67 俺は新世界のネコになる!
真っ暗な空間にネコな俺の姿だけが浮かび上がる。
音がどこまでも反響する。
ああこれ、ゲーム世界に来たときと同じだ。
目の前には、神さまかもしれないじいさんがいた。
『あ、じいさん。どーもごぶさたですにゃん』
「久しいな、イナバよ。人の力を借りてここまで来た理由を聞こうかの」
『創造神さまって人に会いに来たんだけど、留守かにゃ。ネコにされたキシリアをもとに戻してあげてほしいのにゃ』
じいさんは、それはそれは長ーーーーいため息を吐いて、その場にあぐらをかいた。
「お主、わしがその神だという発想にはならんのかのう」
『おう〜。てことは、じいさんじゃなくて創造神さまって呼ばにゃいといけないにゃ』
「はぁ。まあいいわい。キシリアをもとに戻したいんじゃな」
『できるかにゃ?』
「ああ。世の中には定められたルールというものがあるからの。あの娘に関してはちぃと勝手に捻じ曲げられてしまっていたが、こうして術で来てもらわねば、わしの意思で勝手に手出しすることはできなかったんじゃよ」
じいさん……じゃねぇや。創造神には創造神の苦労があるらしい。神というのは人の世に手出しできないから、ジャンに捻じ曲げられたと知っていても戻してやれなかったのか。
『あれ、そういえば創造神さまは鬼島さんにも会ったって聞いたけど、その時に戻すことはできなかった……?』
「ああ、イナバの元上司とかいったか。“お主がもとに戻りたいと願うならあちらに戻そう”と、説明する前に殴られたからのぅ。わしに実体がないとはいえ、あんまりだろう」
『うわー。なんかすんませんね。あの人凶暴で。俺も人間だった頃は散々な目に遭ってたんすよ』
少しでもミスがあれば怒鳴り散らして一時間土下座させる、殴るという凶行。今思い出しても寒気がする。
『キシリアを人間に戻してやって、鬼島さんを元の世界に戻すってことはできますかね。聖獣役なら俺がやるから』
「ふぅむ。だが、あやつの体はすでに死んでおるからのう。棺桶に入れられて葬式も終わり、これから荼毘に付されるところじゃが」
『あ、やっぱ死んでたんだ。てことは今元の体に戻ったら……』
「生き返った瞬間焼け死ぬのう。運が良ければ、棺が動いて生きているとわかって生還できるが」
うーわ。
あっちに戻れば生き返った途端即死かもしれないルート。
もう一方はネコとして生きるルート。
あの人どっちを選ぶのかねぇ……。
まあ俺は他人の人生の責任を負えねぇし、鬼島さんが自分で選ぶっしょ。
『じゃあまず、キシリアの望みは必ず叶えてやってほしい。鬼島さんのことは本人に聞いて選んでもらってくださいっす』
「うむ。しかと聞き届けた。しかしお主、他人のためにここまで体をはれるのじゃ。ネコにしておくのはもったいない人物よのう」
『いや、ネコとして生きるのも割と楽しいし、俺にはママンとパパンときょうだいがいるし。それに、ステラちゃんに、生きて帰るって約束したからな。今後も新世界のネコとして、聖女になったステラちゃんをサポートするのにゃ』
尻尾をふりふり答える。
人間にしかできないことがあるし、ネコになって困ったこともあるけど、やっぱり俺はネコのイナバでいたい。
俺の意志が揺るがないのを知って、創造神さまは頷いた。
「名残惜しいが、そこまで心が決まっているのなら、見送るとしよう。ついでにあちらの世界で楽ができるよう、おまけスキルも付加してやろうか」
『そういうのはいらないよ。俺は自分の力で、ステラちゃんたちが暮らす世界を平和にできるようがんばるからな!』
創造神さまに送られて、俺は乙女ゲームの世界に舞い戻った。





