第45話 騎士団の襲撃#5
フィラミアに吹き飛ばされた騎士二人は尻もちをつきながら、痛みが走る上体を起こしぼやく。
「痛ったぁ~。くっ、俺達が3人がかりで挑んで負けるとかどういうことだよ。
おまけに一人やられるしよ。これ、ちょっとまずいんじゃないの?」
「あぁ、不味い。不味いが......やっぱりそうだ」
「何が?」
「あの子だよ。ほら、目の前にいる今や魔族の姿をしてる女の子。
前に森の中で魔族の羽のようなものを生やした獣人の女の子がいたって話が合っただろ?」
「あー、お前や後もう二人ぐらいが見たって言ってた話か」
「あぁ、それだ。その時に見たのがあの子だ。
姿が若干違うが、あんな目立つ容姿を間違えるはずがない。
見た目に関しては、恐らく種族的能力で変化させてるだけだろう」
二人の騎士は立ち上がり、騎士Bが騎士Cに顎をクイッと動かし指示を出す。
すると、騎士Cは腰ポーチから小さな球体を取り出し、それに魔力を通して上空に投げる。
その球体は上空で眩く発光し、その場で留まり続けた。
その球体を見てフィラミアは耳をピクッと動かす。
遠くでだべっていただけの4人の騎士に反応があったからだ。
周囲を警戒していると、騎士Bから話しかけられた。
「お前は何者だ? その姿はなんだ?」
「私は獣人族と淫魔族の血を半分続く受け継ぐ存在です。
これは私が主様より力を授かった、私だけができる戦闘形態です」
その言葉に騎士Cは興奮したように騎士Bに話しかける。
「聞いたか? 淫魔族だってよ。サキュバスだぞ、サキュバス!
お前も聞いたことがあるだろ? あのどちゃシコエロい存在!」
「馬鹿か、お前。それ以前に魔族という存在の方がよっぽど不味いことに気付け」
「え、何が不味いの?」
「獣人族やその他の種族は場合によっては奴隷として扱える。しかし、魔族だけは明確に敵だ。
存在が教会に知られれば、俺達は英雄の国から一転して裏切りの国だ。
そうなれば、教会は帝国を味方につけて攻め込んでくるぞ」
「ちょー不味いじゃん、それ! ってことは、あの子を殺さないといけないのか? あんな可愛いのに」
「可愛いのはわかるが、この存在は見過ごせない。
理由はそれだけじゃない。これまで獣人族と魔族は敵対関係だったはずだ。
にもかかわらず、目の前にはハーフがいる。
それは獣人族と魔族が繋がっているという何よりの証だ」
「ってことは、下手したら戦争になるってことか!?」
「これまで獣人族を亜人と称して排他してきたのは魔族との繋がりが無かったからだ。
だが、もしその2国が繋がっているのなら、この行為は明確な宣戦布告。
いつから繋がってるのかわからない以上、情報を持ち帰ることが最優先。
戦争が起こればお前の日課の可愛い子探しも出来なくなるぞ」
「それはダメだ。絶対にダメだ。俺は安全圏からぬるま湯に浸かりたいんだ。戦争なんてクソくらえだ」
「なら、やるぞ。増援も来たようだしな」
騎士二人の話をあえて割り込まずに聞いていたフィラミア。
この情報からわかったことは、“自分の存在が剣王国にとって獣人族に手を出しづらくさせた”ということ。
たまたまな結果ではあるが、獣人族に攻めづらい理由を与えたのは嬉しかった。
なぜなら、自分と同じ理不尽な刃を振るわれることを防いだから。
例えその国から嫌われる存在であろうとも、やはり人が殺されるのは見過ごせない。
そして、自分の存在が未来で殺される可能性があった多くの人達を救ったと考えると、自分の存在に意義が見いだせるような気がしたのだ。
しかし、これも全てはこうして自分が戦えているからで。
その戦える術を与えてくれたのは主様だ。
そう考えると、出会ったあの時から自分の運命は動きだしたのかもしれない。
「この結果も主様のおかげですね。主様は『貴様の努力の結果だ』なんて言いそうですけど」
ふと笑みが零れる。それが力に変わる。
主様は今もこの村の人達を救うために行動している。
なら、自分も主様に恥じない行動を続けよう。
背後から二人の騎士が現れた。残りの二人の姿はない。
どこからか奇襲するために潜伏しているのか、あるいは――
「そこの君、君は強いがこれ以上はさすがに厳しいだろう。
大人しく投降すれば傷つけるようなことはしない」
「むしろ、傷ついてるのは俺達だけどな」
「いいえ、投降はしません。そんなことをすれば捕らえた女性や子供はどうなるのですか?
