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信孝なんかに『本能寺の変』のとばっちりで殺されていられません~信澄公転生記~   作者: 柳庵


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112話 新作のお菓子作るんですよ

ども、坊丸です。

信長伯父さんの上洛についての仕事の割り振りをしてる場に呼ばれたと思ったら、山科卿って公家の人と面談する際の手土産になるような菓子をつくれと、無茶ぶりされた坊丸です。


--------------------------------


清須城に呼ばれた翌日、麦芽水飴の在庫を確認するために台所番のお滝さんのもとに行きました。

新作のお菓子を作るための甘味となる武器は、現状、麦芽水飴しかないからね。


「お滝さん、今大丈夫ですか?」

「あれ、坊丸様、久しぶりだね。最近は台所に来るよりも石田村の方が忙しいみたいだね」


「まぁ、米の収穫が終わったので、石田村の方は一段落ですよ。今は麦を作ってけど、やることは同じですからね。それはさておき、麦芽水飴、在庫あります?」


「あるよ。作り方自体は、前に坊丸様から教わっていたからね。お妙さんや奥方様に頼まれることもあるからね。少しづつだけど暇を見て作ってあるよ。でも、どうしたんだい、急に水飴があるか、だなんて」


「実は、伯父上から上洛の時の手土産として、何か菓子を作れと無理難題が出たんですよ」


「はぁ、上洛の手土産にねぇ。で、誰に渡すんだい?」


「なんだか貴族の山科卿とかいう人だそうです」


「ふぅん、知らない人だけねぇ。てっきり、私は上洛の手土産っていうくらいだから、将軍様にでも渡すのかと思ったよ。で、貴族様にわたす手土産ねぇ。菓子については、わたしゃ力になってあげられないからね。手伝いが必要な時だけ、呼んどくれよ。あ、そうそう、そういう事情なら台所にあるものは使っていいよ。まぁ、使いすぎてもらちゃあ、困るけどね」


「えぇ、手伝ってくれないんですか?お滝さん?」


「料理の工夫なら手伝ってあげられるけどね、菓子じゃあぇね。しかも、御貴族様に渡すんだろう。そんな上品な菓子なんて、あたしゃ思いつきもしないよ。そうだ、坊丸様の手伝いにお千のやつを呼んできてやるよ。二人で頑張んな」


そう言って、お滝さんはお千ちゃんを呼びに行ってしまいましたよ。

はぁ~、自分だって何も思いついてないんですがね。

とりあえず、水飴の壺を覗き込んで、指で一すくい。

うん、甘くておいしい。

でも、このままじゃ、お土産にはならんのよねぇ…。


「あ、坊丸様。お滝さんから坊丸が呼んでるって言ってたので、お千が来ましたよ」


ちょっと胸をそらして、あたしに頼りたいことがあるんでしょ?とでも言いたげな、お千ちゃん。

よし、二人でなにか考えますか。

で、事情をお千ちゃんにも説明しておきます。


「ふむふむ、織田の殿様が上洛の際に持っていく、手土産としてお菓子を作るように命じられたと。しかも、京まで持っていくから、日持ちして、劣化しないようなもの、ですか。難しいですねぇ」


「そういうことです。今のところ、水飴をつかった新しい飴や甘味でも作れないかなと。例えば、以前の伯父上の饗応の際に使ったきな粉でも練りこんでみようかと」


「ふむふむ、水飴に練り呑むのですね。とりあえず、やってみましょうよ、坊丸様」


そういうと、きな粉の入った壺を取り出すお千ちゃん。自分は、手元にある水飴の壺から、すり鉢に水飴を少しだし、竈の傍ですこし温めました。その上にきな粉をぼわっとぶちまけるお千ちゃん。

量とか、確認しないんですか?だいじょうぶですか?お千ちゃん?


で、ここからは、非力な子供では厳しいので、お千ちゃんに任せます。

すりこぎ棒で水飴ときな粉を練り上げていく作業です。時々、竈の火に近づけて温めて、水飴を柔らかくしては、練り上げていきます。少しドジっ子ですが、こういう単純作業には意外と強いお千ちゃん。

四半刻も練り上げるのを見ていると、見ているこっちがだんだん飽きてしまいます。


こう、すりこぎ棒で擦っているのを見ると、祖父母のうちに夏休みに行ったときにお手伝いでゴマや山芋を擦った記憶がおぼろげに思い出されます。


転生、と言う名前の平行宇宙的な時間線エミュレーターの中で既に5年近く生きてきて、エミュレーター内の坊丸であることにだいぶ慣れてきている自分。


自分の中に蓄えられた知識は頻回に使用しているけど、自分の中に眠る転生前の家族や友達の記憶は使用頻度が少ないから、なにかの拍子にしか自分の意識の表層に浮かび上がってこない、この事実。


自分本来の記憶、みたいなものを思い出す機会がだんだん減ってきていることに、すこし寂しさを覚えたりします。


そんな感じで、お千ちゃんがきな粉と水飴を混ぜる様子を見ていると、お千ちゃんが不意に手止めて、こちらに向き直りました。


「坊丸様、あとは混ぜるだけですから、ずっと見ていなくてもいいですよ?傍で見ているのに、遠くを見ているような、心ここにあらず、って感じでしたし。伊助君たちと一緒に遊んできてもいいんですよ?」


「あぁ、ごめんなさい。ちょっと、色々思い出しちゃって。伊助たちと遊んでいるよりもお千ちゃんと一緒にこれを作る方が大事だから、ここにいますよ」


「お千と一緒がいいなんて、甘えん坊さんですね、坊丸様は。すこしうれしいけど、何も出ませんよ?」


そのあと、鼻歌を歌いながら、きな粉と水飴を混ぜるお千ちゃん。

うん、できるだけ早くにお菓子を完成させることの方が大事って意味で、一緒に作る方が大事って言ったんですが、すこし誤解されているご様子。

まぁ、お千ちゃんのお姉さん風に吹き当てられるのも悪くはないから、ここはにっこり笑って、肯定しておきましょう。


そういえば、さっき、いいアイデアに近づいた気がしたんだけど…。

あ、そうだ、すり鉢を使う姿をみて追憶のなかに出てきたゴマ!ゴマだ!

すりゴマを練りこんだ飴はどうかな?ほかにも、柳蔭を作ったときのアイデアを流用して柑橘系の皮やしぼり汁をすこし入れた飴とか。


よし、きな粉飴ができたら、お千ちゃんにもうひと頑張りしてもらおうっと。

きな粉を練りこんだ水飴ですが、犬山市の名物 げんこつ飴ををもとにしております。

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