416話 搾乳しちゃうぞ!
話数が飛んでおりました。416・417話を前後ズレて投稿した様子。やっちまったー。
ども、坊丸です。
なんと、石田村に子牛がいました。つまりは母牛がお乳をだしているはずです!つまりは牛乳ゲットのチャーンス!なかなか手に入らないですよ、牛乳。徳川家康殿の饗応膳で使ったんですがね。あの後、年に一、二度手に入ればよいという有様でして…。難儀しておりました。
そんな感じなので、逸る気持ちを抑えて、一度仁左衛門さんの屋敷の母屋へ。
「坊丸様、加藤殿。わざわざのお越し、お疲れ様です。こちら、早生の大麦を麦焦がしにしてございます」
「お、麦茶ですな。いただきます」
「ては、それがしも」
二人して啜る麦茶の香ばしさとほのかな甘さよ。冷蔵庫が無いから温かいやつだけれども、これはこれで初夏の風物詩と言えましょう。
って、和んでる暇ないよ!牛乳よ、牛乳!
「そういえば、子牛が産まれておりましたね。母牛から乳を搾るようなことはいたさぬのですか?」
「は、はぁ。母牛の乳は子牛が飲むので…。牛の乳を搾るので?」
「はい。牛の乳が欲しいものですから。以前、柴田家の領地には牛の乳があればこれを買い取る旨、通達を出したのですが…。覚えておりませぬか?」
「そういえば、そのような話もあったような…。ただ、牛の乳が欲しいとは奇妙なお話であるなぁ、とは思っておりましたが、あれは坊丸様が欲したからでございましたか」
そう言うと、合点がいったとばかりにウンウン頷く仁左衛門さん。自分と一緒に色々と作業してきた仁左衛門さんがこういう感じじゃあ、そりゃあ、牛乳なんて手に入るわけねぇ!ってもんですな。
というか、どこから手に入ったんだあのごく少量の牛乳達は?解せぬ。
牛乳関連の免許状をいただいても、そりゃあ、どうにもなかなか量が手に入らないってものですよ。だって、搾乳して牛乳を手に入れる手技を持ってる人自体がほとんどないんだもん。
長きにわたる仏教と日本式ケガレ文化の融合が食肉をメインとする酪農や畜産業、牛乳の利用という概念自体を風化させてしまったわけですな。仏教と大昔の天皇による肉食禁止令の影響すげぇな。
そのおかげで、牛乳がなかなか手に入らなくなっているというこの有様。食肉禁止令を出した古の天皇をグーでぶっ飛ばしてやりたい気分です。無理だけど。
それはさておき、搾乳っすね。
自分が!この俺が!やってやるぜ!とカッコつけてもやるのは牛の乳搾りなんですがね。
「ふむ。では、それがしが牛の乳を搾らせていただく」
「はぁ?危険です。おやめくだされ、坊丸様」
「牛の乳が手に入るなら、どのようにするのか、どのように使うのか知りとうございます。是非、ご教授を!」
加藤さんには止められ、仁左衛門さんには求められる。まぁ、そうなりますよね。護衛も兼ねた家臣と殖産興業したい名主様の立場の違いって奴ですね。ウンウン。
では、牛の乳を受ける器を台所から選んでっと。
あ、この漏斗と大きめの徳利が良いかな。
そして、襷掛けして、手を洗ってっと。そして、石田村には隠し財産の焼酎があるはず。
今も時々納品してもらってますからね、普通より多めに蒸留している強めの焼酎という名の消毒用アルコール。その残りがきっとあるはず。もしかしたら飲用になってるかもしれんけど。
「仁左衛門さん、焼酎少しあります?」
「ございますが…。大切な牛の乳搾りの前に呑むので?酔いながらやるんですか?大丈夫でございますか?」
イヤイヤイヤ、消毒に使うんだから。全部が飲料用アルコールと思ってるかも知れないけれども、自分的には蒸留回数多いやつは消毒用だから。本来の目的は。
「手や器を清めるために軽く拭くだけです。さすがにこれから呑みゃあしませんよ」
ホッとした様子の仁左衛門さん。で、手ぬぐいに染み込ませて、拭き拭き拭きっと。
良し、準備整った。後は、小学生の頃に何度も行った那須塩原の松が千本くらいある牧場とか竜胆が湖のまわりに生えてそうな家族向け牧場で何度も何度も体験した腕を見せてやる!
