143話 奇妙丸様の小姓衆、フォーメーション練習です
ども、坊丸です。
奇妙丸様の小姓役に選ばれました。
同僚は重臣の嫡男ばっかりで既にめんどくさい感じがしています…。
ま、佐久間盛次さんのところの理助は、いつもの調子のようですが。
「で、あるか。森虎丸、佐久間牛助、津田坊丸、佐久間理助、新年の儀での奇妙丸の小姓役、しかと務めよ」
長谷川橋介さんからの点呼を受けて、信長伯父さんがそう言うと立ち上がり、ドタドタと足を踏み鳴らして大広間から退場。
え?詳細を伝えるって聞いていたけど、おしまいですか?
「さて、各々方。奥向きの小広間の方にて奇妙丸様とお目通りしていただく。そこで仔細を伝えることと致す」
長谷川橋介さんたちの案内のもと4組連れ立って移動。
小広間の上座には既に奇妙丸様が着座。いつもだと、帰蝶様や吉乃殿、他の姫様たちとその腰元たちがいる感じですが、本日の主人は奇妙丸様なので、そういった方々は不在。
代わりににクールビューティ系で帰蝶様や吉乃殿より少し若く見える女性が奇妙丸様の隣に控えて居ます。
「各々方、奇妙丸様の御前である。着座の上、お控え願いたい」
うん、長谷川橋介さんも信長伯父さんが上座に居るときと微妙に言い方が違うのね。
「「「「ははぁ〜」」」」
長谷川さんの号令を受けて、大人たちが頭を下げるのを見て、子供達も頭を下げます。
あ、自分は、こういうの慣れてきたから、柴田の親父殿と呼吸を合わせて頭を下げましたよ。
「む、皆の者、大儀」
そう言って、頷いた後、奇妙丸様から視線が来たので、わずかに微笑むと、小さく頷き、その後奇妙丸様は真面目な顔を作って正面を見据えました。
「さて、小姓役の仔細でございますが、清須城で行われる新年の儀に際し、奇妙丸様の後ろ左右に控えていただきます。故に、小姓役の4名には各々の父上とともに、清須に登城いただきたく存ずる。
その後、父上方と分かれて奥向き、この小広間にて奇妙丸様と合流いただく予定であります。
当日の動きについては、奇妙丸様の乳母役、滝川お桂殿に従ってもらうことになりまする。お桂殿、挨拶を」
と、長谷川さんが奇妙丸様の隣りにいる女性の方を見ました。
「ご紹介に預かりました、奇妙丸様の乳母役である。滝川お桂と申します。黒母衣衆の滝川一益の従妹、ということになっております。今後とも皆様、よしなに」
奇妙丸様の乳母を名乗る綺麗な人は大きな所作で頭を下げました。
「さて、当日の4名の位置についても触れさせて頂きます」
そう言うと、長谷川さんは、懐の書状を取り出し、広げて読み上げます。
「奇妙丸様の右手に森虎丸殿、左手に佐久間理助殿、後の右手に佐久間牛助殿、後の左手に津田坊丸殿」
「長谷川殿、何故そのような席次になったのか。説明いただきたく」
と佐久間信盛殿からクレーム的な説明要求が。
「今回の小姓役は儀礼的なものとはいえ、護衛役も兼ねております。より年長で武の心得もあると聞く虎丸、理助を前列に、より幼い牛助、坊丸を後列といたした。これで宜しいですかな、信盛様」
うん、立て板に水、流るる様な美しい返答ですね、長谷川さん。
「む、そのような理由であれば、致し方なし。相わかった」
大きく頷くと、座り直すようにして答える佐久間信盛殿。
「では、小広間ではありますが、今の配置にて奇妙丸様の周りに控えていただきたく。宜しいかな、御四方」
「「はっ」」
長谷川さんの指示を受けて森虎丸君と自分はスッと立ち上がって奇妙丸様の側に行きますが、牛助君と理助はワンテンポ遅れて立ち上がった様子。
理助はすぐに自分達に追いつきましたが、牛助君は信盛殿の方をチラチラ見てから動き出し、3名に少し遅れて所定の位置につきました。
「「「「おおぅ〜」」」」
織田家の重臣の方々が単なる親の顔になって、奇妙丸様の周りに配置完了した息子たちを見て感慨に浸っておられる。
自分と血縁は無いけど、柴田の親父殿も少し感激していらっしゃる様子。
ちょっと面映ゆいね。
そんな重臣達の様子を意に介さず、信長伯父さんの小姓役を務める長谷川橋介さんが、小姓の先輩として、立ち位置や姿勢の指導が入ります。
膝の位置とか背筋を伸ばす感じとか、意外と力強くグッと押したり引いたりしながら、きつめに直しを入れてくる長谷川さん。そして、口で気になる点を伝えるお桂殿。
四名の姿勢や立ち位置の直しが終わった後、この感じを覚えておくよう長谷川さんとお桂殿から言われました。
「さて、御四方には、奇妙丸様と少し馴れていただくため、四半刻程一緒に過して頂こうかと存じます。重臣の方々は少しお待ちいただきたく存じまする」
長谷川さんに先導されて、奇妙丸様、お桂殿、森虎丸君、理助の順で部屋を出ます。
牛助くんは、自分とどちらが先のほうが良いのか少し迷った感じ。
お先にどうぞと声をかけると、ホッとした感じで理助の後を追います。
自分が部屋を出ると外に控えていた腰元の人がすかさず襖を閉めました。
その腰元の人は自分の後にまわって後方警戒を担当のご様子。
今までに見た腰元の人と比べると、足音はめっちゃ静かだし身のこなしが少し違うので、武術の嗜みがある護衛役の方かもしれません。
一瞬、奇妙丸様がこちらを見た後、自分の掌を見て、グッと握りしめました。
なんとなくですが、自分と手を繋いで歩きたかったんだろうな、と思いました。
前後に大人が居たり、並び順的な問題もあるので、今回は新年の儀の時のように手を繋ぐわけにはいかない事を、奇妙丸様はご理解の様子。
そして、何事もなかったかのように長谷川さんの後ろを歩く奇妙丸様。
そんな様子を眺めながら後ろの方をついて行きます。
しかし、四半刻ってだいたい30分でしょう。
それくらいの時間で打ち解けられるかなぁ、眼の前の三人と。
歩きながら、そんなことを思うのでした。




