60 魔法士団に相談するにゃ!
カイトと一緒に城に向かったステラちゃん。
ステラちゃんが挨拶すると、顔なじみになったおっさん騎士が顔パスで中に通してくれる。
魔法士団の魔法訓練施設には、アルベルトとシルヴァがいた。
見慣れたメンバーならいいよな。俺とヤマネもカバンの中からこんにちはする。
「どうしたステラ。今日は授業の日ではないだろう」
「事情はオレから話す。解読を頼まれていたこいつの中身についてだ。あんたら魔法士ならこの意味がわかるかと思ってここまで来た」
怪訝そうにするアルベルトに、カイトが単刀直入に言う。アルベルトも、カイトが預かったものを知っているようだ。
「団長が聞いたほうが良さそうな話か」
「おそらくは」
「なら、呼んでこよう。……シルヴァ。二人を応接室に」
「わかったよ、ソラ」
笑顔でソラと呼ばれ、アルベルトの眉間にシワが寄った。
応接室に通される。
五分も待たないうちにアルベルトがヴォルフラムをつれて来た。
シルヴァが人数分のお茶をカップに注いで、それぞれの前に置く。
ステラちゃんの前にだけ、マカロンなどの菓子まで添えられている。えこひいきだ!
ヴォルフラムはテーブルの上で手を組み、ステラちゃんとカイトを促す。
「それでは、ジャンが書いていた内容を聞こうか」
「あ、それは私が。イナバちゃん。さっきのもう一回聞いていい?」
カイトがテーブルに座る俺に見えるよう、ページを開いてくれる。
『にゃ。愛の魔法は創造神の領域にいくことで可能となる、任意の者に別の個体の魂を仮に入れる。反転させるには聖獣を神に捧げる──』
ステラちゃんが俺の言葉をそのまま訳して伝えてくれる。この物々しい文言の下には、魔法陣なのか何か色々模様が描かれている。
ひと呼吸おいて、ステラちゃんはヴォルフラムに言う。
「ここに書かれているのはつまり、キシリアさまはこの術で心を入れ替えられてしまったってことですよね」
「そういうことになるな。創造神の領域……。神の住まう世界は死後の世界。魂のみがそこに行くことができると伝わっている」
ヴォルフラムは伏し目がちに言う。
てことは、ジャンは一時的に幽体離脱してキシリアと鬼島を入れ替えた?
「彼がステラに害なそうとしなかったのは、ステラに聖獣を見つけてもらう必要があったから、か。そこに書かれていることが正しいなら、一度かけた禁術をキャンセルするのに、聖獣を捧げなければいけないのだから。正気とは思えない」
「一般的人からしたら正気とは思えないだろうけど、あいつならやるよ。オレたちシノビは、任務のためなら犠牲を出すことを厭わない。そういうふうに育てられているからね。本来なら主を守るために発揮すべき精神だけど」
アルベルトとカイトはあくまでも冷静に分析する。
ジャンがキシリアをモノにしたいがために……そんな身勝手で殺されちゃう聖獣、かわいそすぎね?
沈黙してしまう一同。
そこに誰かが扉をブッ壊さんばかりの勢いで飛び込んできた。
「話は聞かせてもらったぞ。聖獣は我が国の象徴なんだぞ!! 聖獣を捧げるなんてもっての外だ!!」
クラウドだ。
仁王立ちして叫ぶクラウドをヴォルフラムがたしなめる。
「これは殿下。盗み聞きとは行儀が悪いですね」
「盗み聞きとは無礼な。お前がいつまで経っても会議に現れないから、僕がわざわざ来てやったんだ」
「火急の用につき会議は欠席する、と部下に言伝を頼んでいたと思うのですが」
俺様王子様なクラウド、盗み聞きを棚上げにして怒っている。指摘されて怒るなんてまだまだおこちゃまだなぁ。見た目は端正な顔立ちでモテそうなのに、性格はちょっと残念。
「そんなことよりヴォルフラム。今のはどういうことだ。聖獣を捧げるとはなんのことだ」
途中で突撃してきたから、最後の部分しか聞き取れてないんだ。激おこなクラウドを制したのはカイトだ。
「落ち着きなよオージさま。愛の魔法は創造神の領域にいくことで可能となる、任意の者に別の個体の魂を仮に入れる。反転させるには聖獣を神に捧げる……あんたらの言うところの“ジャン”の手記だよ。キシリアをもとに戻したいなら聖獣を捧げないといけないらしい」
「確かにキシリアは聖女候補で国には必要だが、だからといって聖獣を捧げるなんてさせるわけないだろう」
記者だから敬語を使えるだろうに、カイトはバカにしたような目でタメ口をきく。
「ならキシリアはこのまんまにしとくつもりなんだね。令嬢の魂はネコにされてるけど、他人の入った令嬢の体は聖女の魔法を使うことが可能みたいだし。それが王子としての選択かい?」
「だったらどうだと言うんだ」
「べつに。あんたがオレの主じゃなくて良かったって心底思っただけ」
カイトはそれだけ吐き捨てると、もう話は終わったとばかりに紅色のお茶を飲みはじめた。
「──殿下、私はこれから遅刻で会議に出席する。それでいいでしょう。先に戻っていてください」
今にもカイトに殴りかかりそうなクラウドをなだめ、ヴォルフラムが席を立つ。まだいい足りないことがありそうだが、いったんは矛を収めて出ていった。
「アルベルト、あとは任せる。他に方法がないか、探しておいてくれ。それと、ステラ、カイト。身内の恥を晒して申し訳なかった。殿下はまだ若い。至らないところはこれから側に立つ私たちが正していくから、見放さないでやってほしい」
深々頭を下げて、ヴォルフラムも退室した。
「お茶、ごちそうさま。俺ももう帰るよ。アルベルトだっけ。王子に言っといてよ。“王族の血を引いてるだけで王になれると思ったら大間違いだ。お前なんかが王になったら国が傾く。性根を叩き直せクソガキ”ってさ」
最後にカイトが一切取り繕わない毒舌を残して帰っていった。





