第39話 獣人族の村#3
「着いたぞ。ここが俺の住んでる村アズガールだ。今から皆に話してくるからそこで待ってろよ」
ソルガに案内してもらいたどり着いた村。
全体的に木造の家々が見え、チラホラと牧場が見える。
ユトゥスが暮らしていた村よりは少し質素だが、それでものどかな雰囲気を放っていた。
「過ごしやすそうな村ですね」
フィラミアもユトゥスと同じような感想を抱いているようだ。
ということは、この村は彼女にとって過ごしやすい村ということらしい。
ずっと森の中で暮らしてた彼女にとって人と交流できる場所は大切だ。
ソルガを待っていると、村の入り口の前で待っている村人達が遠巻きに見てくる。
少年と同じ獣人族だ。
ただし、種族はバラバラで猫やうさぎ、たぬきなどの特徴を持った獣人が目立つ。
「「「「「ほぅ......」」」」」
村の(特に若い)男達が何やら惚けた表情でこちらを見ている。
顔を赤らめ、羨望にも近いまなざしを送っている。
俗にいう鼻の下を伸ばしている状態だ。
そんな視線を集める方向へ同じように目線を動かす。
「ふふん♪」
フィラミアがドヤ顔していた。
まるで「見たか、どうだ」と言わんばかりに。
そこまでの自信満々の顔はかえって誇らしく思える。
「貴様は男に対して嫌悪感を抱いているばかりだと思っていたが、その反応を見る限り違うようだな」
「確かに、男の人に対してはあまり良い印象は持っていません。
ですが、主様のような人もいるってわかって考え方を改めています。
それはそれとして、やはり女であるならば異性からも同性からも『美しく可愛く見られるべき』とも思うので、そういう視線がわかりやすい男性の方の視線は自信がつくんです」
「まぁ、周囲を魅了するというのは淫魔族の特徴だからな。
それで自信が湧くというのなら、立派な淫魔族の血を引いてるってことだな」
「お母さんの娘である証拠ですね!」
「見るな、見るな。ドヤ顔してこっち見るな」
フィラミアからの若干ウザいドヤ顔の視線を感じながら待つこと数分。
ソルガが村長らしき杖のついた老人をつれてきた。
その人物の周囲には屈強な男達の姿もある。
そんな男達の視線はすぐさまフィラミアの容姿へと吸われていった。
「ふむ、そなた達がソルガを助けてくれた者達か」
「ハッ!? なぜここに人族がいる!? ここは我らが獣人族の領域だぞ!」
村長の周りの男達が一斉に槍を向ける。
どうやら今ユトゥスの存在に気付いたらしい。
自分の影が薄いのか、はたまたフィラミアの容姿が優れているのか。
「フィラミア、フェロモンは出してないよな?」
「あれは周囲を強制的に魅了するものですから早々使いません。
それにお母さん曰く、それを使ってしか魅了できないのであればそれは負けらしいので。
ですので、私はまだ主様に負けていると認めたわけじゃありません!」
「一体何を張り合ってるのか知らんが、こっちを凄んで見るな」
フィラミアは顔をズズッと近づけ、言外からユトゥスに圧を放つ。
どうやらなぜか魅了されない自分に対して、彼女の淫魔としてのプライドが傷ついているらしい。
......いや、これっぽっちも自分が悪いとは思えないな、うん。知ったこっちゃないわ。
「俺はユトゥス。こっちは下僕のフィラミア」
「フィラミアです。下僕という身ですが、誇りを持ってますので気にしないでください」
「フィラミアさん、あんた騙されてるよ。人族が善良なわけがない!
というか、下僕という身分に誇りを持っちゃダメだ!
都合のいいように搾取されるだけだぞ!」
初対面の相手に随分と好き勝手なことを言う。
いや、その発言をするに至るほどの恨みつらみがあると考えるべきか。
というか、フィラミアは下僕の立場に誇りを持ってるのか......どこら辺に?
