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信孝なんかに『本能寺の変』のとばっちりで殺されていられません~信澄公転生記~   作者: 柳庵


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443話 バテレンが来た! 伍の段

ども、坊丸です。


文荷斎さんがバテレンとの面会に遅れてきたわけです。ちょっと現状の共有で終わりになるかなぁ、と思っておったわけですが、婆上様、勝定さんと一緒に四者会談に。

文荷斎さん、知ってます?自分は柴田家預かりであって、柴田家家臣でも柴田家寄騎でももないんすよ?

どっちかって言うと、織田家直臣で奇妙丸様小姓衆としての活動のほうが最近多い立場の人なんすよ?


それはそうと、預かり親の家にて問題発生中なんだから手伝うのが筋、と。はいはい、そうですね。理解しました。お手伝いします。


で、可哀想なことに一度、自宅に帰った柴田勝定さんが呼び戻されることに。南無〜。

そして、自分より不憫な目にあう人が近くにいると何故かしら自分に降りかかった厄介事や不幸の度合いが減った気がするという人間の心。


心なんて相対的なものなんだなぁ。ぼ〜まる。あいだがみっつのO(オー)な名前の有名書道家風にいってみた。もちろん、心のなかで、ね。


そんなわけで、勝定さん到着まで、婆上様と文荷斎さんと小広間にて待っているわけで。


「時に坊丸。南蛮人の日の本人の風体はどのようでした?」


あ、婆上様。そこ気になりました?交渉の内容は話したけど、どんな人物かは見てないですもんねぇ〜。


「はい。僧形の様に頭はツルリとしていて、顔には痘痕。両の(まなこ)が落ち窪んでおりました。服は黒い南蛮服。短い外套がついた黒服に黒の細袴、首元まできゅっと詰まった様な立襟でしたね。少し西の訛りがおりました。」


「なっ!痘痕で盲しいていると!痘瘡避け、疱瘡除けの赤絵や鍾馗様、赤兎、赤ミミズクを飾らねば!」


「お方様、そのものは、今、疱瘡にかかっているわけではありますまい。今、かかっておれば、高熱で京より岐阜まで歩いてくることなど叶いますまい。たぶん、以前に疱瘡にかかり、盲いたのかと。僧形ということは、琵琶法師でもしていたのではないでしょうか?」


