412話 長良川の河原にて 壱ノ段
ども、坊丸です。
昨日は、二回も信長伯父さんに面会する羽目になりました。そして、その後は、鉄砲の試射に関する打ち合わせを小姓衆筆頭格の二人と一緒にする羽目に。貸し出す火縄銃は、織田家で管理しているものから出すことになったので、火縄銃の管理部門とも交渉したりとかしました。本当は奇妙丸様の下に戻って帰宅の挨拶するつもりだったんですが、長谷川さんや山口さんが代わりに一報入れとくから、暗くなる前に帰れと言われましたよ。つまりは、そこまで仕事をしていたというわけです。
そして、帰宅後、すぐに加藤さんに連絡取ったりと、まぁ、大変でしたよ。
で、加藤さんと一緒に、巳の刻に長良川の河原に到着です。火縄銃の演習、というか明智殿の鉄砲の腕前がどないなもんか確認を行うべく集合です。まぁ、最近は火縄銃の演習も以前のように信長伯父さんがご出馬になることは減っていて、信長伯父さんが居る火縄銃の演習はほんと、久しぶりなんですがね。
ちなみに、自分達が持ってきたのは、橋本一巴さんの形見ともいうべき短い火縄銃と加藤さんに預けてある龍騎一番隊の焼印が押してあるアレ。
そう、鉄砲騎馬隊の皆さんからいつの間にか「竜吠」という愛称で呼ばれるようになった鉄砲騎馬隊専用のライフリング有りの短銃身火縄銃です。
本日は、柴田家の馬に鉄砲騎馬隊用の銃架付き鞍、しかも加藤さん専用の二連銃架にて運搬。そして自分は騎乗にて鉄砲箪笥に肩紐をつけてもらってランドセルみたいにしたやつを背負って運搬しております。騎馬の振動で地味に肩が痛いんですがね。
で、自分達が到着した時には、既に信長伯父さんの小姓衆が河原に陣幕を張り終わり、腹巻を装備させた巻き藁が準備され始めております。いやぁ~、仕事が早いね、信長伯父さんの小姓衆は。
「津田坊丸、加藤清忠両名、参りました」
って感じで声をかけて、陣幕の中に入っていくと、陣幕の中は佐脇さんの指揮のもと、現在準備中。陣幕の上座に信長伯父さんが座るものと思われる床几。その左右に二つづつの床几が。
む?どっちに座るんだ?と思って立ち止まったら、すかさず、佐脇さんから座る場所の指示が飛んできました。鉄砲箪笥と鞍から外した特製銃架を自分達の前に置いて着座。以前と違ってキチンと加藤さんの床几が準備されているのが、加藤さんが認められた感じがしてすこし嬉しい。
鉄砲箪笥の中身を点検しながら待っていると、信長伯父さんと細川藤孝、明智光秀の両名も登場&着座。
自分達は膝に手を置いて頭をできるだけ下げてお出迎え。
「坊丸、加藤、早いな。それに坊丸は鉄砲箪笥の点検をしておった様子。一巴の遺言を守り、鉄砲の手入れ、修練を欠かしておらぬ様子。褒めてつかわす」
「はっ。ありがたき幸せにございまする」
「で、さっそくだ。長谷川、山口。明智殿に火縄銃を貸して差し上げろ。それに弾と玉薬もな」
「はっ。然らば。まずは、昨今、堺より仕入れた火縄銃からお渡し致しまする」
その言葉を聞いて、明智光秀殿が堺以外からも仕入れているのか、と呟いたのが聞こえました。まぁ、堺と国友、九州なんかで作ってるからね、火縄銃。産地違いで出てくると思ったんのでしょうな。本当の意味は、この後、ライフリング火縄銃、通称織田筒が出てくるってことなんだろうけどね。
信長伯父さんが火縄銃の修練をする時は、小姓衆が弾込め等の準備をしてお渡しするわけですが、今回はあえて、堺製のごくごく一般的な火縄銃と鉄砲箪笥をそのままお渡ししているご様子。しかも、早合は最初はあえて渡してないみたい。
きっと、弾込めなどの準備の手際を見たいという信長伯父さんのご意向が反映されたものと推察いたします。
明智さん、カルカ捌きも軽やかに弾込めは手早く。火皿への口薬の装填、火縄の扱いも流れるようにスムーズです。うん、これ、火縄銃装填の数をこなした小姓衆や滝川一益さんと同レベルだわ。早合無しであんな速度、手際で準備できるのすごいね。
小姓衆の方々が陣幕を捲って、射撃位置へご案内。今回は織田筒以外も使う予定なので、目標の腹巻装着の巻き藁製リアル人間サイズの藁人形までの距離は半町(約五十五メートル)程らしいです。
まぁ、妥当な距離だよね。
あ、明智殿が使っているのは堺から買った火縄銃だから、自分が改良した織田筒と違って銃床が短いんだよねぇ。
なので、古典的な頬を銃に寄せて撃つ立位の射撃姿勢なのね。
「パーン」
すぐに走る小姓衆。
「あたりにございまーす!腹巻の胴に当たっておりまーす」
お、さすがですな。あの距離なら問題なく当てますか。
戻って来た明智さんも満足そう。
「明智殿。見事。次も同じものでもう一度見たいので、頼む」
「はっ」
腕を見せたんだから、何故もう一度と言う顔が一瞬見えましたが、すぐに了承する明智さん。
まぁ、一度だけだとまぐれかもしれないからね。そりゃあ何度か腕を見せろというのは間違いじゃあないよね。
「明智殿、次はこちらで」
あ、そういうこと。滑腔砲用の丸い弾用の早合を明智さんに渡しているんすね、佐脇さん。
しかも、あえて、最初はただ渡すだけでなにも言わないという徹底ぶり。
竹筒を渡されて一瞬きょとんとする明智さん。まぁ、そうですよね、織田家で使っている早合は竹筒の中に一回分の火薬と弾丸が入ってますからね。パッと見ただの竹筒。だから、『火薬と弾の準備しようとしてるのに、竹を渡してくるなんて、どうしたってんだ?で、なんじゃこの竹は?』ってなるんですよね〜、きっと。
「こちらは早合になります。この竹皮を引いて口を開けまする。中に火薬と弾が入っておりますので、銃の口に被せてくだされますよう」
「む、相わかった」
火縄銃に流れるように入る火薬と弾丸。うん。自分が作ったものや考えたものと同じ品質。製造管理から自分の手が離れた後でも、品質劣化してなくて満足。
「こちら、織田家にて使われております早合になりまする」
「む、これが早合か…。確かに装填が格段に容易であるな…」
フッフッフ。そうでしょ、そうでしょ。橋本一巴さんのくれた情報からさらにブラッシュアップしているからね、それ。
「バーン」
「あたりにございます!」
ふと、信長伯父さんの方を見ると、いつものイタズラっ子の様な笑みが。あ、これ、なんか良くない流れや。
少しでも「面白い!」「続きが気になる」と思った方は、下の★でご評価いただけると、作品継続のモチベーションになります。
宜しくお願いします。




