111話 信長、上洛の準備 裏
ども、坊丸です。
信長伯父さんが上洛のお供の人達に仕事の割り振りをしている場に、なぜか呼ばれている坊丸です。
岩倉城攻めの大将格を申し仕っている柴田の親父殿は自分以上に何でここにいるのって感じでしょうね。
ごめんね、柴田の親父殿、坊丸の保護者ってだけで、場違いなところに呼ばれて、辛かろう。
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「さて、先ほど、表の目的と話したのを覚えておる者もおろう。
こたびの上洛の裏の目的、それは火薬じゃ。
そこにいる津田坊丸と浮野の戦いで惜しくもなくなってしまった橋本一巴が、火縄銃の工夫として、早合なるものを完成させた。
この早合があれば、しばらくは火縄銃の運用において周囲の大名よりも優位が取れる。そこで、だ。
今後、我が軍は三間半の長槍に加え、鉄砲隊を充実させていく。
だが、そのためには火薬を多く手に入れねばならん」
「しかし、殿、火薬を多く手に入れようにも、堺から少しづつ買うしかありますまい」
林秀貞殿が、信長伯父さんの言葉を遮るように発言しました。
林殿、今は筆頭重臣じゃないんだから、信長伯父さんを怒らせるような、差し出がましい真似は控えたほうが良いんじゃぁ…。
あ、信長伯父さんが半眼になって林殿を見ている。あれ、内心怒ってるやつだよね、多分。
「そうよな。林の爺がいうことにも一理ある。そこで、儂も手のものを使い調べた。
かつて管領の細川晴元と三好長慶が戦った際に、細川は鉄砲で大きな戦果を挙げたと聞く。
細川側は兵は少なかったのにも関わらず、火縄銃をうまく使って、兵に勝る三好勢を翻弄したことがあるらしい。
そして、その際、鉄砲と火薬を細川に融通したのは、京にある法華宗の本能寺とのことじゃ。
さらに言うとその本能寺に細川晴元に紹介したのは、公家の山科言継卿らしい。
たしか、林の爺は、昔、平手の爺とともに、山科卿が我が父信秀のもとに逗留したおりに、和歌や蹴鞠を習ったことがあったと聞き及んでおる。間違いないか?」
「はい、天文二年の頃に、山科卿が信秀様に天皇家への寄進のご依頼のために織田家を訪れ、長逗留した時に、それがしや平手殿は和歌の手ほどきを受けております」
「で、あるか。で、今も連絡は取っておるか?」
「以前ほどまめに、ではございませんが、二年に一度は和歌の添削や指導をいただく為に書状のやり取り程度は行っておりまする」
「ならば、良し。林の爺に命じる。山科卿に儂が会えるように手配せよ。儂自らが山科卿に会って、火薬の手配のため、本能寺とのつなぎを頼むつもりだ。会えねば話にならんからな、爺、頼んだぞ」
「ははっ」
「で、坊丸」
「は、はい」
「そなたに命じるのは、山科卿に会う時の手土産じゃ。金子や絹などを面会の際に付け届けとして持参するつもりだが、それだけでは、ちと弱い。
山科卿への手土産として、目新しき菓子など何か考えよ。
期日がない故、まぁ、出来ずとも致し方ない、がな。
以前に儂を饗応して見せた時のように何かしら作って見せよ。
良きものができれば、褒美を取らす」
え、えぇぇっ。短期間で何か菓子を考えろと?またまた、信長伯父さんの無理難題がでたよ…。
まぁ、返事だけはしっかりしておこう。
「はっ。手土産の件、承りましてございます」
と言って、大げさに平伏。実際は何にも思いついてないけどね。
隣から柴田の親父殿が、小声で、「大丈夫か?」って聞いてきますが、大丈夫なわけないじゃないですか!
期日、期日はどうなんですか?
「畏れながら。叔父上。山科卿への手土産の菓子ですが、期日はいかほどいただけますでしょうか?」
「二十日後を目処に、上洛に出立するつもりである。故に十五日程度、と言ったところか。公家どもが喜びそうな、優雅さと目新しさと美味さがあれば、なお良し、である。期日がないが、坊丸、励め」
「ははっ」
って、15日じゃ、試作品作って一発OKもらうしかないじゃないですか…。
無理のムリムリだぁ…。
「さて、丹羽長秀、お主は今回の上洛についてまとめ役として差配せよ。池田恒興、長秀の補佐せよ。太田牛一、その他には儂の警護を命じる。小姓衆と協力し警護の段取りせよ。
それと、お主は委細細かく記録するのが好きである故にな、こたびの上洛のこと、記録もいたせ。出立は、二十日後を予定する。こたびの上洛、つつがなく行うため、それまで各々、励め。以上じゃ」
「ははぁっ」
以上じゃ、の声にあわせて、一同、平伏します。
さすがに、坊丸もこのタイミングは読めたので、みんなと一緒に平伏。
平伏のタイミングがずれて悪目立ちすることはなかったよ!
さてさて、帰ったら、何かお菓子でも考えないといけないなぁ。
細川晴元と三好長慶の戦いで鉄砲を使ったのは1550年 天文12年のお話。
本能寺と細川晴元の関連については山科言継卿記をご参照ください。