「そ、そうでございますね。少し、取り乱しました。権六の妻が疱瘡で亡くなったものですから、つい、焦ってしまいました」


ええッと、疱瘡、痘瘡ってことは、あれですか。いわゆる一つの天然痘ってヤツ。

確か、伊達政宗がそれにかかって片方の目が失明して、その結果塞ぎこんで、一時跡目争いになりかけたって話の原因疾患。

そして、ジェンナーの種痘からの予防接種や免疫学の発展、さらにはワクチン製作の技術革新と周知徹底で人類史上初めて根絶させることができたとWHOが喧伝してるアレ。


確か天然痘って致死率20%以上のめちゃくちゃヤバい疾患でした。しかも、飛沫感染で感染力高めだったはず。

だから、根絶した現代でも、何処かのヤバい組織や国が生物兵器に転用する危険性のある幾つかの疾患の一つだったはずですな。

そして、天然痘を生物兵器にしようとすることをネタにした映画なんかもあった記憶が…。転生してしばらく経ってるからだんだんそういう記憶が薄れてきてうろ覚えですが。


そっかー、ロレンソさん、琵琶法師だったのかあ。だから、あんなに弁が立つわけだし、時々芝居がかった仕草をしたわけだ。理解理解。

そして、柴田の親父殿の奥様は天然痘で亡くなったと。仏間に入っていく親父殿の姿を時々見るけど、病で亡くなった奥さんのこと、未だに心に残っているんでしょうね。


そんなことを考えていると、婆上様から声がかかりました。


「坊丸。急に高い熱が出ないか、顔や口に赤いボツボツが出ていないか、自分とそなたの弟たちの様子を気にかけておくのですよ」


「はっ。承りました。その様な兆候が出たらすぐにお知らせ致しまする」


そんな話をしていると、屋敷に勝定さんが到着したようです。


「文荷斎殿、坊丸、遅くなった。お方様。お召しにより勝定、ただいま参りました」


着座すると婆上様の方に平伏しながら、そんな挨拶をする勝定さん。


「勝定。一度帰ったのに呼び戻してすみませぬ。文荷斎殿が参られたので、今後の話をいたしたいと呼びました」


そういうと、ゆったりと頭を下げる婆上様。


「そうでございましたか。また、なんぞ問題が起きたのかと焦りました。ハッハッハ。で、皆様。如何様にお考えで」


「私にはバテレンのことはよくわかりませぬ。先程の話では、和田殿の取次は佐久間殿、大津殿なのでございましょう。しかし、お二方が岐阜におられぬとなると、あの者たちはしばらく岐阜に滞在することになりましょう。早く用事を済ませて京に帰っていただくのも良いかと思いますが…。柴田家としてどうすべきか、権六や次兵衛に知らせるかの皆の存念、聞かせてたも」


一応、家長に準じるということで婆上様がこの場を仕切るんですね。坊丸、了解しました。


「では、それがしから。やはり取次を飛び越えるのはいかがなものかと。和田殿の取次が仕事をするのが筋。和田殿と柴田殿の友誼はあれど、やはりここは様子見で良いのでは?」


「まぁ、文荷斎殿のいうておることがもっともよな。柴田家としては、無理に動こんでも良いのでは無いでしょうか、お方様」


「坊丸。そなたは如何考える?」


「はっ。それがしは、バテレンの取次、しても良いのでは、と思いまする。

親父殿の京であったことの話を聞いた際、伯父上はバテレンのことをいたく気に入っていたご様子のお話でした。

取次の筋目を飛び越してでも、早く伯父上に会うよう取り計らうは、伯父上の覚えも良くなり、柴田の得になるかと。

それに和田殿の取次が佐久間殿、大津殿なだけであって、大名でも名のある寺社仏閣でもないバテレンに決まった取次などおりますまい。和田殿に宜しく頼まれたので取り次いだとしておけば、佐久間殿らに対しても角は立たぬかと」


「そうですか。殿の覚えが良くなるならば、権六に動いてももらうのも良いでしょう。取次の筋目のことも、屁理屈には聞こえますが、まぁ、間違ってはいない様子。では、権六に此度のことを報せ、岐阜に向かうよう使者を出しましょう。

文荷斎殿、権六への文を認めて下さいませ。勝定は使者となるものを決めて下さい。坊丸は…」


「承りました」「はっ」


「坊丸は、佐久間殿と大津殿の動きを探りたいと思いまする。明日、小姓仕事の合間に佐久間信盛殿ご子息や伯父上の小姓衆に探りを入れておきまする。親父殿が戻る前にお二方が岐阜に戻っては、親父殿にご足労いただいただけで益がないことになりまするので」


「確かに、そうですね。では、明日、坊丸が戻ってそれらを確認した後、早馬を出しましょう」


顎に手をあてて思案顔で頷く婆上様。

まぁ、牛助くんと小姓衆には確認するけど、実際は桃花さんからの情報になると思いますがね。


「では、各々、その様にお願い致します。よしなに」


「「「ハハッ」」」

もともと、ルイス・フロイスの岐阜訪問は軽く流すつもりだったのですが、ルイス・フロイスに同行したロレンソさんが修道士で元琵琶法師と知った時にこの回の話を書きたくなりました。

柴田の親父殿と奥さんの話はあまり書いてこなかったので…。

そして、種痘の元ウイルスは実は牛痘ではなくて、実は馬痘らしいとか。ワクチンの語源はラテン語の雌牛とか色々膨らませられるんですが、さすがに割愛。泣く泣く割愛。長くなりすぎるので。



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