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55/69

55 対面、鬼シリアとキシリア。

 キシリア本人と鬼シリアが対面したのは、ジャンを捕えた翌日のことだ。


 ヴォルフラムがトゥーランドット伯爵夫妻に一連の事件の真相を説明する。


 犯人がジャンだったこと。

 ジャンの目的がキシリアを聖女……ひいては王妃にしないこと。

 キシリアの心は白猫の中に閉じ込められ、ジャンに監禁されていたこと。

 ステラちゃんが聖女になったあとにキシリアをもとに戻して、その御礼としてキシリアを嫁にもらう算段だったらしいということを伝えた。


 伯爵が声を荒らげ、応接テーブルを拳で叩く。

 あまりの勢いで、ティーカップのお茶が溢れた。


「なんということだ。あの男……よくもキシリアにそんな真似を!! 極刑になったとしても許せん! それにお前たち魔法士団員がしっかりしていたなら早く気づけただろう!!」

「……ジャンの蛮行に気づくことができず、事態をここまで長引かせてしまったこと、魔法士団一同、心よりお詫び申し上げます。ご息女にもどれほどの心労を強いたことか」


 ヴォルフラムは伯爵の怒りを全て真摯に受け止め、深々頭を下げる。


 バカでかいテーブルを挟んで伯爵夫妻、反対側にヴォルフラムとステラちゃんが座る。ステラちゃんの後方では、シルヴァが背筋を伸ばして控えている。


 ステラちゃんの膝の上には、白猫のキシリアがいる。

 絹のショールを羽織った婦人が、ステラちゃんに話しかける。恐る恐る、キシリアネコに手をのばす。


「貴女、ステラさんと言ったわね。もう一人の聖女候補だという。…………このネコが本当にわたくしの娘なの?」

『にゃー、信じてはいただけないでしょうが、わたくしはキシリアです。お父様、お母様。どんなにお会いしたかったことか』


 ステラちゃんがキシリアの言葉を訳して婦人に伝える。婦人は涙にくれ、キシリアを抱きしめる。愛おしそうに、白い毛並みを撫でる。


「そう、そうなの。ごめんなさいね、キシリア。貴女の中に別人が入ってしまっていたなんて、わたくしは、わかっていなかった。だめな母親ね……」

『そんなことありませんわ、お母様。こうしてまた会えて、嬉しいです』


 歪な形でも、親子の再会が果たせたのはよかった。

 けど、最後に一つ、どうしても解決しなければならない問題がある。

 キシリアを元の体に戻すこと。

 それには何をしたらいいのか、俺たちは何も知らない。禁術と呼ばれるだけあり、失われた術らしい。術者であるジャンを締め上げて、方法を聞き出さないといけない。


『わたくし、今の自分の体がどうなっているのか知りたいわ。わたくしの体の中には、別の誰か……おそらくこのネコの体の本当の持ち主がいるのでしょう?』

「伯爵婦人さま。キシリアさまが、自分の本当の体のところに行きたいと」

「…………そ、そうよね、貴女自身の体のことですものね」


 ステラちゃんが訳し、婦人は言葉を濁した。あ、キシリア嬢が鬼シリアと対面したら絶対ショック受けるな……。なんたって中身が鬼島。メイドにも暴力を振るう悪魔のような女に成り下がっている。しかも身だしなみに気を使わないという。


「いいわ。あなたとステラさんだけ、部屋に通しましょう。殿方は遠慮してくださいな。キシリアは嫁入り前の娘ですし」


 俺は婦人から完全スルーされている。ハハッ。殿方に含まれないよね、ネコだから。

 鬼シリアが何をやらかすかわからないし、俺はステラちゃんたちについていく。




 やはりというかなんというか……初日はあんなにキレイだったキシリアの部屋は、見るも無残な汚部屋と化していた。物がそこかしこに散乱している。

 夫人はキシリアネコをじゅうたんに降ろした。


 鬼シリアは相変わらず髪の毛ボサボサバスローブで長椅子に寝転がっている。ステラちゃんは、貴族の令嬢どころか女子と思えないようなだらしない姿に絶句した。


『にゃにゃにゃにゃ、にゃんなのこれは!! わたくしの部屋が!! あなたなんなの!? わたくしの体でこんなにみっともない真似を!!』

「ぁあん!? 何だお前、薄汚いネコが何を偉そうに」

『偉そうなのはあなたのほうでしょう! それにあなたが扱っているその体はわたくしのものです! そんなふうに粗雑に扱わないでくださいませ!』

「ケッ。てことはお前十代後半になるかならないかの小娘だろ。成人もしてないガキがこの俺に指図するな」

『にゃあーーーー!!!』


 …………予想はしていたが、鬼シリアとキシリア嬢、最悪の出会いである。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ホーンテッドキャンパスという小説の第1巻の終盤を彷彿とさせるような展開ですな(ぇ あ、読めば分かります( ̄▽ ̄;)
[一言]  そーね、どうやって元に戻すかって問題がありますね。
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