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信孝なんかに『本能寺の変』のとばっちりで殺されていられません~信澄公転生記~   作者: 柳庵


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446話 バテレンが来た! 八の段 

その日、岐阜城下の柴田勝家の屋敷にルイス・フロイスらがやって来た。


「失礼致します。ルイス・フロイス司祭様以下二名、柴田勝家様からのお招きにより参りました」


先日、柴田家を訪問したことがあるロレンソ了斎が柴田家の門番に伝える。


ロレンソ了斎ともう一人、同じ修道士服の日の本人に挟まれる様に二人よりも背の高い紅毛碧眼の南蛮人が歩いてくる。ルイス・フロイスの司祭服は二人の日本人修道士と同じデザインではあるが、金糸でパイピングが施されて、腰周りには太めの紐を巻いている。そして、首周りの襞襟。それと首元にやや大振りのロザリオが特に目を引く。


三名は柴田家若衆に導かれて大広間に案内された。

三名が大広間に入った時、既に柴田勝家、勝定、文荷斎が着座している有様であった。


「柴田様、本日はお招きいただきありがとうございます。勝定様、先日はお目通りの許しをいただきありがとうございました。勝定様にはご挨拶申し上げましたが、それがし、洗礼名をロレンソ、本名を了斎と申します。隣におられるのは、ルイス・フロイス司祭、京や堺の布教責任者を務めておられます。その向こうは、ルイス・ナカイ。今回の伝える通事を務める者でございます」


その後、ロレンソ了斎の手振りを見て紹介が、終わったのを理解したルイス・フロイスが片言の日本語で挨拶する。


「ルイス・フロイス、デス。ヨロシクオネゴイシマース。アトはルイス・ナカイがツウジをシマース」


「ルイス・ナカイでございまする」


ルイス・ナカイの自己紹介が済んだのを見て、ルイス・フロイスがポルトガル語で話を始める。


「『先日、京の都にて信長様に紹介いただいた時、柴田様も同席されていたと思います。本日は再びお会い出来て光栄である』と我が師父は申しております」


「柴田修理亮勝家である。和田殿と一緒に来られていたバテレンがルイス・フロイス殿であったか。和田殿からの書状は読ませてもらった。殿に京での布教の許可をもらいたいとのことで、わざわざ岐阜まで参られてとのこと。ご苦労なことである。許可を出すのは殿のお考え次第ではあるが、まずは面会の許しを取らねばならん。儂に助力できるのは、面会の許しを願うことまで。それより先はルイス・フロイス殿の力量、話ぶりになろう」


「『信長様への面会の取り次ぎをしていただくだけでも大変ありがたい』と師は申しております。

『大津殿、佐久間殿へ取り次ぎの依頼をする予定だったが、お二方とも不在で困っていた』との事でございます」


「佐久間信盛殿、大津長昌が不在なこと、聞き及んでおる。和田殿からせっかくの取り次ぎ依頼をいただいたのに、まさか、二人とも不在とはついていないことよ」


「『まさか、和田様の取り次ぎの方々が不在とは思っていなかった。柴田様のご厚意、ご尽力に深い感謝を。そして、柴田様に神のご加護があるんことを』と師は申しております」


「和田殿は、我が朋友。公方様と信長と仰ぐ主君は違えど、武を以て仕える和田殿とは、三好討伐戦で轡を並べて以来、あい語らい、肝胆相照らす仲であるからの。和田殿の頼みとあらば、この柴田勝家、全力で応えるつもりである」


「『柴田様と和田様の友情、親愛の心、我らの信仰心に負けず劣らず尊いもので、素晴らしいことです』と師は申しております」


「おお、その言やよし。最近の和田殿の様子、京の様子などを教えていただけるか」


「『和田様は摂津守護として精力的に政務をこなされ、また、高槻では我らバテレンを保護していただき、キリスト教の布教にも協力していただいております。和田配下にはキリスト教に入信した武士もおります』と師は申しております」


ルイス・ナカイがルイス・フロイスの言葉を訳し終わったあとを引き取ってロレンソ了斎が話し始めた。


「京の様子については、それがしから。京の都では、日乗という坊主がしきりに公方様、公家の衆に働きかけ、ついにはキリスト教の布教禁止令、バテレン追放令がでております。

我が師父が岐阜に参られたのは、このキリスト教布教禁止令、バテレン追放令を信長様に撤回していただきたく、お願いに参りました。

このため、我らは活動の幅を狭められておりまする。また、それを伝え聞いたのか、和田様の岐阜屋敷の者たちも和田様の意向を無視して、我らを客分として扱わない有様でございまする」


「な!日乗がなんぞ動いておるのは知っておったが、殿が岐阜にお戻りになられたとたん、それか」


そう言うと、ルイス・フロイスらの現状を知り深く嘆息する勝家。


「『日乗の悪行を止めるため、一日も早く信長様から布教許可をいただきたいのです。宜しくお願いします』と師は申しております」

そう通訳しルイス・ナカイ、ロレンソ了斎が頭をさげたのを見て、ルイス・フロイスも頭を下げ、片言の日本語で「オネガイシマース」と付け加える。


「そうでござったか。大船に乗ったつもりで、とは申すわけにはいかないが、八方手を尽くして殿に取り次ぎいたす。そして、そうか。和田殿の岐阜屋敷の衆もバテレン殿達を無碍にしておるのか。よし、やはり、ここは一席、もてなせねばなるまいよ!ルイス・フロイス殿、ロレンソ殿、ナカイ殿、本日は当家にてゆるりとしていくが良い。

文荷斎。明日、登城する旨の書状を一筆頼む。書き上げたら、勝定、誰ぞ選んで城に届けてくれ」


「おお、柴田様!手早い書状の手配、取り次ぎのみならず、饗応までしたいただけるとは!」


「オブリガード!」

さすがに「アテプレーベ」の方はねじ込めなかったです。

「アテプレーベ、オブリガード」は1992年の大河でのルイス・フロイスの決め台詞。


良く南蛮人を描くと首元にひらひらしたのをつけてますが、この時代のファッションで襞襟と言います。着脱可能で、ヒゲや首周りが当たって汚れるのに対応した機能と美しさを兼ね備えたもの、らしいです。


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