53 対決、事件の黒幕を追い詰めるにゃ!
五月のはじめ。日本で言えば大型連休ゴールデンウィーク真っ只中だ。
乙女ゲームの世界にゴールデンウィークなぞ存在しないから、ただの平日。
魔法士団が束になってジャンの屋敷に向かう。魔法士を率いる隊列の先頭にいるのはヴォルフラムだ。
これより魔法士団は一連の事件の主犯、ジャン・ブリッツの捕縛に向かうのだ。
そしてその隊列の中に俺&ステラちゃんもいる。
屋敷の中のどの部屋にキシリアネコが囚われているのか、見たのは俺だけ。そしてネコがキシリア嬢だと確認できるのはステラちゃんだけ。(鬼シリアは明らかにこの任務に不向きなので頭数に入れない)
魔法士団に混じって歩きながら、ステラちゃんは不安げな顔で杖を握りしめる。
「イナバちゃん。キシリアさまは怪我してないよね? 無事に助けられるよね?」
『俺が会ったときは無傷だったにゃ。ただ、ペット用の檻の中に入れられて、鍵をかけられていたにゃ。鍵はジャンが首に下げていた。檻を壊すか、鍵を取り上げないとにゃ』
俺の説明に、ステラちゃんは深く頷く。少し前を歩いていたアルベルトが振り返り、持っていたなにかを、ステラちゃんの手のひらに落とした。
金の台座に赤い石が埋め込まれた、革のチョーカーだ。
「え、なんですか、これ」
「お前にやる。あのクモから取れた魔石を加工したマジックアイテムだ。自分で持つか使い魔につけておけ。団長……いや、ジャンさんが何をするかわからないからな」
「ありがとうございます。じゃあ、イナバちゃん、おいで。つけてあげるね」
あ、俺につけるの? ステラちゃんは有無を言わさず、俺の首回りに魔法石のチョーカーを結びつける。
「イナバちゃんはいつも無茶するから、お守り」
『そんにゃことないにゃー。俺はいつだって慎重派』
『クァクァ。ガケからおちるネコがシンチョーなわけはない』
トンビにツッコまれた。俺は鳥に言われるほどヤンチャですかい。
ブリッツ家の屋敷の前に、ヴォルフラム、アルベルト、ステラちゃん、そして多くの魔法士が集う。
執事の中でも偉いのだろうふんぞり返った老執事が、屋敷から出てきて憤慨する。
「面会の予約もなしに失礼な! これだけの人数でいきなり押しかけて、なんの用向きですかな」
「ジャン・ブリッツは本日を持って魔法士団長を解任された。全権限は私、ヴォルフラムに移譲されている。王命により、ジャン・ブリッツを殺人罪、脅迫罪、禁術使用の容疑者として連行する。ジャンを出してもらおう」
ヴォルフラムは老執事に冷たく言い放つ。
「そ、そんな、由緒正しいブリッツ家の坊ちゃまがそのようなことをするわけがなかろう!」
かわいそうに、主は無実だと信じて疑わない老執事は両手を広げ、己を盾にして道を通さんとする。
「無実なら調べても何も出ないだろう。それとも、調べられたらまずいことでもあるのか?」
「そ、そんなことは……」
「捜査の邪魔をするのなら、公務妨害によりお前を逮捕することもできるが、どうする」
顔色一つ変えない魔法士たちに囲まれ、老執事は道を開けた。
『行くにゃ、ステラちゃん! この先、三階の奥にゃ!』
「うん。行こう。キシリアさんを助けないと!」
俺は先陣をきって駆け出す。ステラちゃんも俺を追って走る。何ごとかと驚く使用人たちを無視して目的の部屋へ直行する。
三階の、キシリアが囚われている部屋。
窓から外の様子を見て、状況を把握していたんだろう。
ジャンはキシリア嬢を閉じ込めたネコを抱えていた。
『イナバ! ステラも! 本当に来てくれたのね!』
「キシリアさま!! ジャンさま、キシリアさまを離してください!」
ジャンはきつく目を細め、まっすぐに手を突き出す。ジャンの手に青白い雷が集まる。
「ふん。黙って聖女になっていればいいものを。邪魔をしようというのなら容赦はしない。消えてもらうぞ、ステラ」
『ステラちゃんに手出しはさせないにゃーーーー!!』
ステラちゃんは、魔法を跳ね返すような術をまだ教わっていない。弱っちいネコの俺でも、避雷針代わりにはなるはずだ。
今飛ばなきゃ絶対後悔する。俺はステラちゃんの前に飛び出した。





