58 聖獣探しとカイトと捜査協力
俺たちは王都を出て南に一時間ほど歩いたところにある、小高い丘に来ている。
一面が天然の花畑で、オレンジやピンクの花が青空によく映える。
「ここで合っているかな。シルヴァくんのご先祖さまの手記に残っていた場所」
ステラちゃんがボロボロの手帳片手に景色を眺める。シルヴァが貸してくれた大量の手記、そのうち一冊に書かれたなかから、ルークが見つけたのがこの場所だ。
先代聖女と聖獣が出会ったのがここらしい。
俺の記憶にあるゲームのマップだと、祝福の丘という。さすが乙女ゲーム、地名までもメルヘンだ。
『おお〜! あったけえな! 昼寝しようぜステラ!』
『とか言いながら俺の背の上で寝るんじゃねえ!』
ヤマネも『ヒーローといえば冒険だー!』と乗り気でついてきていた。俺の毛を手綱代わりにグイグイ引っ張る。
「お昼寝はだめよ、ヤマネちゃん。聖獣さまを探さないとなんだから」
『す、すまねぇ』
たしなめられて、ヤマネは小さくなった。
小鳥たちが、あたりに見える木にとまって歌っている。
白い翼の可愛い存在、ってことは小鳥かな。
ステラちゃんが木に近づいて、小鳥たちに話を聞いていく。
おしゃべりが好きみたいで、関係ない話をする鳥ばかり。収穫があまりないまま、最後に三羽で仲良く小枝にとまっていた青い小鳥に呼びかける。
「小鳥さん、小鳥さん。あなた達は聖獣さまについてなにか知らない?」
『ピピピぃ。あら、アタシたちの言葉がわかるということは、あなた噂の聖女候補ね。声をかけてもらえて嬉しいわ』
『聖獣探しをしているのね』
『探すなら一つ知っておくといいわ』
「知る? わたしは、何を知ればいいの?」
ピピピとさえずり、教えてくれる。
『貴女たち聖女が儚くなって代替わりするように、聖獣の命も永遠ではないの。命尽きれば次なる獣に役目が受け継がれる』
「それはつまり、ここでは聖獣さまに会えないということ?」
『前の聖獣と当代の聖獣はチガウイノチということよ』
言われて俺も気づく。聖獣も生き物。
命は無限ではない。聖女と同じく聖獣も代替わりするのだ。そしてこれも聖女と同じく、先代の子孫に力が継がれるわけでもないらしい。
『先代聖獣さまっていうのは、アタシたち姉妹の遠い遠いご先祖さまなのよ。でもアタシたちは普通の鳥よ』
『そうよ。べつにワタシたちは特別な力を持っていないわ』
『ご先祖さまはとってもすごかったのよ。お母さんが言っていたわ。この世界にあるあらゆる言葉も文字もわかるの。そしてその力を平和のために使ったのよ』
「話してくれてありがとう。あなたたちのご先祖さまはとても素敵な聖獣さまだったのね」
小鳥たちにお礼を言って、俺たちは王都に戻ることにした。今の聖獣が全く違う姿なら、聖獣探しはふりだしである。
「まだ時間があるから、他の場所にも行ってみましょうか。西にある川、海にももしかしたらなにか知っている子がいるかもしれないし」
『ステラ、ちょっと休んだほうがいいぜぃ。朝からずっと休憩無しで歩いているだろ』
「まだ大丈夫よ」
『ステラちゃん、ヤマネの言うとおりにゃ。三十分でもいいから休みなよ。そこのカフェとか』
俺も休むよう促す。本人が大丈夫と言い張るときほど、疲れている自覚がなかったりするからな。
カフェのテラス席で、見覚えある人物が何冊もの手帳をテーブルに積んでお茶をしていた。
「ステラじゃん。そんなフラフラしてどうしたのさ」
「カイトさん」
今日のカイトは忍び装束ではない。いつものようなジャケットとパンツスタイルだ。左の上腕に新聞社の腕章をつけている。
「良かった。新聞社に戻ったんですね」
「形だけ籍を置かせてもらっているよ。今はこっちがオレの仕事」
カイトは置かれていた手帳を一冊、開いてみせる。
それ見て、ステラちゃんは首を傾げた。書かれている文字はエスペランサ王国のものではない。
「……どこの国のものです?」
「これはオレの故郷、ヤマトの文字で書かれている。ライトの屋敷から押収されたものだ」
「ライト?」
「あ、悪い。ライトは元兄の名前。今はジャンだったね」
ジャンは、故国の文字で禁術関連のことを書き記したのか。
万一この国の誰かに見られても、意味が理解できないように。
ましてやこの世界にはインターネットも電子辞書もない。他国の文字なんて自主的に学ばないと覚えないだろう。
「ブリッツの屋敷にあるエスペランサの本や手記を全部調べても、術に関する記載はなかったらしい。オレならヤマトの文字がわかるからね。一族の失態を詫びる意味も込めて、解読の協力を申し出たんだ」
犯罪者に堕ちた兄の名前を口にするカイトは、表面上は平静に見える。テーブルのスタンドに立ててあったメニューを取り、ステラちゃんに差し出してウィンクした。
「ステラ。お茶とケーキをおごるから、食べ終わったらちょっと話を聞いてよ」





