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狭間

ヘドロスライムの前世のお話です。

「私の罪は生きていること」

 ヘドロスライムは幹部の新参ということもあり、部屋は城の片隅にあり小さく粗末なものであった。

 魔物に転生する以前、ヘドロスライムは小さな王宮にメイドとして仕えていた。

 貧民出の彼女は根本的に自分に自信がなく、その言動は常に欺瞞に満ちていた。

 そして自分より弱い人間を操ることを好む、非常に自己愛が強い性格であった。

 夫を二人持ち、それぞれに子供を作り、さらに複数の男と関係を持ち、性の快楽に溺れて毎日を過ごした。

 それでも彼女の心は満たされなかった。


「タチの悪い山賊達に脅されていて、殺されたくなければ200万ゴールドを持ってこいと要求されています…」

 彼女は愛人たちにいつもこういった相談を持ちかけた。

「貴方にもきっとご迷惑がかかりますわ。だから、もうお逢いすることは出来ません……」

 そうして大金を巻き上げてきたが、自己嫌悪の波に飲まれた彼女は突発的に城の窓から身を投げた。

 命は助かったが、頸椎を損傷し、彼女は首から下の感覚を失って寝たきりとなった。

 二人の夫も愛人たちも彼女を見捨て、子供たちも去ったが、唯一残った愛人がいた。

 その男に狂気じみた偏愛と屈辱を受けながら彼女は長い年月を生きた。

 最終的にその偏愛の過程で彼女は窒息して息を引き取った。

 死の直前、彼女はドス黒く濁った空と目映く光る太陽の中に幼い頃の自分の姿を見た。

 駆けながら振り返り、楽しそうに手を振る自分の姿。


「いつでもガッカリさせて、いつも迷惑だけをかけてきた、私は、受け入れる、永遠の解放、喜び、怒り、恨み、いたわり、感謝、感動、後悔、恐怖、絶望。そして悲しみ……」

 ───悲しみだけが私の心に残る最後の感情か。心は最期まで無にはならないのか。


 眩しい太陽の中心から一雫の露が彼女の身に落ちた。


 全てを浄化する力、その一雫。

 遥か向こう側の最奥に存在するは万物を支配する神か魔か。

 新たに誕生した暗灰色に輝くスライムは激しい憎悪と悲しみを湛えながら、静かに笑った。


 ヘドロスライムの部屋に轟音とともに激しい雷が落ち、手下の魔物たちが中に駆け込んだ。

 ヘドロスライムは無傷であった。

「ご、ご無事ですか」

 驚きと恐怖に震えながら手下のぶよぶよスライムが声をかける。

「大丈夫だ。"何も"ない」

 その事実に彼女は何だか可笑しくなり、そのうちゲラゲラと爆発的に笑い出していた。


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