108話 永禄二年 新年の儀・奇妙丸お披露目
ども、坊丸です。
新年の儀で信長伯父さんが、尾張上四郡守護代の居城である岩倉城を攻めることと、将軍家への寄進のついでにご機嫌伺という名目で上洛することを発表しました。
うん、岩倉攻めは虎哉禅師の予想していた時期通りだし、上洛も大切だよね、きっと多分。
でも、この内容なら自分が新年の儀に呼ばれる理由特になんじゃないのかなぁ…などと思ってしまう、今日の坊丸です。なんで呼ばれたんだろ、はぁ…。
それはさておき、信長伯父さんが、新年の儀の個別挨拶を受けるターンで、今年は嫡男の奇妙丸様にも挨拶するようにと、言い出しましたよ。
新年の儀で嫡男のお披露目ですか、まぁ、ちょうど良いんじゃないでしょうか。
自分より幼い奇妙丸様としては、おじさん達から新年の挨拶を受ける羽目になって、めっちゃ大変かもしれませんが。
「奇妙、これへ」
「はい、ちちうえ」
小姓衆の長谷川橋介殿に先導されて、奇妙丸様が上座の袖からご登場です。
先日、一緒に遊んだ時と違い、明らかに緊張してるご様子。
大丈夫、奇妙丸様。手と足が同じ側で出たりしていないから、大丈夫。
信長伯父さんの隣まで来た奇妙丸様は、居住まいを正して座りました。
幼いのに、上手にできて、偉いのぉ。って、親戚のおじちゃん目線ですね、自分。
「嫡男の奇妙丸じゃ、皆のもの、見知り置くように」
「ははっ」
これまた、一斉に平伏する家臣一同。そして、当然のように一拍遅れてしまう、自分。
信長伯父さんから一瞬冷たい視線が来た気もしますが、気にしない。気にしないったら、気にしない。
逆に、奇妙丸様は自分を見つけて、少し笑顔が見えました。見知った顔がいるのって大切だよね。
そして、小姓の佐脇良之殿が、重臣筆頭の佐久間盛重殿の名前を呼びあげ、佐久間殿から挨拶が始まりました。
うん、どうやら、小姓の人が名前を読んだら、挨拶に行くシステムなんだな。
ということは、柴田の親父殿と一緒に呼ばれれば一緒に挨拶を行うし、呼ばれなければ柴田の親父殿が挨拶し終わって着座するまで、すまして座っていれば良いんじゃないでしょうか。
別々に呼ばれるパターンが一番やだなぁ。ほんと。
「新年あけましておめでとうございます。この、盛重、今年も織田家の発展のため、粉骨砕身尽くす所存でございます」
「うむ、誠に大義」
信長伯父さんの前に進み出て、頭を下げて個別の挨拶を始める佐久間殿とそれを受ける信長伯父さん。
挨拶の後、頭を上げ、奇妙丸様の方に向き直った佐久間殿は、奇妙丸様に向けての挨拶を始めました。
「奇妙丸様、佐久間大学盛重でございます。この盛重、奇妙丸様にも殿と同様の忠義を捧げる所存でございます。以後よろしくお願い申し上げます」
「ん、たいぎである」
うんうん、上手にできてるよ、奇妙丸様。練習したんだろうね、きっと。
あ、そうか、やっとわかったよ。
謀反人である織田信行の息子である自分、津田坊丸が、信長伯父さんとその嫡男の奇妙丸様に頭を下げて忠誠を誓う姿を家臣一同に見せるパフォーマンスをやりたかったのね、信長伯父さん。
岩倉城攻めの前に、織田弾正忠家は一つにまとまってるぞ、信行の息子も自分たち親子に忠誠を誓っているぞ、とアピールしたいんだ。
OK、OK、わかりました。存分に、そのパフィーマンスに付き合わせていただきますよ。
でも、名前を呼ばれずに一人待ちぼうけのパターンもまだあるかもしれないんだよね。ははは。
その後、森可成殿、佐久間信盛殿と呼ばれ、信長伯父さんと奇妙丸様に挨拶をしていきます。
さて、柴田の親父殿の番ですが、一緒に名前呼ばれるかな?ちょっと、ドキドキ。
「末森城城代 柴田勝家殿、ならびにその預かり、津田坊丸」
良かったよ。柴田の親父殿と一緒に名前を呼ばれたよ。
てか、自分は呼び捨てなんですね。まぁ、いいけど。
「明けましておめでとうございます。柴田勝家、今年も信長様に変わらぬ忠義を捧げる所存でございます」
「うむ、大儀」
よし、自分の番だ。
「明けましておめでとうございます。柴田家預かり、津田坊丸でございます。伯父上に許していただいたこの命、伯父上のために使う所存。忠誠を誓いまする」
「ふ、大儀」
あれ、今、信長伯父さんに鼻で笑われた?まぁ、いいや。気にしない。
「奇妙丸様、柴田勝家と申します。奇妙丸様に殿と変わらぬ忠義を捧げる所存でございます」
「ん、たいぎ」
「奇妙丸様、津田坊丸でございます。奇妙丸様に未来永劫、忠誠を誓います」
「ん、坊にぃ、たいぎ」
「くっ」
あれ、信長伯父さん、今笑った?未来永劫とか、大袈裟だったのかなぁ…。でも、笑うほどではないと思うけどなぁ…。
そんなことを思いながら、頭をあげると、奇妙丸様がちょっとはにかんだ笑顔を見せてくれました。信長伯父さんには笑われたっぽいけど、奇妙丸様の笑顔が見れたので、まぁ良し、としましょう。
謀反人の信行の息子が現当主と未来の当主に忠義を誓うパフォーマンス自体は、無事に済ませたわけだしね。
よし、自分、頑張った。
後は他の織田家家臣の人たちの挨拶を、ぼーーっと座って聞いていればいいや。ま、途中で飽きるんだろうねどね、きっと。
この時は、そんな風に思ってたんですがねぇ、ハハハ。