「安心してください。搾取するのは私の仕事です」
「フィラミア、少し静かにしてろ。いいか、俺が良しというまで黙っていろ。
で、そっちの老木、貴様の名は? 礼儀はわきまえてるはずだよな」
「......そうじゃな。ワシはアズバルというものじゃ。
見た目通り、この村の村長をしている。
話の方はソルガから伺っている。
立ち話もなんじゃ、我が家に招こう」
村長アズバルにつれられて村長宅へお邪魔することになったユトゥス達。
その際、周囲の村人達の視線は恐怖2割、怒り3割、嫉妬5割という感じだ。
恐怖と怒りは人族という種族に対してのもの。嫉妬は言わずもがな。
どうやらこの見た目関係なく人族は歓迎されていないらしい。
村長に案内され、リビングにある椅子に座る。
隣にはフィラミアが座り、正面には村長と若い熊の獣人の男。
「こちらはワシの孫のアズール。次期村長の身であるため、よその者との交流には立ち会ってもらっている。ただの勉強じゃ。気にすることはない」
「そうか。で、家に招いたということは長話になるから呼んだんだろ?」
ユトゥスがそう聞くとアズバルは最初に頭を下げた。
「まずはソルガを助けてくださり感謝する。
ただでさえこの村では子供が少ない。子供は村の宝。
その宝を守ってくれたそなた達には感謝しかない」
「なら、当然それに対する見返りがあるはずだが、それはこちらが望むものでいいんだよな?」
「我々でできることなら。ただ、その見返りはすでにソルガから受け取ったはず。
であれば、それとは別に我々の願いを叶えてくれるというのなら、その見返りとしてそなたの望むものを与えよう」
「......どうやらただの耄碌ジジイじゃないらしいな。いいだろう、話を聞こう」
それからアズバルから話を聞いたのはこの村の現状だった。
概ねソルガから聞いた話と同じで、村長の願いとしては、この村の脅威となる魔物を排除して欲しいとのことらしい。
しかし、先ほどユトゥスが見た屈強な男達のレベルは総じてレベル50前後。
それが人数的に十人より少ない程度の数はいるようなので、Aランク魔物でもなければ、大抵の魔物は排除できる実力を持っている。
「先程の男達の実力を見る限りこの村の安全はもうすでにある程度確保できてるみたいだが?」
「確かに、大抵の魔物なら我々でも対処できる。
しかし、どうにもその魔物の出現量があまりにも多くてな。
さすがにここまで数がいれば、いくら排除できる実力を持っていても傷つき倒れる者も出てくる」
「つまり、貴様はよそ者である俺にその原因を調査して来て欲しいということか。
そうだな、俺は人族でこの村でもあまり歓迎されていない。
死んだところで村の守り手を失うよりかは、全くこれっぽっちも痛手にはならないだろうしな」
随分嫌味ったらしくこの口は言った。
だが、言っている筋は通っていると思う。
先程の獣人達の反応は明らかに人族を敵視しているようだった。
それから考えられることは、この村の人達は人族に迫害を受けたのだろう。
だから、人族である自分が現れたタイミングで取引代わりに調査依頼を出した。
「......ならば、この取引をやめるか?」
嫌らしいじいさんだ。こっちが断らないことをわかってやがる。
ま、それもお互い様だ。それに恩を売るのは悪いことではない。
「食えないジジイだ。いいだろう、その依頼を引き受けてやる。
ただし、こちらの要望をかなえてもらうのが先だ」
「わかった。して、そなたが望むものとは?」
「決まっている。この下僕の衣服を一式揃えてもらう。
短剣二本での近接戦闘ができるように軽装を重視。
加えて、衣服が多少伸び縮みする方がいい。
さらにフィラミアは年頃の娘だ。
機能性だけではなく、見た目にも本人の意思に合わせてこだわるように。いいな?」
そんな要望を出した瞬間、アズバルににっこりと笑われた。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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