私の存在が獣人族と魔族で繋がりがある疑いを示し、それを否定する材料が無い以上、火種になりそうなその人達は殺すんじゃないんですか?」
「......わかった。ならば、生死は問わない。君は君自身が貴重な証拠だしな」
「ハァ~、やるしかないか。可愛い子なんだけどな~」
目の前の騎士二人が戦闘形態に入る。
すると、後方の騎士Dと騎士Eがその二人に声をかけた。
「おい、これはどういう状況だ!?」
「一人やられてるんだけど?」
「その子がやった。手練れだ。三人がかりでこのざまだ。手を貸してくれ。
それにこの子は獣人と魔族で繋がりがある貴重な存在だ。
出来れば捕まえたいが、それでこちらがやられるようなら生死は問わない」
騎士Dと騎士Eは騎士Bの話を聞いてすぐさま武器を構えた。
相手は4人。残りの2人の動向が気になるが、今はこっちに集中だ。
今の状況は前と後ろに2人ずついて挟み撃ちされている。
同じ方向から来るならまだしも、この状況は良くない。
「まずはこの位置から脱出するのが優先ですね」
であれば、狙い目は目の前にいる騎士二人。
あの二人はダメージを負っていて先程のような機敏な動きは出来ない。
長居するだけ不利になる。短時間で終わらせる。
「この戦いを終わらせます!」
フィラミアは目の前の騎士二人に向かって走り出す。
すると、鋭敏な聴覚は空気中を高速で飛来する物を捉えた。
ヒュンという音は何度も聞いたことがある。
これは矢が放たれた音だ。
その場を軽く跳躍する。地面に矢が刺さった。
角度的に足を射抜くつもりだったのだろう。
チラッと音の下方向を見れば、屋根の上から騎士の一人が弓を構えていた。
なるほど、残りの二人は視覚外からの狙撃のようだ。
なら、何も問題ない。それよりもキツいやつを経験済みだから。
「来るぞ――くっ!」
先程よりも高速で近づき騎士Bに攻撃を仕掛ける。
受け止められてしまったが、速度に対応できてないのは理解できた。
左手の短剣で受ける騎士の剣を弾き、右手の短剣を振るう。
騎士Bはその攻撃を体をそらして避ける。
大丈夫、これは牽制。本命はこっち。
「兜割り!」
騎士Cが頭上で構えた剣を勢いよく振り下ろしてくる。
その攻撃に合わせ、騎士Bを最初に攻撃した際に出した右足を軸にして回転。
後ろ回し蹴りで騎士Cの剣を横から弾き飛ばした。
「なっ!?」
「雷弾」
騎士Bは体をのけぞらせ一歩遅れ。
騎士Cは剣を横に弾かれ、体勢崩れ。
ともに次の行動は自分より遅い。
フィラミアは両手の指鉄砲を騎士二人に向ける。
人差し指の先端から雷の球体を放ち、二人を吹き飛ばす。
「貫通突き!」
後ろから来る騎士が想定よりも速い。
作戦変更。距離を取らずこのまま迎撃に移る。
刹那、ヒュンと音が聞こえてきた。
混戦した中で矢を放ったようだ。
近くに仲間がいる中で放つということは相当腕に自信があるのだろう。
しかし、その腕はたぶん主様には負ける。
フィラミアは瞬時にモードチェンジ。
後ろ足を軸にくるりと回転しながら、騎士Gの放った矢と騎士Dの槍の突き同時に躱す。
そして、その回転のまま騎士Dの顔面を裏拳で殴り飛ばし、遅れてくる騎士Eの剣を両手の短剣で受け止めた。
「せいっ!」
剣を弾き飛ばし、隙だらけの胴体に回し蹴りを入れて吹き飛ばす。
「「うおおおおぉぉぉぉ!」」
騎士Bと騎士Cが突っ込んできた。
それに対処していると起き上がった騎士Dと騎士Eが続く。
4人の騎士の動きに慣れ、余裕で裁くフィラミア。
時折、屋根にいる騎士から矢を放たれるが、なんなく躱す。
結果、フィラミアは衣服が汚れただけの無傷であり、騎士4人はボロボロであった。
「まだ続けますか?」
「くっ.......」
「何事だ!?」
その時、一つの声量のある声が聞こえた。
その声に振り向くと、馬に乗った一人異様に存在感の放つ騎士がいた。
恐らくあの騎士がこの部隊の隊長だろう。
「誰だ貴様は?」
「あなた達を村から追い出す者です」
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