434話 南近江、差配 壱ノ段
ども、坊丸です。
本日は、朝飯前の柴田家鍛錬の後、親父殿と一緒に岐阜城麓の表御殿に出仕です。
予想通り、竹丸は眠そうな目をしておりました。
竹丸が帰る前に確認したところ、奇妙丸様から金平糖二粒もらったことと、バテレンの話を長々聞かされて大変だったことがわかりました。
金平糖が二粒なのは、夜番で寝ずの番になるから自分が寝たあとにもう一粒食べるようにと言われたそうです。奇妙丸様の優しさ、なのでしょうかね。
あれ?そういえば牛助くんは金平糖の話しとらんかっけど、何粒もらったのだろうか?後で暇な時に確認しておこう。ウンウン。
さすがに二日続けて父上カッコいい&バテレン話は無かったので、ブームは一日で終息した模様。
信長伯父さんが岐阜に戻ったので、奇妙丸様の留守居役の任が解かれております。
留守居役の間、奇妙丸様は林秀貞殿や居残りの奉行衆、右筆衆に各種書類の役割や決裁について解説を受けていたわけです。
そして、奇妙丸様小姓衆はその補佐という名の書類運搬や墨摺りといった雑用を担当しておりましたから、その雑用から解放されて少し嬉しい。
最初の頃は文書、書状を盗み見て、現状、織田家はどんな感じか確認してましたが、後半はほとんど京都に送る銭と兵糧の手配ばかりでしたから途中から飽きたし。
そんなわけで、座学、弓や槍の教練、その後の奇妙丸様とゆったり過ごす時間の日常が愛おしいわけです。
で、本日の夜番の森虎丸くんを残して帰宅。
で、夕餉を柴田の親父殿、婆上様、弟二人と一緒にいただいて居るわけですが、親父殿が何やら上機嫌です。
「親父殿、機嫌が良いようですが、お城で何事かありましたか」
「おお、坊丸。そう見えるか。この後、母上にお伝えしようと思っていたが、ここで話すか。うむ。
実は、近江の蒲生郡を殿より任されたのだ。長光寺城城主と蒲生郡の一郡支配じゃぞ」
「それはそれは、おめでとうございます。親父殿のご活躍、伯父上もお認めに違いありませぬ」
「権六、良かったですね。して、その領地はいかが差配いたすのです?」
「いかが、と申しますと?」
親父殿、末森城と長光寺城、それに岐阜の三拠点生活になるから、誰が何処に詰めるのかってことだと思いますよ。
「そなたの身は一つしかありませぬ。どちらの城に詰めるのですか?そして、岐阜のこの屋敷はいかがするのです?」
「あ、そうでございますな。それは明日、次兵衛義兄ぃとよくよく相談せねばなりますまい」
「今、城を預かる器量のあるものは、そなたと次兵衛くらい。かといって岐阜で城とやりとりする人間も必要です。よく考えて差配せねば」
「はぁ。領地が増えるのも楽ではありませぬな」
仕方ない、少し知恵を出すか。
「近江は未だ六角が甲賀の山の中で反攻の機会を狙っているかと。ならば、近江には武で鳴る親父殿が詰めるしか無いのではないでしょうか?
逆に末森城とその近辺は尾張の中央から南東寄りです。佐久間信盛殿の鳴海城、佐治殿の大野城、水野様の刈谷城、その先は徳川様の領地。こちらは武はそれほど必要ありますまい」
「と、なると、近江には儂か次兵衛。あるいは一門の勝定や吉田玄久だな。末森は、一門の勝全か角内の爺、あるいは文荷斎に任せても良いか…」
「権六。次兵衛は柴田家の家宰にして要。権六が戦に出れば後で柴田家全体を差配し支え、権六が他のお勤めをしておれば、陣代として前に出てもらわねばなりません。二人とも近江に居ては殿から屋敷に下知が来た時差配するものがおりません。権六と次兵衛は近江に交代交代で詰めて欲しく、母は思いまする」
「む、母上の言うのは至極もっと。では、近江はさよう差配致します」
「親父殿、末森についても同様になさっては如何ですか?文荷斎殿と一門衆のどなたかで交代交代にして、それを末森衆か譜代の臣が支えるようにすればよいかと」
一応、柴田家のことだけど自分も考えてますよ!とアピールしてみた。ウンウン。こういうの大事だからね。
「ふむ、城代を固定せず、交代交代にするか…。確かに末森には目が届きづらくなるから、誰か一人に好き勝手されてはならんしな。よし、それも良さそうだ」
「はい、岐阜に詰める時期を次兵衛殿と文荷斎殿をずらせば、親父殿が岐阜に詰める時、文荷斎殿の知恵が借りれますし」
それを聞いた親父殿が満面の笑みで、膝に手を打ちつけました。
「ん!それは、とても良いな。採用!」
何その喜びよう。
あ、自分が岐阜にいる時文荷斎さんにめんどい事務仕事丸投げるつもりですか!親父殿!
まぁ、岐阜にずっといる自分としては親父殿+文荷斎さんか吉田次兵衛さんが常に相談できるところに居てくれることになるので、ありがたいのですがね。ニヤリ。
「ん?坊丸?信長様が悪巧みをしている時と同じような顔をしているぞ?なんぞ、含むところがあるのか?」
その言葉で、こちらを見てくる弟達。いや、悪い顔とかしてないから。きっと、たぶん。
「いえいえ、文荷斎殿に時々会えるな、と思った次第でございます」
頭を掻いて少しおどけたように笑っておく。
「ふむ。坊丸と文荷斎は仲が良いからな。この差配、坊丸に図られたか。ハハハ」
福島さんが木下秀吉の親類縁者として取り込まれましたけど、チーム坊丸のメンバー、加藤さんと文荷斎さんは自分にとって大切ですから。
「それはそうと、親父殿だけが近江の領主に任じられたのですか?」
ここらへんで話題を変えておこうっと。
柴田勝家の一門衆はあまり詳細がわからっておりません。養子をたくさん取ったのは間違いないようですが、同世代や親世代あたりは本当に不明。
吉田次兵衛さんは義理の兄。勝家のお姉さんが嫁いでおります。よくでてくるのでご存じのはず。
吉田玄久は、豆腐の玄久のエピソードで知られる玄久さん。以前にも話にでておりますが、設定弄り倒して、お嫁さんが吉田次兵衛さんの一族の養女になってから結婚した設定で、吉田次兵衛さんの一族扱いなので、吉田玄久になっております。玄久さんもそれなりにでてくるので、ご存知のはず。
柴田勝定が一門の中では高位に居ると思われます。この方、史実では転封で移動したくないから勝家のもとを離れて明智光秀に仕えた人。やれやれだぜ。そして本作品では従兄弟扱い。
柴田勝全は詳細不明。勝定と混同されることがありますが署名の花押が違うので別人とのこと。従兄弟もしくは再従兄弟扱い。
柴田角内は信長公記に織田大和守家の家臣として名前が出てくる人。いとこ伯父扱い。
溝口半左衛門は、たぶん柴田家譜代の臣。子に溝口半之丞。子は賤ヶ岳の戦いの後、亀田を名乗り浅野家家臣。
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