きっとできる!アイキャンドゥイット!
といいつつ、まずは環境整備っす。
母牛が緊張するといけないからね。牛乳の質的にも、自分の安全的にも。
まずは牛のご飯!まぁ、藁ですが。ハムハム反芻しながら食べていただきリラックスを!人間も動物も満腹ならばすぐにはキレないはず!
近くに子牛!安全な状態で近くに子供がいれば母としての安心感があるはず!きっとたぶん!
ゆったりと近づいて撫でる感じ、さする感じで自分は安全で友好的な存在だと思わせる。よし、そんな感じで近づいてっと。
「坊丸様、お待ち下さい。腰にこれを」
って、加藤さん。自分の腰に何故縄を結ぶのかな?
「何かあったら、すぐ引いて引き離して安全を確保しますので」
ハッハッハ。まさかの腰に荒縄を巻きながら牛の乳搾りですよ!いや、安全に配慮していただくのは良いんですがね。
侍の格好で、襷掛けして、徳利と漏斗を手に持って、腰には荒縄。うん、乳搾りに向かうとは思えないエキセントリックな格好としかいいようがないね。
背中を触った時、最初は母牛がビクっとしましたが、徐々に安心したのか、普通に餌を食べ始めました。良し。
すっと、しゃがんで、母牛の乳首を根元側から先端に向けて優しく握り込むようにっと。
漏斗を向けて、牛乳がでましたよ!良し!転生前なうえに子供の頃の記憶だけど、予想外に手が覚えている!いや、本来の坊丸くんの手は乳搾りしたことないけど!
あぁ、もう、ややこしいなぁ。
数分続けて、だんだん徳利に溜まってきましたよ、牛乳が。よしよしよし。
お、母牛が少し動いたな。ちょっと力入れすぎたか?
って、加藤さん、ここで縄を引くんすか〜!
とっさに右手で徳利の首を握ったんで牛乳は確保できたんですがね。左手が乳首を離すタイミングが一拍ズレたので、服に牛乳ついちゃったよ…。
「大丈夫でございますか、坊丸様」
「急に縄を引かれて驚きましたが、牛乳も自分も無事ですよ」
そうそう、牛乳は生のままだと雑菌居るんだよね。確か六十から七十度くらいの熱を三十分くらい加えるパスツリゼーションしてるはず。
そして、まさか、ここで役に立つ徳利。パスツリゼーションをなんと燗酒を作る要領で行うことができるという!
やるな、少し前の自分!まぁ、偶然なんだけど。
そして、ついに、自力にて手に入りました!牛乳が!これで、石田村で牛乳を生産していく流れができます!
美味しい牛乳、バター、その他諸々の乳製品!
それになんと言ってもカルシウム!牛乳はカルシウムの吸収が良いんです!たしか。
美味しい乳製品以外に、まだまだこれから第二次成長期の坊丸くんの身長にカルシウム補給という名の祝福も授けてくれるはず!
パスツリゼーションの話は以前した気がするので渇愛。
千本な松の牧場では、現在は乳搾り体験してないみたいです。竜胆で湖なファミリー向け牧場ではやってるご様子。
コロナとか感染とかのせいで子供向けファミリー向けの乳搾り体験すらできるところが減っているとは世知辛い世の中です。
ちなみに食肉禁止令を出したのは奈良の大仏建造で有名な聖武天皇です。
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