63 繰り返されるシナリオ feat.クラウド
「ジャン! キシリアをもとに戻すのに聖獣を犠牲にしないといけないというのは本当なのか!?」
会議が終わってすぐに、ジャンを拘束している牢に向かった。牢番を下がらせ、単刀直入に聞く。
ジャンがいつまでも沈黙を貫いているから、魔法士団に手記の解読をさせていたというのに。
上がってきた情報が最悪だった。
──魂を入れ替えた魔法を帳消しにするには、聖獣を犠牲にする。
鉄格子の中にいるジャンは、据えられた椅子に腰掛けて、牢の上部にある換気窓をじっとみあげていてた。
魔法士団長をしていた時には絶対しなかった、殺意すら感じる暗い目で僕を見る。
「ははは、やっとアレを解読したんすか。この国のバカどもが読めるとは思えねーし。どうせカイトにやらせたんでしょ」
「我が国の民を侮辱するな」
「そうやって怒るのは真実だからでしょうよ。自国語しか読めない浅学。だから俺が魔法士団長にまでなれたわけだけど」
どこまでも人を馬鹿にした態度。僕に対して敬語も使わない。
「話をそらすな。キシリアを戻す方法は他にないのか!」
「あったらどうする? キシリアを元に戻したら、あんたの妻にするんだろ」
「は? 確かに母上からキシリアかステラ、聖女になった方を妻に迎えろと言われたが、なぜ今それをいう。今回のことに関係ないだろう」
「関係大ありなんだよ、糞が!」
ジャンが荒々しく立ち上がり椅子を蹴飛ばした。
魔封じの手錠と足かせをかけられているから何もできはしないが、気迫は凄まじい。
椅子が転がる音が、牢の中に反響する。
「あの子をなんとも思ってないテメェが、なんでキシリアを妻にできる。王族の生まれってだけで、なんの努力もしてないくせに。俺は、ずっと、ずっと、キシリアだけが欲しかったのに。何度生まれ変わろうともテメェはキシリアと結ばれるんだ。何度邪魔しても。この世界はそういうシナリオの上に成り立っているから」
「な、何を言っている……」
まるで、何回も人生を繰り返しているかのような言い方だ。ジャンの言う過去では、僕は生まれくるたびにキシリアと結婚しているらしい。
そんなことで僕はこいつに憎まれているのか?
執着、執念、そんな言葉じゃ足りないほどのものを感じて、ぞくっと怖気が走る。
「俺がキシリアを手に入れるには、シナリオを捻じ曲げるしかなかった。……ステラが、あのガキがこれまでと違う行動を取っていなければ、今頃とっくにキシリアは俺の妻にできていたんだ。カイトだってそうだ。なぜ俺の邪魔をする」
「お前が間違っているからだ。お前の望みに、キシリアの気持ちは含まれていないじゃないか」
「散々俺たち配下に自分勝手なことを言ってきたお方の言葉がそれか。ははははははっ。俺たちの気持ちなんて一度も汲んだことがないお子さまがよく言うぜ」
僕たちの意見はきっとどこまでも平行線だ。
こいつの言うことを、僕は一生理解できそうにない。
妄言を吐くジャンに背を向けて、城内に戻る。
最低限聞き出せた、意味のわからない理屈。
シナリオを捻じ曲げるというのはなんなのか。
このまま問い詰めてもまともに話が聞き出せそうにない。母上や魔法士団に相談しないといけないだろう。
王族として生まれただけでキシリアと結婚する権利を持っているのが許せない。ジャンの憎しみのこもる言葉が刺さる。
お前なんか王の器じゃない。ジャンの弟に言われた言葉が刺さる。
これまでの自分の行動を思い返して、配下に自分の意見を押し付けてきた僕も、ジャンと大差ないのだと思ってしまった。





