顔をするドンバスの顔があった。

 そんな仲間達の姿を見つめるサクヤは悲しみを見せない笑顔で言った。


「大丈夫だよ、あの三人なら大丈夫。これまでも似たようなことあったし。

 ただまぁ、その時は兄さんがいたからで.......今回はだいぶ堪えると思うけど」


「だ、大丈夫ですよ! 必ず見つかりますって! 私、信じてますから!」


「あ、あぁ。俺もそう思う。なんなってこんなメンバーの一人だったんだから」


「......そうだね。僕もまだ信じてる」


「そ、それはそうと、サクヤさんの剣って凄いですよね!」


 コールは話題を変えるように話を振った。

 その内容は迷宮内でのサクヤの剣技だった。


「凄いって何が?」


「だって、剣を使う人は大抵スキルでゴリ押しが多いですけど、サクヤさんは違うと言いますか。

 剣での通常攻撃を細かく振るって、確実な隙にスキルを畳み込むというか。

 その、そこまでしっかりと剣を振るえるように鍛錬してる努力が伺えて」


「あ~、あの剣ね。あれ実は全部兄さんに教えてもらったんだ」


「「「......え?」」」


 驚く“夕暮れの花”にサクヤは楽しそうに笑った。


「だよね。普通は聞いたら驚くだろうけど、本当のことなんだ。

 まぁ、兄さんが僕達に教えたのは短い期間だけ村にいた旅人に教わったものだけど。

 そして、もっと言うと僕は兄さんに一度も勝ったことが無い」


「「「え!? あのサクヤさんが!?」」」


「うん。ただし、強化スキルや剣技スキルなしでの戦闘に限るけどね。

 まぁ、負けたといってもそ大抵僕のスタミナ切れで、そんな負けた僕に対して兄さんは誇ることはなかった。どうせ本番は何でもありだしね、とか言って」


 サクヤはそっと顔をうつ向かせる。両手を組み、ギュッと握る。


「皆、兄さんは弱いし足手まといってバカにするけど、本当は誰よりも才能に溢れた人だったんだ。

 村に来た旅人が褒めたのも職業に恵まれた僕達じゃなくて兄さんだったからね」


「そうだったんですか.......」


「その人が村から去る時言ってたんだ――『ユトゥスは職業さえ恵まれていれば希代の傑物になっていただろう』って。

 そのことを兄さんに言ってもまともに受け取ってもらえなかったけど。

 だから、僕は思うんだ。もし兄さんが少しでも冒険者業に向く職業だったら兄さんはどこまで高みを上っていたのかって」

読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)


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