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信孝なんかに『本能寺の変』のとばっちりで殺されていられません~信澄公転生記~   作者: 柳庵


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453話 バテレンが来た! 什伍話

ども、坊丸です。

茶筅丸様に抹茶を持ってこさせるという信長伯父さんの突然のご下命(オーダー)をこなすために頑張った坊丸です。

よしよし、自分、頑張った。いい仕事したと思います。

待っている間に茶筅丸様に茶を準備させるなんて、信長伯父さん独自の茶目っ気とか、ギャグみたいなものなのかなぁ、とか思ったり。


茶筅丸様から受け取った塗盆を小姓衆の控えの間に持って戻ると、蒲生忠三郎くん達が手早く茶碗を片付けてくれました。ありがたいことです。


また、信長伯父さんとルイス・フロイスさんたちがしばし懇談しているご様子。茶の饗応前から込みで一刻以上は話し込んでますよ。どうやら天文学からインドやヨーロッパの気候風俗まで話が及んでいる様子。ほんと、信長伯父さんて好奇心の塊みたいな所あるよね。

と、話が一段落したら、またまたフルスイングな感じの無茶振りが聞こえましたよ。


「茶筅!お二人を軽食にて饗す。準備いたせ!」


「はっ、はい。承りました」


はい、無茶振り第二弾、参りましたぁ。今度は軽食ですね。井上さんたち包丁方の面々が長櫃で料理運び入れてたから、いつかはそれを使った饗応膳があるだろうな、とは予想しておりましたが。

まさかの自分の息子に準備しろというお達し。いやはやビックリです。


「佐脇殿。今度は軽食を饗応すると信長様が申しております。茶筅丸様に支度するよう命が下りました」


信長伯父さん付きの古参の小姓衆のところに急いで行って相談ですよ。一人じゃ手配できないもん。


「安心せい、坊丸。殿より簡単な饗応膳を行うことは聞き及んでおる。まぁ、茶筅丸様にその様なご下命あるとは聞いていなかったが、な。うむ。これも想定の範囲内。そう、想定の範囲内じゃ」


いやいやいや、今、絶対自分に言い聞かせてますよね、佐脇さん?

その反応、本来は小姓衆数名で仕出しする予定でしたよね、きっと。


「とりあえず、また、茶筅丸様のもとに向かいまする。先程と同様に茶筅丸様には殿主饗応の間の近くに控えていただき、その近くまで自分が饗応膳を運ぼうかと」


「うむ。坊丸一人では時間がかかる。殿のご気性を考えれば、早ければ早いほど良い。膳の準備が出来次第、手分けしてそこまで運ぶ。それでよいな、坊丸」


「はっ。佐脇殿の差配に従いまする。よしなにお願い致しまする」


そして、裾を持ち上げてぎり音が出ない速度でダッシュですよ。よし、ちょうど茶筅丸様が部屋から出てくるところだ。ああ、また、テンパっておられるご様子。手と足が同じ側を動かしてますもの。あ、この時代、ナンバ歩きもするからテンパってるわけではないのかも?


「茶筅丸様。こちらへ」


「ぼ、坊兄ぃ」


あ、声がかなりか細い。やっぱりどうして良いのか分からんやつですね、これは。


「ご安心下さい。お父上の小姓衆と包丁方の面々が既に膳を準備しておりまする。今しばらくお待ちいただければ、こちらに膳ご運ばれてくるかと。茶筅丸様は、膳をお持ちになって、部屋に運び込むだけで宜しゅうございます」


「そ、そうであるか。なら、安心であるな」


安心したと言ってる割にまだ声が裏返ってますけどね、茶筅丸様。


「しばし、こちらで座ってお待ちを。佐脇殿達と膳を運んでまいりますれば」


「う、うむ。ここで待つといたそう」


そう言って茶筅丸様を安心させたあと、小姓衆控えの間に戻りかけると、既に佐脇さんと膳を持った堀久太郎くんと蒲生忠三郎くんがこちらに向かってきておりました。


「おう、坊丸。どうした。もう、膳の準備はできておるぞ」


手配が済んだせいでしょうか、先ほどよりもだいぶ落ち着いた感じですね、佐脇さんは。


「お早いご準備、痛み入りまする。茶筅丸様はあちらに」


そう言って、三名を茶筅丸様のもとにご案内。


「茶筅丸様。佐脇殿達が膳を運んでくだされました。後は、茶筅丸様が一膳づつ中に運んでいただければ宜しいかと」


「佐脇にございまする。久太郎、忠三郎、膳をそこに。一応、簡単に膳の説明をば。主菜は鮎の塩焼きに蓼酢を小皿に添えております。副菜の壱は焼き茄子。弐は芋茎と厚揚げの煮物にございまする」


「鮎の塩焼き、焼き茄子、芋茎の煮物であるな。父上に聞かれたら、そう答えるのだな。佐脇」


「おっしゃる通りにございまする。一膳目を運び終わりましたら、襖の影にてすぐ次をお渡し致しますれば、宜しくお願い致しまする」


佐脇さんが茶筅丸様に頭を下げたので、とりあえず、合わせておきます。坊丸くんも。


そんな感じで二つの膳を茶筅丸様が何事もなく部屋に搬入。いやいや、無茶振り第二弾もどうにかこなせました。


我々四人もそっと襖から離れようとした時の事でございました。いつものわざと足音を立てる歩き方で信長伯父さんがこちらに歩いてくるのが、足音でわかります。


四人して目を合わせるとすぐに着座して襖があいたらすぐに平伏できるようスタンバイ。

なんでこっちに来るんでしょうか、信長伯父さんは?

何も問題ないよね、そうだよね、佐脇さん?

そう問いたい気持ちをぐっと抑えて佐脇さんの顔の方をチラ見します。

って、そこで目をそらさないでよ、佐脇さん!

季節が同じなので、柴田家の饗応で出てきたものと素材はだいたい同じ。純和風にしたのと、長櫃の中や重箱に入れて運ぶ料理をイメージしてチョイスしました。

鮎の塩焼きに添える「蓼酢」は伝統的な調味料。独特の辛味とほのかな苦味、それと酢の風味が鮎の塩焼きを引き立てる逸品です。ちなみに蓼食う虫も好き好きの蓼も同じ種類の植物。


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