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姉妹差別をされたから家を無くしてみた〜お姉ちゃんは妹のために我慢しなさいと言われてキレる。我慢強くなんてないですが?〜

作者: リーシャ
掲載日:2026/02/11

 生温い風が頬を撫でる。見慣れたはずの夕焼けが、今日はやけに赤く目に染みた。あかねは深いため息を吐く。この小さな村で、ごく普通の農家の娘として十八年を生きてきた……少なくとも、表向きは。


 双子の妹、花華はな。茜とは正反対に明るく、誰からも愛される存在。生まれた時からそうだ、両親の目はいつも花華ばかりを追いかけ。


「お姉ちゃんは妹のために我慢しなさい」


 優しい言葉も、新しい着物も、美味しいお菓子も、全て花華の元へ届けられた、茜はいつもそのおこぼれをもらうか、あるいは最初から存在しないものとして扱われる。異常であった。


「茜は我慢強い子だから」


「お姉ちゃんなんだから」


 またか、と。両親の常套句は、心を冷たく蝕んだ。別に我慢強いわけじゃない、ただ、他に術がなかっただけだ。


 嫌と言っても聞き入れてくれないのに?姉だからって、妹より劣って扱われる理由がどこにある?


 幼いながらに募る不満は、いつしか諦念へと変わっていき憎悪が溜まっていく。長い間、虐げられる中で、自身も自分の価値を見出せなくなってしまう。


「どうせ私なんて」


「生きていても仕方ない」


 自己否定の言葉が、心の中で何度も繰り返され、起き上がれない程、この身が沈む。そんな日常が、ある日突然終わりを告げた。畑仕事の帰り道、転んだ拍子に頭を強く打ったのだ。


 意識が遠のく中、脳裏に早送りのように流れ込んできたのは、全く知らないはずの風景と記憶、華やかな宮廷、複雑な人間関係、陰謀渦巻く権力闘争。前世で、とある国の王女だったのだ。


 いらない。家族なんて必要ない。


 前世の記憶が蘇った瞬間、中で何かが音を立てて崩れ落ちた長年押し込めてきた両親への不満、妹への複雑な感情、理不尽な境遇への怒りが、堰を切ったように溢れ出した。よみがえってよかったと、笑みを浮かべる。


(そうだ。私はこんな扱いを受ける人間じゃない。あの両親も、いつも私を見下す花華も、まとめて……)


 計画は直ぐに打ち立てられる。前世の記憶は、冷酷なまでの決断力と、目的のためには手段を選ばない狡猾さを思い出させた。王女として生きた日々は、甘いだけの夢ではない。なんせ、頂点、裏切りと、策略の中で生き抜くための知恵と胆力が、奥底に眠っていたのだ。


 くすくす。笑ってしまう。

 その日から、密かに計画を練り始めた。両親と妹に気づかれることなく確実に、徹底的に彼らの生活を破壊するために。入念にやはねばとまず手をつけたのは、家の財産。


 両親は花華にばかりお金を使い、私にはほとんど何も与えなかったがそれでも僅かながら貯えはあるはずだと夜な夜な、両親が寝静まった頃合いを見計らって家の中を探り。

 隠されたお金や、価値のあるものを少しずつ、気づかれないように持ち出し、前世の知識を活かせば、換金できるものはいくらでもある。

 思った通り、蓄えてたな。


 次に、家の生計を支える畑。両親はあの小さな土地を、自分たちのものだと疑いもしないだろう。前世の記憶の中にあった、土地に関する古い判決書の存在を思い出していたそれは、この土地が元々は先祖のものだったという証拠。


 時間をかけて役場に通い、古文書を調べ、わずかな手がかりを元に、その判決書を探し出すと最も重要な計画の実行の日が来た。満月の夜、私は静かに家を出る手には、隠し持ってきた油と火打ち石、畑には事前に集めておいた枯れ草を高く積み上げてある。


 躊躇はなかった。あの両親の顔、花華の得意げな笑顔を思い出すだけで、心は冷たい炎に焼かれるようだった。枯れ草に火を放つと瞬く間に炎は燃え広がり、夜空を赤く染め上げた。


「ふん!」


 下手に名乗られても、食い破られるだけの身内など邪魔なだけ。そこら辺はシビアになる。風に乗って、火の手は隣接する畑へと燃え移っていくと家からも煙が上がり始めた。汚い情景だと光景を、遠くから虚無な瞳で見つめていた。


 両親の悲鳴や、花華の泣き叫ぶ声が聞こえてくるような気がしたが、それはきっと想像だろう。ただの想いの残像、全てが燃え尽きるのを見届けるつもりはなかった。目的は達成されたのだからと夜の闇に紛れ、村を後にした。


 数時間後の道中、偶然行き倒れていた旅の商人を見つけ、怪我の手当てをし、わずかな食料と水を分け与えると、商人は涙を流して感謝してくる。別に気にしなくていい。


「あなたは鬼のような顔をしているが、優しい心の持ち主ですね」


 言葉を聞いてくれない。


(はぁ?)


 意味がわからない。商人の言葉に、私は何も答えなかった。彼には、内面の複雑さは理解できないだろう。両親や妹には冷酷な仕打ちをしたけれど、それは必要な報復だった。他人には、できる限りの優しさを与えたい。


 前世で多くの人々を救済した王女としての、かすかな矜持なのかもしれない。

 やれやれ。

 村を離れて数日後、別の街に辿り着いたら寝床を探す。そこで、宿屋の女将が困っているのを見かけたら、病気の息子を抱え、途方に暮れているという。


 持ち前の知識を活かし、薬草を調合して与え、こういうものは、覚えておいてよいこと。数日後、息子の容態は劇的に回復し、女将は何度も頭を下げて感謝してくれた。そこまでしなくていい。


「あなたは、本当に不思議な方ですね。まるで、天から遣わされたお方のようです」


 高貴な存在ではないと女将の言葉に、自嘲気味に笑った。天から遣わされたわけではない、ただ、前世の記憶を持っているだけの、少しばかり合理的な人間。なんでもしてきたし、両親の生活基盤を破壊した。


 決して褒められることではないだろうから、性格は歪んでいるのかもしれない。それでも、自分の過去と決別し、新しい人生を歩み始めたのだ。他人への優しさを忘れずに生きていきたい。罪悪感がないわけではない。


 時折、燃え盛る炎と、両親や妹の悲鳴が夢に出てくることもある。立ち止まるわけにはいかない。

 安らぎ?

 前世の記憶が私に与えたのは、憎しみだけではない。生き抜くための知恵と、他人を助けることの喜びも教えてくれた。


「美味しいパン持ってきたよ、お姉ちゃん」


「ありがとう」


 この複雑な感情を抱えながら、自分の信じる道を歩んでいく。


「あなたが妹だったらよかったのに」


 いつか、過去の清算ができる日が来るのだろうか。それは、まだ分からない、ただ、今の私には、遠い故郷を振り返る暇はない。


「ほんと!?なる!」


 新しい土地で、新しい出会いを求め、旅を続ける。


「ふふ、それは嬉しいわ?」


 瞳の奥に、微かな希望を灯しながら。

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